このページの本文へ

IT技術者に未来はあるか? 第5回

これからは能力が高い人ほど有利な雇用環境に!

自ら変革できる環境を求めよう

2011年06月02日 06時00分更新

文● 政井寛/政井技術士事務所 代表

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

リーマンショック以来の2年間、IT技術者は企業のIT投資削減の影響でリストラに怯え、クラウドの登場で自身の技術の陳腐化を憂い、中国、インド技術者との競争にしり込みする日々であった。この先否応なく巻き込まれるグローバル大競争の時代に、どう生き残ればいいのか?本連載を通じて、ITサービス企業とIT技術者に問いかける。第5回は、技術者が属する職場の環境からの影響と自身の成長を考えてみる。

職場の環境を考える

 人は高い志を抱いても、日常の瑣末なことに忙殺され時に挫折を味わい、志を持ち続けていくことは簡単ではない。また反対に、よいリーダーやつねに刺激ある人たちに囲まれて育つと、自分ではそれほど意識しなくても、結果として成長していることが多い。

 人が成長し変革するためには環境が重要であることを認識し、自らの環境を刮目し、時には思い切って新しい世界を求めることも必要である。そこで、それぞれのIT技術者が所属する企業や組織が、自分にとって変革を促してくれるかどうかを評価する方法を考えてみよう。

目標となるリーダーの下で成長する

 まず第1は、目標になるリーダーの存在である。人は身近な上司や先輩たちに一番影響され、成長する。成長するか否かは、これらのリーダー次第であるといっても過言ではない。もちろん、そのような人材が存在するのはその上のリーダー次第であり、最後はトップの力量に帰することになるのだが。よいリーダーとは、仕事だけでなく組織行動や社会との交わり、さらには人間性を高めることも教えてくれる。

 よいリーダーのもとでは次のよいリーダーが育つ、そしてよいリーダーのもとでポテンシャルの高い人材はフォローシップを発揮して、組織が活性化される。こうしたポジティブスパイラルが作られ、高い次元でお互いが切磋琢磨できる環境は、願ってもないことである。

 第2に、所属企業の経営・企業風土を考えてみたい。これらは短期的な影響力は小さいため、軽視されがちだ。しかし、日常の積み重ねの中でじわじわと浸透し、価値観や行動様式に影響を与えるので、一番に重視しないといけない。経営者が経営ビジョンや理念を徹底することで、共有の目的意識を醸成し、多様な社員の目的や方向性が束ねられる。ビジョンや理念を作成したり掲げたりすることは簡単であるが、肝心なのは実践することにある。

 そのためには、トップ自らが機会をとらえ、何回も粘り強く繰り返して、組織や社員の一人一人に浸透させることだ。その結果、社員同士の議論でビジョンや理念を取り上げたり、部下や後輩への指導などに活用するようになっているか。このような展開が行なわれていると、技術者だけでなく社員すべてが持っている能力以上の能力を発揮し、意識しないうちに組織も個人も変革し成長していくものである。所属している企業や団体の文化や風土を、第3者的な視点で点検してみることを勧める。

ダイバシティー・インクルージョン

 もう1つの重要なテーマは、「ダイバシティー・インクルージョン」である(図1)。日本社会や日本企業は地勢的な問題、歴史的な経緯で単一民族、単一価値観があたり前のこととして成り立ってきた。

ダイバシティー・インクルージョン。ダイバシティー・マネジメントと呼ばれることもあるが、“マネジメント=管理”と連想される日本ではニュアンスが変わってしまう。そのためここでは、インクルージョンを使うことにする。

 しかしここにきて、働く人たちの特性や属性は、あっという間に多様化してきた。まず、国籍相違がある。職場や取引先でいかに外国人が増えてきたか。次は、性別相違である。男女同権や女性の社会進出、さらにはニューハーフの認知など、それぞれ個別の事情に配慮する必要がある。もちろん、世代間相違も見逃せない。バブル入社世代、就職氷河期世代、ゆとり世代は、それぞれに特徴があり、行動様式も違うといわれる。シニアとなっても働く団塊の世代もある。

 これらの集団をまとめて1つのパワーにすることは、容易ではない。従来の画一的なマネジメント手法では、到底通用しないのである。ダイバシティー・インクルージョンは、このような多様性を認めつつ、組織のビジョンを明確にしてお互いのコラボレーションの環境を整え、組織の力を最大限に発揮する。

 もう1つ、ダイバシティー・インクルージョンの環境では、個人のライフキャリアの存在が重要になる。多様性の中で自分を見失わないよう、大きなゴール(自分のビジョン)を設定した上で毎年見直しをして、3年程度の中期計画に基づいたキャリア形成をする。所属組織と折り合いをつけながら、進めることは言うまでもない。グローバル化で生き残るには、このような組織運営に慣れておくことが必要である。

これからの日本企業は能力が高い人ほど有利に

 最後にビジネスモデルについて触れておきたい。第1回で述べた「ITサービス業界の垂直型分業構造の枠組み」に組み込まれている派遣型ITサービス企業では、技術者を育成する環境としてはきわめて不都合である。仮に経営者が請負型への脱皮を経営方針として掲げていても、派遣ビジネスに慣らされた経営者や幹部のもとでは、本当に脱皮できる可能性は少ない。IT技術者として技術的にも優れ社会人基礎力も持ち合わせている人には、環境を変えることを勧める。とりわけ高度専門技術者にとって、これからの日本企業は、雇用形態は多様化し、能力が高い人ほど有利な雇用環境になってくる。決して安定を求めて萎縮することはない。

 ●

 以上、自分の属する環境を評価する幾つかの視点を紹介した。さらに付け加えれば、現在は過度期であり、正規社員と非正規社員の格差が騒がれている。しかし、将来は正規の有期雇用や一時雇用などが当たり前になり、雇用の多様化が一般化する。高度情報技術者を目指す人は、同一企業で純粋培養されるより、異なる環境を経験しステップアップすれば、より評価され優遇される社会になるはずである。

 また、クラウドが浸透すると、ITサービス分野で知恵とアイデアを武器にマイクロビジネスを容易に立ち上げる可能性が高まる。そこで成功すると、その延長でベンチャー企業を起業することも視野に入ってくる。有能で努力する人にとっては、チャレンジできる機会が間違いなく到来する。IT技術者として志を高く掲げ、来たる社会に挑もうではないか。

カテゴリートップへ

この連載の記事

アスキー・ビジネスセレクション

ASCII.jp ビジネスヘッドライン

ピックアップ