モバイルの要
バッテリは合計3種類
写真9 ACアダプタも携帯用に小さくなっている(MT2シリーズも同様)。幅42×奥行き88×高さ26mm程度で、重さは約230g。全長は3m強といったところだ。 |
添付される標準バッテリの容量は1800mAhとさほど大きくはないが、メーカー公表のバッテリ駆動時間は約3.2時間とまずまずの数値である。モバイルノート定番の大容量バッテリもオプションとして用意されているが、ユニークなことに中容量バッテリなるものも存在する。大容量バッテリの駆動時間は約9.5時間とタフだが、装着時は本体後部の厚さが約2倍になってしまううえ、バッテリのサイズもかなり大きい。これでは小さく扱いやすいMM1の利点をスポイルしてしまいかねない。そこでモバイル性能をなるべく損なわず、かつバッテリ駆動時間もそれなりに伸ばしたいというユーザーの声に応えたものが、サイズと駆動時間のバランスの取れた中容量バッテリというわけだ。サイズはさすがに標準バッテリと同じとはいかず、装着時は本体後部の厚さが1.5倍前後ほどになるが、バッテリ全体がちょっと膨らんだ程度で、大容量バッテリのように使い勝手に支障が出るようなレベルではない。中容量バッテリの駆動時間は約5.7時間。標準バッテリとの2本体制にすれば、9時間近いバッテリ駆動時間が確保できる。もちろん標準バッテリもオプションにあるので、駆動時間、サイズ、どちらも重視の3種類のバッテリが用意されているわけだ。なかなか気の利いたラインナップである。
基本スペックは低め
体感速度も高くない
CPUはトランスメタのTM5800-867MHzを採用する。モバイル向けノートPCは、このTMシリーズかインテルのMobile PentiumIIIを採用しているマシンがほとんどだが、前者はバッテリ駆動時間が長くよりモバイルに特化したCPU、後者はバッテリ駆動時間とCPUパワーのバランスが取れたCPUというのが一般的な見解だ。MM1はTMシリーズを採用していることからも、CPUパワーよりもモバイル性能に注力しているマシンであることが伺える。メインメモリは256MBを標準搭載するが、拡張用のメモリスロットはなくこれ以上増設することはできない。HDDはPC向けとしては最小となる1.8インチHDDを採用し容量は15GBとなっている。液晶は10.4インチのTFTパネルで表示解像度は1024×768ドット、視認性は良好だ。グラフィックアクセラレータは省電力に優れたSMIのLynx 3DM+を採用する。3D描画性能はほとんど期待できないが問題にはならないだろう。
マシン全体のスペックを見渡してみると、小型化と省電力化のためにスピードが犠牲になっているのは明らかだ。実際に使ってみてもスピードの遅さは体感できるレベルであり、何かを操作をするたびに引っかかるような一瞬の間を感じることが多い。CPU、HDD、画面描画のそれぞれが一線級のマシンよりも低いスペックなので仕方がないとはいえ、速いマシンに慣れているとかなり不満に感じてしまうかもしれない。 なお、PC-MM1は発熱の少ない省電力CPUを採用していることもありファンレス設計となっている。密閉度も高いためHDDの駆動音もほとんど聞こえず、動作中は「ほぼ無音」である点は高く評価したいポイントだ。
ストロークは小さいが
コシのあるタッチのキーボード
写真10 前ページの写真から受ける印象と比べてみていただきたい。広げてマシンを使い始めると、かなり広々とした印象を受ける。キーボードは使い心地よく静か。 |
モバイルノートで重要となるポイントの1つにキーボードが挙げられる。小さく薄いボディに極限まで詰め込むと、キーボードに割けるスペースが小さくなり、満足のいく操作感を得られない製品も多い。
初代MURAMASAであるPC-MT1-H1は、薄型ボディではどうしても浅くなってしまうキーストロークを補うため、ポップアップ式のキーボードを搭載することで3mmものストロークを確保していた。だが、PC-MM1ではそのポップアップ式キーボードは採用されず、キーボードはいたってスタンダードなものとなっている。キーストロークは1.7mmと浅めだが、適度にコシのあるタッチなのでストロークが浅いキーボードによくあるスカスカ感は感じない。キー配列もクセはなく極端にデフォルメされたキーも存在しない。右ALTと右CTRLのサイズが小さく位置も把握しづらいこと、ファンクションキーが小ぶりなことなど、気になる点もいくつかあるが、タッチ感を含めた操作性はなかなか良好であり、キーボードに関しては合格点に達していると言えるだろう。ポインティングデバイスはスライドパッドで、ボタンは左右クリック用の2ボタンのみ。スクロール用のボタンは装備しないが、Synaptics製ドライバによりエッジスクロールなどの拡張機能が提供されているので操作性は良好だ。
B5ノートは買い物ゲームでは済まない。
インテグレートをブランドの価値につなげていく。
シャープパソコン事業本部 事業部長
川森基次氏
ガラス基板上に実装されたZ80(写真をクリックすると当該記事に移動します)。 |
いわばシャープの思想と言うべきものが形になったのがMURAMASAシリーズなのだ。このような話を聞くと「形ありきなの?」と思われるかもしれないが、それは違う。薄くなってもPCとして使えることがシャープ開発陣に課せられた揺るぎない条件であり、心意気でもある。だから、MURAMASAの第一弾であるMTシリーズでは単体で使える高スペックを実装したし、第二弾のドライブ付きMURAMASAであるMVシリーズにはなんと、パラレルポートまで取り付けてしまっているのである。そして、今回本稿にてご紹介しているPC-MM1-H1Wも、「2台目以降のユーザーが対象」という観点からHDD容量が15GBになっているなどの制限はあるものの、手に持ったユーザーは必ず「いいねー!」の声を発するレベルになるのだ。
ここまでは同社の製品そのものに対する思想を紹介したが、マーケティング的にはどのように考えられているのだろう? シャープ パソコン事業のキーマンである、パソコン事業本部 川森基次氏は、現在のPC市場をA・B・Cと大まかに3つに区切って考えている。Aセグメントは一体型省スペースデスクトップや、デスクトップ代替PCの世界。シャープではWindows 95の時代から続いているメビウスシリーズなどがこれにあたる。そしてCセグメントはどこかでPDAと重なる部分のある、超小型デバイス的な分野。そして中間のBセグメントが、「デスクトップの代替ではない、真のモバイル」セグメントだ。MURAMASAシリーズはこのBセグメントに位置する。ここで要求されるのは、“モバイルも当然だが、この1台ですべての作業を使い回すファーストマシン”だ。Bセグメントにおいては、いくら携帯性がよくともキーボードの打ちやすさが損なわれるような小型化は許されない。するとやはり薄型化という流れになっていくわけだ。シャープとしては小型の部類に入るPC-MM1-H1Wですら、10.4インチの液晶サイズと、約17mmのキーピッチを備えているのは、このBセグメントに属するからである。
川森氏はまた、「パソコン作りは買い物ゲームのようなものになっている」と語る。これはつまり、各パソコンメーカーは、よりコストパフォーマンスの高いパーツを買い集め、アセンブルして出荷するのが主な仕事になってしまっており、ユーザーのパーツ買い物代理人のようなことになってきている。ユーザーも作る気になれば自分でマシンを作ることができる。デスクトップPCの世界は特にそうなのだが、これがB5ノートになるとそうはいかない。買い物だけではなくて「インテグレート」という命題があるからだ。MURAMASAの薄さへの追求などはよい例だろう。そしてシャープは、この「インテグレート」の部分を、ブランドの価値につなげていくという。
“MURAMASA” PC-MM1-H1Wの主なスペック | |
製品名 | “MURAMASA” PC-MM1-H1W |
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CPU | Crusoe TM5800-867MHz |
チップセット | ALi M1535 |
メモリ(最大) | SDRAM 256MB(256MB、うちCMSに16MB使用) |
ディスプレイ | 10.4インチ(1024×768ドット) |
ビデオ | SMI Lynx 3DM+ |
HDD | 約15GB |
FDD | オプション(外付け) |
光メディアドライブ | オプション(外付け) |
スロット | PCカード(TypeII×1) |
I/O | USB 2.0×2、外部モニタ |
通信 | 10/100BASE-TX、無線LAN(IEEE802.11b) |
バッテリ駆動時間 | 約3.2時間(標準)、5.7時間(中容量)、9.5時間(大容量) |
サイズ(W×D×H) | 251×206×13.7mm |
重量 | 約0.95kg |
OS | Windows XP Home Edition |
アプリケーション | PC-MM1クレードル活用、HD革命/BackUp Lite、乗換案内 時刻表対応版、ブロードバンドチェンジャーほか |