祝帰還!「はやぶさ」7年50億kmのミッション完全解説【その5】
「はやぶさ」は浦島太郎!? 宇宙経由の輸出入大作戦
2010年06月16日 12時00分更新
本来30秒で終わったところを50時間かけて精密誘導――2010年5~6月
5月27日、TCM-2が終了。地球辺縁部への誘導が完了した。さらに6月5日、TCM-3も終了。地球との距離は約360万kmとなり、オーストラリア ウーメラ制限地域への帰還が確実となる。
TCM-3の噴射時間は、約50時間ほどであったが、プロジェクトマネージャの川口氏によれば、化学エンジンを使った噴射であれば約30秒ほどで終わったはずだという。運用計画やプログラムなどをいかに大きく書き換えての目標達成であるかが伺える。「杖をついた重病人」とたとえられる「はやぶさ」の状態ではあったが、案じられたイオンエンジンも安定して期待に応えていた。
再突入、それは「はやぶさ」本体も――2010年6月
6月9日には、最後の精密誘導TCM-4が行なわれた。TCM-3で3~400km程度のエリアに誘導された「はやぶさ」は、さらに精度の高い誘導で予定地域にカプセルを再突入させるという。誤差1kmとのことである。そして、「はやぶさ」本体も突入して燃え尽きる。
可能ならもう一度、弾丸発射コマンドを試したい
矢野 2005年のタッチダウンのとき、もし弾が撃たれなかったとすれば、探査機には今でも弾が残っているわけです。もう一回、撃つコマンドを実行してみたいなとは思います。もっとも、今や「はやぶさ」は重病人で、弾を撃った衝撃でひっくり返ってしまうかもしれませんから、カプセルを離すまではできませんが。
カプセルを離した後の残された時間で、5年前のことを確かめる時間があるのなら、私としてはやってみたい。もう確かめることは何もない、それでもまだ通信ができてコマンドを打てるタイミングがあって、なおかつプロジェクトがそれを許してくれればですけどね。
それなりの重さがあるカプセルを離すと、探査機はふらふらになりますから、通信はあんまり潤沢にとれないとは思うんですよ。でも「はやぶさ」は1bit運用といって、通信の強度を見るだけで、どのくらいの周期でまわっているのか、どちらを向いているのかということがだいたいわかるんです。
最悪の場合、撃ったというコマンドが帰ってこなくてもよくて、信号強度とふらつきの周期さえわかっていれば、タイマーで仕込んだ弾を撃つタイミングを境に「はやぶさ」のふるまいが変われば、それは撃ったんでしょうと。また、変わらなければ2005年のときにイトカワで撃っていたんでしょうと。
この5年間に装置が壊れてしまったという可能性もありますから完全に白黒はつきませんが、やらなければ白黒つけられる可能性はゼロですから。
サンプラーホーンという部分を担当してきて、7年間「はやぶさ」と付き合ってきて――みんなそうだし、開発を入れれば10数年の付き合いでもあります――ひとりひとりそれなりの決着の付け方がありますけど、カプセル担当とサンプラー担当は最後の日まで決着がつかないので。私も自分のなかで決着をつけたい。
分離後のコマンド実行は?
2010年6月13日、はやぶさの再突入カプセル切り離しから、通信途絶となる22時28分30秒まで、航法カメラONC-Tによる地球撮像が試みられていたことは、速報でもお伝えした。
大きく乱れた姿勢を立て直すため、キセノン生ガス噴射と残り1基のリアクションホイールによる制御の結果、時間はかかったものの、地球を捉えた画像を残している。
このとき、ほかの機器は動作しなかったのだろうか。インタビュー中で矢野氏が希望していた、カプセル分離後の弾丸射出コマンドは実行されたのか? 6月14日午前0時、帰還直後に行なわれた記者会見にて、プロジェクトマネージャの川口淳一郎教授に伺った。
――最後にいくつかの機器の動作確認をされたということですが、それはどういった内容ですか?
川口 レーザー高度計の電源をもう一度入れて、レーザー発光させてみるというのがあって。やってみましたが、時間がなくて温度を上げられなかったので無理でしたね。
――プロジェクタイルの発射をもう一度やってみたいというお話があったそうですが。
川口 カプセルを分離するとき、火工品をふたつくらい動作させてるんですよね。火工品が長時間経っても動作するかについては、それでわかりましたから、あえてそれ以上無理する必要はないわけですね。
そしてカプセル分離後は姿勢の安定に時間がかかったので、そこで撃ってしまうと、ひょっとしたら電力不足で死んでしまう恐れがあったので、自殺させることはないと。
というわけで、どうやら弾丸発射コマンドの再実行は行なわれなかったようだ。ただ、カプセル分離の過程において、打ち上げから7年経った火工品が動作したことは、今後のサンプラーホーン開発にとっても明るい材料だったといえるのではないだろうか。
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