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松村太郎の「デジタルとアナログの間」 第4回

松村太郎の「デジタルとアナログの間」

遊びを誘発する箱──「Pixel Factory」と岡田氏

2008年12月01日 12時00分更新

文● 松村太郎

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時間と記憶に手で触れる

 岡田氏は映像に関連する道具を作り出してきた。Mac上で動くデジタル的な作品もあれば、アナログ的な側面を強く感じる作品もある。しかしそこに一貫して流れているコンセプトは、手で触れられること、そして時間と記憶のプロセスに関係していることだ。


岡田氏 もともとファミコン世代なんです。ビットアイコンやそれが自分のキー操作で動く感覚が好きでした。それをきっかけに、アニメーションや映像に興味を持っていました。例えば、ゾートロープやフリップブック※1のような、手で触って映像を再生するモノは、とても魅力的です。

※1ゾートロープやフリップブック 連続した静止画を動いているかのように見せる器具。前者は回転のぞき絵、後者はパラパラマンガ


Emortoscorp

Emortoscorp

 例えば「Emortoscorp」は、フィルムビデオカメラと映写機を組み合わせたような小さな道具。映像を記録する機能はないが、ねじ巻きを巻いてからファインダーをのぞくと、コマ数の少ないオールドムービーのような映像が目に入ってくる。デジタル高画質と逆行したアナログが持っていた味を再現する道具だ。

 また、秒間24、30、60コマを記録/再生するビデオカメラの方式に挑戦する作品もある。


岡田氏 動画には記録されなかったコマとコマの「間」が存在している。この間のない、途切れることのない映像を作ることはできないか?


Time Scanner

Time Scanner

 「Time Scanner」という作品では、写り込んでいる人や物体が長く伸びていく。ちょうどビデオ編集ソフトでイン点からアウト点までを選択したように、被写体がそこに存在している様子が面で表現される。体や腕を連続的に動かすと、その面の面積が変わる。その面の模様を作るように動いていると、いつの間にかダンスをしている自分に気づく。

Time Scanner




岡田氏 自分自身の動きと映像によるインタラクションは面白い。以前この作品を展示したとき、30分以上踊り続けた女性がいたくらいです。


 そしてもうひとつ、「Delay Mirror」は現在の映像と2秒遅れの映像を鏡写しにして見せる、非常に奥が深い作品だ。

 デザインタイド※2にも出展したこの作品は、これまでの日常生活で一切見たことのなかった2秒前の自分──記憶に残る前の自分をすぐに見せられるというのが不思議だ。10年や1年前はさすがに懐かしさがあるが、2秒前の懐かしくも何ともない自分であれば、意外と冷静に客観視できる。自分の仕草を意識した動きになる。

 この感覚は、どこか時間と記憶の関係性が狂わされた、未体験のモノに触れた瞬間の混乱に近いかもしれない。しかしそれに長く触れていくと、遊び方や活用法などの道具として使うアイデアがわいてくる。岡田氏の狙いはこの辺りにある。

※2デザインタイドトーキョー インテリア、プロダクト、建築、グラフィック、ファッション、アートなど多様なジャンルの作家たちの作品が一堂に会するイベント。今年は10月30日〜11月4日に東京ミッドタウンで開催

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