コミュニティに対してオープンになるということ
―― この一連のアナログシリーズは、独特の立ち位置にあると思うんですね。たとえば、monotronの回路図を公開して、Makeの「もっとも優れた説明書部門」にノミネートされましたけど、ああいうことは普通の楽器メーカーではありえないわけです。
坂巻 ないですよね。びっくりしましたよ。
高橋 あれはすごい嬉しかったです。
坂巻 ねえ、嬉しかったよね。
※ オープンハードウェアを提唱する米国の雑誌、Makeの「もっとも優れた説明書部門」には他にタミヤとLEGOがノミネートされた。(Makey Awards 2011 Nominee 04: Korg Monotron, “Best Product Documentation”)
―― 回路図というと設計上の秘密も含まれるわけで、公開に反対の声はありませんでしたか?
高橋 あれはユーザーからの要望があったんですよね。
坂巻 世界中から。じゃあやるしかないかなと。社内でも一つずつ話して、OKもらいましたし。反対の声は全然ないと言っていいくらいなかったです。だって、昔は当たり前のように回路を公開していたじゃないですか。マニュアルに付いていたりとか。
―― 大昔のテレビなんかは裏ブタに回路図が貼ってありましたよね。
坂巻 それにエレキギターだって、当たり前のようにカスタムするじゃないですか。もちろん楽器メーカーの保証外でやるわけですけど、それで自分の音をつくりあげるというのも楽器らしい。そういう動きを促進したいというねらいもありました。
―― Make:Tokyo Meetingもそうですが、こないだのM3にも出展されていましたよね。市井のクリエイターに混ざって、こうしたイベントにメーカーが参加するのは珍しいことですが。
坂巻 僕はもともとM3に興味があって、実際に観に行ってみて、これは絶対出展したいと思ったんです。それで会社を説得して。
高橋 開催日が楽器フェア(関連記事)の1週間前だったんですよね。一番忙しいときにやめてくれって言われたんですが。
坂巻 でもM3はすごく楽しかったですよ。だってM3は皆さん音楽に興味のある方が集まるわけでしょう? 出展者が音楽を作っている人ですから機材にも興味あるでしょうしね。だからすごい人が集まって。
―― ブースでは何を出したんですか?
坂巻 monotoron/monotribeを並べて、社員がひたすらライブをやってたという。あとは、展示会とかで使ったアウトレット品のmonotribeやmonotronを販売したんですが、イベント開始と同時に人だかりができて、1時間も経たないうちにmonotribeは売り切れてしまい。
―― それはすごいじゃないですか。
坂巻 CD売れないとか言っている時代に、みんな一生懸命試聴して買ってるじゃないですか。あれ感動しますよね、こんなに音楽好きな人がいるんだって。僕らの製品を知らない人も多かったんですが、ちょっと試してすぐに「これください」って買って行っちゃう。monotronも40台くらい持っていったのに全部売り切れてしまいました。
―― 自分たちのコミュニティにKORGが入ってきてくれてうれしい、というのもあるかもしれませんね。ユーザーが側から見て、もともと距離感の近いメーカーというのもあるし。
坂巻 その意味だと、こないだDOMMUNE※を見に来てくれた人がいて、その人とTwitterで話すようになって、なんか盛り上がって焼肉行って、そのあとmonotribeをシンクさせて3時間くらいライブやって、終電逃したりとか。
※ 8/4(木)の「GEEK x PLAY #2」に、坂巻さん、高橋さんの二人で出演。共演はDECO*27、コバルト爆弾αΩ、ヤマハTNR-i開発者の水引孝至さん、DETUNE佐野信義さんなど。
―― はははは! なにやってるんですか。むしろ近すぎる気がするくらいですが。
坂巻 いや、もっと距離近くしたいんですが、どうしたらいいんですか?
―― じゃあ今度はM3で皆と並んで音楽売ったらどうですか。KORGにはミュージシャンとしてもすごい人が揃ってるんだから。
坂巻 ねえ、コンピ作る? マジで。
高橋 ああ、コンピやりましょう!
坂巻 実はね、ちょっとやってみたいと思ったんですよ。いいなあ、KORGレーベルとか。
高橋 いいっすねえ。じゃあ僕は仕事している時間中に音楽が作れるっていう。やったー!
坂巻 それはダメ!
著者紹介――四本淑三
1963年生まれ。高校時代にロッキング・オンで音楽ライターとしてデビューするも、音楽業界に疑問を感じてすぐ引退。現在はインターネット時代ならではの音楽シーンのあり方に興味を持ち、ガジェット音楽やボーカロイドシーンをフォローするフリーライター。
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