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IT技術者に未来はあるか? 第3回

自らもグローバル能力を身につけよう

IT技術者に吹き付けるグローバル化の風とは?

2011年05月19日 06時00分更新

文● 政井寛/政井技術士事務所 代表

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リーマンショック以来の2年間、IT技術者は企業のIT投資削減の影響でリストラに怯え、クラウドの登場で自身の技術の陳腐化を憂い、中国、インド技術者との競争にしり込みする日々であった。この先否応なく巻き込まれるグローバル大競争の時代に、どう生き残ればいいのか?本連載を通じて、ITサービス企業とIT技術者に問いかける。第3回は、グローバル化により、企業活動の中でITとIT部門がどのような変化にさらされるか見てみよう。

海外のITサービス企業をベンダーを買収する理由とは?

 日本の企業がグローバル化を目指すケースでは、その企業のIT部門・IT技術者は海外関係会社のIT部門を統括したり、海外アウトソーサーとの交渉や管理業務が任される。このミッションをこなすには従来のITの専門能力に加えて、「グローバル能力」が必要になる。

 また、この日本企業を顧客としていたITサービスベンダーは、自身がグローバル企業に脱皮できなければ他のグローバルITサービスベンダーにとって代わられることになる。最近では、NTTデータがアフリカや米国のITサービス企業を買収している。これは、自身がグローバル化することで、グローバル化する日本のユーザー企業との取引を継続することが主たる目的の1つなのである。

 日本に進出してくるグローバル企業を、新規のITサービスのユーザーとして取り込む方法はある。しかし、こうした企業の大半はIT拠点を日本に置かず、シンガポール、香港、上海等を東アジアのセンターとして展開するケースが多い。その理由は、人件費、IT能力(言語能力も含めて)、税金などの面で、これらの地域の方が日本より圧倒的に有利だからである。日本のIT技術者は、唯一日本のITユーザーとの接点だけに存在すればよいという判断で、日本人IT技術者が活躍する場はあまりない。

 もう一面、IT企業がソフトウェア商品を開発して輸出する方法がある。かつて日本企業(主に製造業)が挑戦して成功した道でもあり、製品を媒介にした海外進出は可能かもしれない。しかし、日本発のソフトウェアプロダクトは過去も現在もほんのわずかであり、輸出実績もほとんどない。まして、今まで言語バリアーに保護されてきた日本ITサービス企業が、そのまま海外向けのITサービスに進出するのは、自殺行為に等しい

 サービスビジネスは人的スキルがポイントであり、異文化コミュニケーションやダイバシティー・インクルージョン(マネジメント)※1が不得手な日本人としては、勝負する土俵ではない。ここでも、従来の日本のIT技術者を有効に活用できそうな場所はなかった。それどころか、自らがグローバル人材として脱皮しなければ、今までのIT経験を生かして将来展望を描くことすら難しい状況が見えてきた。

※1ダイバシティー・インクルージョン(マネジメント) ダイバシティー・インクルージョン(Diversity Inclusion)は、集団の多様性を受け入れ、それぞれの特徴を知った上で集団のパワーを引き出すリーダシップの手法。ダイバシティー・マネジメントと呼ばれることもある。

 結局、日本のIT技術者にとってグローバル化は、活躍の場を広げることよりも仕事を奪われる可能性が高い。グローバル化に対抗して生き残る方策は、自身がグローバル人材に変貌すること以外にない。この点については、次回以降に再び触れることにする

オフショアの失敗

 さて、ITビジネス業界でグローバルといえば、オフショア開発がすぐに思いつく。しかし、いろいろなITサービス会社が人件費の低さにつられて進出し、海外オフショア開発を推進した挙句、トラブルに見舞われ痛い目にあった。この経験はどの会社も例外ではない。

 その原因としては、

  1. コミュニケーションが上手くできない
  2. 相手側の融通がきかなくて仕様変更問題でトラブルが頻発する
  3. ITのレベルが低くてプログラムの品質が悪い

など言われていたが、最近になってようやく本質的な問題を見過ごした当然の帰結であると認識されつつある。これは、システム構築のプロセスを共有化していなかったこと、発注側(この場合日本側)の問題が大きかった。

 そもそもシステム構築には、エンジニアリングプロセスとマネジメントプロセスが存在する(図1)。マネジメントプロセスは最近まで明確に定義されず、部分的にエンジニアリングプロセスの一部として扱われていた。オフショア開発や大型プロジェクトでは、マネジメントプロセスの全体を定義してお互い(委託側と受託側)が共有し、重視しないと、たとえ海外でなく国内で開発場所が離れているだけでトラブルを量産してしまう。

システム構築の工程

 このような試行錯誤を経て、今や大型のシステム構築は海外のオフショア開発を多用しても問題がないことが、常識になった。日本に進出している海外の大手ITサービスベンダーでは、「日本国内で受注したシステム構築案件を、海外オフショアに徹底するために発注部門の責任者を外国人に入れ替えた」との話も聞こえてくるほどである。

 もうひとつ見逃せないのは、インフラ系の技術領域のITサービスビジネスである。この技術領域は、ますます複雑になりプロフェッショナル化する傾向にある。現在、一部のユーザー企業、ITサービス企業、コンピュータベンダーなどに所属して、センターシステムやサーバーシステムの運用を担当している技術者は、センターの集約化とともに減ってゆくことになる。またこの技術領域には、「言語バリアー」は存在しない。そのため、ポテンシャルの高いインド、中国のIT技術者に役割を席捲されることは容易に想像できる。

 どちらにしても、グローバル化は現在のIT技術者にとって全くの向かい風になる。開き直って、自らグローバル能力を身につけるほか対策はない。

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