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電子書籍を選ぶ前に知っておきたい5つのこと 第4回

実は重要! よくわかる電子書籍フォーマット規格!!

2011年01月27日 22時00分更新

文● 海上忍

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フォーマットから2011年の国内電子書籍動向を読む

 「電子書籍元年」と呼ばれた2010年は、さまざまなサービスやデバイスが登場した。これまで事業規模に差はあれど「一国の主」であり続けた出版各社も、電子書籍の流通を睨むと連携に踏み切らざるをえなかったか、印刷会社や取次会社、端末メーカーや通信会社と手を組むケースが大半を占めた。

 その企業間の共通語となりうる存在が「電子書籍フォーマット」だ。共通のフォーマットを採用することは、ビューワーを一本化できるという点で消費者のメリットとなり、制作コストを抑制したり、デザインなど技術的なノウハウを蓄積しやすいという点で出版側のメリットとなる。一本化しなければ、どのフォーマットで読むかという紙の時代には考えにくかった選択を消費者に迫ることとなり、制作コストや技術面における出版側の負担も増えてしまう。

 電子書籍自体に形はないが、データとしての永続性を求められるサービスであるだけに、一度開始してしまうと容易には変更できない。出版物という文化を支える要素でり、ある意味で公共性をも備えることから、フォーマットの選択は重要といえる。ここでは数ある電子書籍フォーマットのうち、2011年に大きな動きが見込まれる「EPUB」と「電子書籍交換フォーマット」について解説してみよう。

EPUB

 GoogleやApple、ソニーなど大手企業が運営する電子書籍サービスに標準フォーマットとして採用されたことから注目を集めたEPUBは、2011年前半にも新バージョン(EPUB 3.0)がリリースされる予定。このバージョンではHTML5の成果を多数取り込み、ビデオ/オーディオやインタラクティブ性を持たせることが可能になるなど、リッチメディア機能が大幅に向上した。単なる紙の置き換えに留まらない、新媒体としての電子書籍の可能性を広げるという意味でも、EPUB 3.0の機能の豊富さは注目を集めることだろう。

 EPUB 3.0は、日本人にとっては縦書きが正式サポートされることが大きな意味を持つ。完全に紙を置き換えできるほどの柔軟な運用は難しいものの、方向が右から左/左から右という2種類の縦書き用ライティングモードが(CSS 3の機能として)サポートされることで、これまでEPUBに対し積極的でなかった企業の方針も変わる可能性がある。

イースト、一般社団法人日本電子出版協会(JEPA)、アンテナハウスは、「新ICT利活用サービス創出支援事業」(平成22年度/電子出版の環境整備)の「EPUB日本語拡張仕様策定」によって、Safari、ChromeなどのWebKit系ブラウザー、iBooksなどの電子書籍ビューワー、Android OSで、日本語組版の実装が進んでいることを発表した。最新のWebKit開発版(Nightly Build)では、CSS 3に採用予定の縦書きがいち早く実装されている

 ウェブブラウザーの動向にも要注目。XHTML/CSSでのデザインを基本とするEPUBは元来ウェブとの親和性が高く、EPUBリーダーのiBooksはオープンソースのHTML描画エンジンWebKitを採用している(関連記事)。

 そのWebKitの最新開発版がいち早く縦書き表示をサポートしたということは、EPUB 3.0の正式勧告後間もなくビューワーや作成ツールなどの製品が登場する可能性を意味しているのだ(関連記事)。WebKitがこの状況ということは、「近い将来、Appleが進めるiBooksおよびiBookstoreになんらかの動きがあるかも」という見方も、あながち先走ったものではないはずだ。

電子書籍交換フォーマット

 昨年は総務省と経済産業省、文部科学省を中心とした「デジタル・ネットワーク社会における出版物の利活用の推進に関する懇談会」、通称「三省デジ懇」が設置され、国内向け電子書籍フォーマットに関する話し合いが持たれた。その成果として注目されるのが、いわゆる「中間フォーマット」、現在では名を変えて「電子書籍交換フォーマット」と呼ばれるものだ(「電子書籍中間(交換)フォーマット統一規格とIEC62448改訂」、PDFファイル)。

 ここでいう電子書籍交換フォーマットとは、国内で豊富な実績を持つXMDFと.bookが協調することで、出版物の制作側からの要望にも対応しうる統一規格を策定、交換時に参照することで異種電子書籍フォーマット間の橋渡しを行なおうというもの。代表提案者は日本電子書籍出版社協会、共同提案物者には印刷大手のほかにシャープとボイジャーが名を連ねている。

 誤解されがちだが、この電子書籍交換フォーマットは「消費者レベルでの閲覧」を目的とはしていない。以下に挙げる総務省の資料にもある通り、既存の電子書籍だけでなく、紙の書籍や印刷データをも対象とした、複数ある電子書籍フォーマットのうち意図するものへの変換を目指しているのだ。

 要は、「この形式で保管していれば未来にわたり資産として活用できる」フォーマットであり、コンテンツホルダーたる出版社だけでなく、端末による区別なくすべてのコンテンツを入手できるようになる消費者にとっても、メリットが大きいと考えられる。

総務省が公開した「平成22年度 新ICT利活用サービス創出支援事業 採択案件(10件)概要一覧」より抜粋

 しかし、正念場はこれから。XMDFや.book、EPUBなどの複数フォーマットに対応した変換ツール(ソフトウェア)の開発には時間を要すと考えられ、その間にもEPUBなど国外を中心に策定が進められるフォーマットは仕様が見直される。時間がかかれば、それだけ(電子書籍交換フォーマットの)変換ツールがカバーする電子書籍フォーマットは旧仕様となる可能性が高くなるのだ。

 意義はあるかもしれないが、実用的かどうか、普及するかどうかはまた別の問題。できるだけ早く運用に供されることが重要で、電子書籍を巡る諸々がかなりのスピードで推移している。IEC62448改訂版として策定を終えて、国際標準として発行される想定スケジュールが2012年第3四半期となっており、その動向に注目したい。


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