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次世代を支えるシャープのLED技術(後編)

LED AQUOS──世界の亀山で見た高画質を支える光

2010年04月08日 11時00分更新

文● 遠藤諭、ASCII.jp編集部

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熱に泣かされた経験が、LED AQUOSを変えた

 省電力というイメージの強いLEDだが、それでも発熱はある。実際XSシリーズを開発した際には「眠れないほど、熱に泣かされた」と高倉氏は話す。

 一般に直下型のLEDバックライトで薄型の本体を実現するためには、使用するLEDの数を増やす必要がある。LEDの光は直進性が高いため、密集して配置しないとパネルが均一に光らないためだ。

高倉 「発熱を抑えるためには、まず電流をどこまで絞るかが重要になります。次に効率よく放熱すること。LED電源基板が熱源になるのですが、シミュレーションで解析して、適切な場所に穴を空ける。この際、テレビの上面に穴を空けると煙突効果で効率よく排熱できるのですが、ホコリやエアコンの水滴などが入ることを避けるため、AQUOSでは空けないのがポリシーです。しかもファンレスで実現するという難しさがあります」

取材では工場の見学もでき、記事には書けないこともいろいろと伺いました。液晶テレビの奥深さを感じさせる充実した1日でした

 XS1開発時の反省をもとに、LX1ではまず最初に熱の設計に時間を割き、開発当初から完成形をイメージした取り組みが行われた。

高倉 「XS1の経験から、LEDバックライトでは放熱処理が本当に難しいと言い続けてきました。LEDは発熱しないというイメージを持っている人が増えてきましたが、実は放熱処理が一番難しいのです。パネルとバックライトができたから、それにカバーを付ければ完成というわけではない。狭い場所にぎっしりとLEDを敷き詰めれば、熱による劣化の影響を受けるので、寿命にも関係してくる。LEDの明るさは、温度によって変わることも考慮に入れないといけません。また、生産の過程で調整がいるとか、修理に手間がかかるといったことはすべてコストに跳ね上がってきます」

 LED AQUOSでは、使用するLEDの数をXS1に比べてかなり少なくしている。LEDの光がパネルにうまく回るよう工夫した。

 広げられた光は隣どうしが相互に重なり合うよう配置され、少ないLEDの個数でも輝度も色もうまく混ざったムラのない画質が得られる。

熱い開発者の戦いの裏には、LEDの放つ熱との戦いもあったようだ

 LEDの個数を減らすということは、単にコストだけの理由ではない。XS1の開発時で開発者を悩ませた「発熱」をなるべく抑えたいという意図もある。その意味でもうまく機能しているのだ。

取材後記──行った、見た、知ったシャープのLED技術

 シャープの亀山工場といえば、海外のショウでも大々的に「KAMEYAMA」とアピールしているのをご存じだろうか? 液晶テレビを技術でリードするシャープが、「AQUOS」という商品名とともに“工場”の名前を、世界に向けてブランド化しているのだ。それだけの自信を持つ亀山工場とはどんなところか、今回、初めて見学させてもらって「なるほど」と思った。

LED AQUOSの楽しさを満喫

 液晶テレビといえば、海外メーカーも交えて、いまもっとも競争の激しい家電製品の1つ。したがって、“工場見学”といっても建物には入りながら我々はそれを小さな窓から覗くだけなのだ。しかし、亀山工場の凄さはそれだけでも十分に堪能できた。仕事がらエレクトロニクス機器の工場に見学に行くことは多いのだが、工場全体がまるでロボットのように統合されて動いている。

 1枚から何画面分も取る巨大なガラス板を扱う。液晶材料をガラス面に滴下する。東京ドームにチリが何個というような条件が作られている。要するに、規模と精度とクリーンさの3点のすべてを実現している。加えて、広大な屋根を覆った太陽光パネルや液晶パネルの製造過程で大量に使う水の100%再利用など、環境面の配慮も十分である。

 これだけ生産性や環境など総合的に配慮した理想の工場なら「KAMEYAMA」と同社がブランド化したくなるのも分かるというものだ。

主要デバイスを自社で開発できる意味

 今回、工場見学とともにお話を伺ったのは、「LED AQUOS」。直下型といわれるLEDを液晶の真後ろに配置したモデルである。LEDバックライトであることで消費電力を下げることができるが、画面が暗くなっては元も子もない。バックライトには、さまざまな仕組みが開発されてきているが、暗くしても安定して光るLEDと透過率が高いUV2Aパネルの組み合わせで、単なるスペックではない実用性に即した「黒の締り」「高いコントラスト比」を実現したのはシャープならではだ。

 シャープは液晶パネルやバックライト用のLEDを外販しているので、他社でもそれを購入すれば同等以上の画質が得られると考える人がいるかもしれない。しかし話はそう単純なものではないようだ。パネル・バックライトの特性を十二分に知り、それぞれの特長を最大限に生かすための調整があって初めて最高の画質が実現できる。それをスピーディーかつ納得できる価格で市場投入するために自社開発のメリットは大きい。

 時には必要性の低い仕様を敢えてそぎ落とすという英断も必要になるだろう。4月からエコポイントの基準が見直しとなったが、画質だけでなくエコも考慮に入れた取り組みも見なければいけない。シャープのLED AQUOSは画質の良さはもちろんだが、消費電力の低さでも注目すべき製品だ。

 ちょうど、亀山工場が生産性や地震対策、環境対策などの点でも、ベストなバランスを選んで作られているように見えるのと同じことだ。液晶テレビ自体も、採用する技術についてコストや性能が決まってくる。その点、液晶直下型の「LED AQUOS」は、“いま買いのスペック”であることが今回の取材で得た結論である。

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