月100円で利用できるセキュリティーソフトも
なぜ消費者が正規版を求めるのだろうか。それは、セキュリティソフトは日々ウイルスデータベースを更新するものだから、アップデートできない海賊版では価値がない、というのが大きな理由だ。
ウイルスの脅威は前述の通り、様々なメディアや口コミで口を酸っぱくして言われており、それがセキュリティソフトの重要性を後押しする。
もう1つの大きな理由は価格の安さ。中国メーカーは、月10元(約150円)で提供している。キングソフトの「インターネットセキュリティ」中国版(金山毒覇)に至っては、支払い方法を選ぶことで月6.25元(約100円)で利用できる。
ダウンロード版は利用できる期間を長くすれば長くするほどお得となり、例えば瑞星のセキュリティソフトは半年もの間、30元(約450円)で利用できる。
店頭で購入できる正規のパッケージ版も、100元(約1500円)前後で購入ができる。
多様な支払方法が正規版普及に一役
支払い方法が多様なのも正規版普及に一役買っている。一部の例を挙げると、
- ソフトベンダーサイトのフォームに携帯電話番号を入れて、携帯電話利用可能残額(中国の携帯電話はプリペイド方式)から引き落とす方法
- 固定電話の電話代やADSLのプロバイダ代と一緒に支払う方法
- 人気のオンラインショッピングサイト「淘宝網(TAOBAO)」で利用される第三者支払いサービス「支付宝(Alipay)」を利用した支払い
- 人気のオンラインメッセンジャー「QQ」で利用されるバーチャルマネー「QQ幣」による支払い
- オンラインバンキングによる支払い
- 代引きでの支払い
など数多くある。これだけ選択肢があれば「仕方ない買ってやるか」という気にさせるのである。
ユーザーはセキュリティソフトに対して、「安くて買う手間がそれほどかからないこと」と、「毎日のようにアップデートする必要があること」から金を落とすのである。
コンテンツビジネスの鍵のヒントは、このセキュリティソフト事情にヒントが隠されているかもしれない。
「先進国コンプレックス」への配慮も必要
ただ、ひとつ余計なことを言わせてもらえれば、2007年にシマンテックが同社のセキュリティソフトのアップデートで、簡体字中国語版Windows XPに必要なファイルを消去し、OSを起動不可にする、というミスを犯した。
このとき、普段から「中国の製品より、外国の製品のほうがいい」「外国メーカーは中国には手抜き商品を売っているに違いない」という根拠のないコンプレックスを抱いている中国人は、怒り心頭となり、巨大な不買運動に発展。一部の消費者はシマンテックを相手取って損害賠償を請求する裁判沙汰にまで発展した。
中国人消費者の抱く先進国コンプレックスは、日本人の想像の上を行くので、中国進出を考えている企業はこの前例を知っておくべきだ。
山谷剛史(やまやたけし)
フリーランスライター。中国などアジア地域を中心とした海外IT事情に強い。統計に頼らず現地人の目線で取材する手法で,一般ユーザーにもわかりやすいルポが好評。当サイト内で、ブログ「中国リアルIT事情」も絶賛更新中。最新著作は「新しい中国人~ネットで団結する若者たち」(ソフトバンク新書)
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