本物の音をカジュアルに
DSの神髄は高い音質と利便性の両立であると書いた。
ハイエンドのオーディオシステムというと重量級のコンポーネントに巨大なスピーカーを組み合わせた大がかりなモノを想像してしまいがちだが、MAJIK DS-IはLPジャケットをひとまわり大きくした程度のサイズ(381×355mm)で、厚さはわずか8cm。コンパクトで重量も4.9kgと軽い。
これにスピーカーをつなぎ、有線LANと電源ケーブルを差し込めばそれだけで設置が済んでしまう。豊富なデジタル/アナログ入出力端子を持つため、さまざまな機器との連携が可能だが、これだけの音質を得られる製品としては、究極的にミニマムなシステムと言ってもいいだろう。
それでいて、内蔵する100W+100Wのアンプ(Chakra)は駆動力が高く、大型のスピーカーシステムでも余裕を持って扱える。
操作性に関しても卓越している。ネットワークオーディオというとテレビ画面や小さなフロントパネルで分かりにくいフォルダーをたどって選曲。日本語の曲名表示もままならないといった製品も散見されるが、そんな心配はない。
Kinsky Desktopというソフトを利用して、パソコンから操作することも可能だが、無線LANが導入された環境であれば、より簡単なのはiPod touchやiPadをリモコンにして楽曲を再生する方法だろう。「PlugPlayer」「SongBook」「Konductor」など、汎用のUPnP/DLNA対応コントロールソフトがAppStoreで入手できるため、それを購入してインストールする。
音楽データもパソコンのローカルではなく、Tonkey MediaなどDLNAサーバー機能を持つNASに保存しておけば、リッピング以外の操作をPCレスで実現できる。最近ではリッピング機能付きのNASも販売されているので、さらに手軽に使う方法もある。
変わるHi-Fiシステム、ひとつのあり方
音楽の需要の仕方は、ここ数年で大きく変わった。放送で音楽を知り、パッケージメディアを買い、カラオケで歌ったり、コミュニケーションの手段として活用するという、かつての消費スタイルも大きな転換期を迎えている。
冒頭で引用した日本レコード協会が発表した資料では、過去半年間で音楽を利用するため、どのようなサービスを利用したかについても聞いている。結果は、YouTubeが49.6%とトップ。テレビ放送の44.1%を上回った。ニコニコ動画(23.9%)など、それ以外の動画共有サービスも上位につけた。
ネット配信も少しずつではあるが、認知が進み、圧縮音源ではなくスタジオマスターに匹敵する24bit/96kHzの高音質で提供する配信サービスも増加傾向にある。LINNはオーディオメーカーでありつつ、自社のレコードレーベル(LINN Records)も持っている。インターネットを通じた高音質配信にも熱心だ。
LINNのDSシリーズは、こうした変革しつつある音楽環境を象徴する存在のひとつだ。LINNは昨年末、CDなど光学ディスクを再生するためのプレーヤの生産を完了すると発表したが、これも業界に驚きを持って迎えられた。
うがった見方をすれば、その背景には、部品調達が限られ、業界としてもシュリンクの傾向があるSACDや、新規格が続々と登場するサラウンドシステムなど変化の激しいフォーマットを追いかけていくことへの困難さもあるのだろう。上に述べたLINNの思想とは矛盾した、ある層を切り捨てる行為でもある。
しかし、アナログとDSという二つのフォーマットに絞るという決断は、今後のHi-Fiシステムのあり方について、ひとつの方向感を示している。オーディオブームが全盛だった過去とは異なり、音を聴くためだけに数十万円使うというユーザーの数は著しく減っている。
一方でオーディオ業界は(ユーザーを含めて)非常に保守的で、ハイエンドというと、物量投入型の仰々しいシステムという認識が根強くある。これではゼネラルオーディオからステップアップする層が増えるとは思えない。
手軽で、生活に溶け込み、CDの資産を活かしつつ、いい音が聞ける。LINNのMAJIK DS-Iは、現状そんな魅力を提供できる唯一の製品かもしれない。LINN DSシリーズは、二極分化したオーディオ市場の懸け橋になるのだろうか。
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