SoCからの発熱は増大
次の世代が「透けて見える」ハードウエア構成
他方で、体感的に変わったのが「発熱」と「バッテリー充電時間」だ。バッテリー充電時間の方は、iPad 2に比べ5~6割伸びているという印象。電力・電圧が不安定な環境※1では、iPad 2に比べて充電時間がぐっと長くなる場合も、少なくないだろう。
※1 特にUSBケーブルで、モバイルバッテリーなどのアップル社外品環境で充電する場合。
iPad 2や初代iPadは発熱が少なかったが、第3世代ではそれが顕著な場合がある。特に大きいのが、3Dグラフィックスを多用するゲームの場合だ。映像配信サービス「Hulu」を1時間見続けた場合。本体裏から見て左側が26度であったのに対し、右側下は28度まで上がった。iPad 2で同じことをした場合、温度は26度のまま変わらなかった。
アクションゲームの「Infinity Blade II」をプレイした場合、プレイ開始後20分で左側は27度、右側下が32度まで上がった。iPad 2の場合、全体が27度のままであったのにだ。ただし1時間プレイしても、温度は32度から33度の間であった。
発熱源はかなりピンポイントで「縦に持った際に左手が握るあたり」にある。そのため、発熱に至った際に目立ちやすい、というのが実情ではないか、と感じる。第3世代iPadのA5Xプロセッサーはかなり大規模なSoCであり、処理負荷が高まった際の発熱も大きくなる。当然、その分消費電力も高いだろう。発熱の原因はおそらくSoCであり、ゲーム時には確かにちょっと気になる。通常使用でも、iPad 2に比べると「ほんのり暖かい」とは感じる。だが、この差はパソコンの発熱に比べればたいしたことはなく、それほど気にするようなものではない。
むしろ、現状の第3世代iPadで「大容量バッテリー」+「発熱」という状況にあると考えた場合、SoCのプロセスが向上する(であろう)次世代のiPadでは、バッテリー容量の問題も発熱の問題もある程度解決するのだろう、という予想がつく。第3世代iPadはディスプレーも、バックライトをiPad 2向けのものに比べて倍にした、かなり消費電力の大きいものになっている。ディスプレーパネルの省電力化(正確には、透過度向上によるバックライトの削減)が行なわれれば、よりバッテリー消費を減らせるはずだ。
この点を考えると、第3世代iPadは、一見「iPad 2の改良版」と見えつつも、「Retina第一世代」的なものなのだ、と感じる。おそらく来年にはハードウエアコンポーネントをさらに進化させて、快適さを増すことだろう。
正直に言えば、単なるモバイルデバイスとして使うなら、iPad 2でも第3世代iPadでも、できることは変わらない。特に日本の場合、第3世代iPadで導入されたLTEでの通信もできないわけで、なおさら変わらない。
だからといって「来年まで待て」と、冷静に言える程度の出来ではない。間違いなく第3世代iPadは「一度使うと戻れない」魅力を持っている。「コンピューターとはなにか」を考える上で、「紙に近いサイズ」と「紙に近い解像度」の両方をもったデバイスというのは、こんなにも示唆に富んでいたのか、と思わされる。使いながら「あー、そういうことかー」という感慨にひたりたい人には、買い換えをお勧めする。
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筆者紹介─西田 宗千佳
1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、アエラ、週刊東洋経済、月刊宝島、YOMIURI PC、AVWatch、マイコミジャーナルなどに寄稿するほか、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。近著に「電子書籍革命の真実 未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「災害時ケータイ&ネット活用BOOK」(共著、朝日新聞出版)、「形なきモノを売る時代 タブレット・スマートフォンが変える勝ち組、負け組」(エンターブレイン)、「リアルタイムレポート デジタル教科書のゆくえ」(TAC出版)。最新刊は「スマートテレビ スマートフォン、タブレットの次の戦場」(アスキー・メディアワークス)。
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