iPhoneにあって日本のケータイにないものは?
昨年、日本の携帯電話業界の最大の話題は、アップルのiPhoneの成功だった。最初、海外でiPhoneが登場したとき、「あんな機能は日本のケータイには全部ある」と冷ややかにみる向きが多く、デラックスな端末に慣れた日本のユーザーはiPhoneのような単純なスマートフォンには魅力を感じないだろうと予測されていた。
しかし昨年7月にソフトバンクがiPhone 3Gを発売すると、瞬間風速で携帯電話の45%ものシェアを獲得し、その後も順調に売れて、ソフトバンクの端末としてはトップだ。6月に出たiPhone 3GSは、ソフトバンクの端末の55%を超える圧倒的な売れ行きを見せた。
その理由はいろいろ考えられるが、iPhoneにしかない特長は「App Store」から世界のユーザーが作ったアプリケーションをダウンロードして使える仕組みだ。これはかつてiモードが、ユーザーの作った「勝手サイト」によってヒットしたのと似ている。ところがそのiモードの海外展開ではハードウェアと一体化しようとしたため、失敗に終わった。
またiPhoneはiTunesなどのソフトウェアと連携してPCとデータ交換できるなど、システムとしての設計がすぐれていて使いやすい。もちろん、おしゃれなデザインも人気の秘訣だろう。要するにiPhoneが日本の端末よりすぐれているのは、技術ではなくコンセプトなのだ。これは優秀なエンジニアや精密な製造技術によって生まれるものではなく、スティーブ・ジョブズという経営者のセンスによって生まれたものだ。
アップルにあって日本の製造業にないのは、こうしたシステムとしての設計や美的なセンスをもつ経営者だ。だから夏野氏もいうように、ガラパゴスの中には日本の製造業がよみがえるヒントがある。新しい世代のリーダーが個人のリスクでイノベーションを起こすことができれば、日本のすぐれた要素技術は生きる。そして「クラウド」などによるインフラの低コスト化で、そのチャンスは広がっているのである。
筆者紹介──池田信夫
1953年京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退職後。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は上武大学大学院経営管理研究科教授。学術博士(慶應義塾大学)。著書に「ハイエク 知識社会の自由主義 」(PHP新書)、「情報技術と組織のアーキテクチャ 」(NTT出版)、「電波利権 」(新潮新書)、「ウェブは資本主義を超える 」(日経BP社)など。自身のブログは「池田信夫blog」。
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