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松村太郎の「デジタルとアナログの間」 第3回

松村太郎の「デジタルとアナログの間」

アナログシンセは同志──「モーグIII-C」と松武氏

2008年11月25日 18時00分更新

文● 松村太郎

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松武氏所有のシンセサイザー「モーグIII-C」

松武氏所有のシンセサイザー「モーグIII-C」

ゲスト●松武秀樹氏

1951年生まれ。作/編曲、プロデュース、シンセサイザーマニピュレーター、ミキサー。シンセサイザー/コンピューターミュージックの可能性を追求し、1978年〜1982年にはシンセサイザーマニピュレーターとしてYMOの活動に参加。現在はユニット「LOGIC SYSTEM」の活動のほか、モバイル、ネットワーク環境でのコンテンツ・技術の開発を手がける。



電気を音に変えるシンセの原点

 シンセサイザーの実用化は60年代。米国のロバート・モーグ博士(1934〜2005年)の手によるものだった。

 現在はシンセサイザー=デジタルというイメージが強いが、モーグ博士によって作られた最初のシンセサイザーはアナログ。これは電気信号に変化を加えながら音を作る楽器だった。オシレーターで音質やキャラクターを、フィルターで音色を、そしてアンプで音量の変化を設定する。こうして作った音の設定に、時間的な変化を組み合わせて音を出すのだ。


松武氏 彼の功績は電気信号を音楽に変えたこと。「モーグ」というシンセサイザーのシリーズは、電圧が1V上がると音が1オクターブ上がるというルールで音階がつけられた。電気が音に変わるのがシンセサイザーの原点で、これはアナログ/デジタルを問わず、いまでも同じこと。


 松武氏が1973年に初めて触れたシンセサイザー「モーグIII-C」は、鍵盤や音源ボックスがまとまった現在のシンプルなシンセからはほど遠く、大量のパッチとツマミが整然と並ぶ電気を制御する巨大な箱だった。その価格は1ドル360円の時代で6000ドル、関税も高かったため、購入費用は1000万円に近かったという。

 ケースとなる木枠が運搬中に割れやすいため保護用の金具を付けたところ和風のタンスのような風貌になったことから、松武氏はこのモーグIII-Cのことを「タンス」と呼ぶ。


松武氏 現在のシンセサイザーは、温めるだけでできる、ある程度おいしいレトルトカレーのようなもの。一方「タンス」は、カレー粉やじゃがいも、にんじん、肉などの材料がまな板に置いてある状態で、そこから毎回、自分の味(音)を作らなければならない。プリセットなんてなかったから、電源を入れても操作なしには同じ音が出せない。さらに演奏する前に2、3時間電源を入れて暖めておかなければ、いい音が出てこなかった。

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