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山谷剛史の「中国IT小話」 第35回

中国では松下のままの「Panasonic」

2008年11月11日 09時00分更新

文● 山谷剛史

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 2008年10月1日に松下電器産業は、日本と海外で一斉にパナソニックへと改名した(関連記事)。「Panasonic」のブランドが世界的に浸透しているからというのが理由だ。

 しかし、今もなお松下で貫き通して、パナソニックへの改名を行なわなかった国がある。それが中国である。中国における英語名・中文社名について、パナソニック現地法人がリリースする製品とその人気ぶりなどを四方山話的に紹介する。気軽に読んでいただければ幸いだ。

中国のパナソニックのWebサイト

中国に「Panasonicの文字はないのか?」というと、中国版Webサイトには「全世界でPanasonicになった」ことを大きくアピールしている。しかし……


英名から漢字への当て字の法則
――うまい当て字は難しい

 中国でも、日本人が訪れるような大都市部においては、受験戦争が日本以上に過酷だ。その尋常でない過酷っぷりは、NHKのドキュメンタリー番組でも紹介されるほどだが、人口で見ればその大半が受験戦争に巻き込まれることはない。

 受験戦争を経験した中国人の英語力もまた日本と同様にテストで高得点を取るための勉強であって、高等教育を受けたからといって、外国人と対峙したときに英単語や英文法が頭の引き出しからすぐに口へアウトプットされるわけではない。

 また、若者の多くが英語を読めないし話せない。海外の情報を知ることができるインターネットを利用していても、若者の人気を圧倒的に集める中文ポータルサイトが存在するので、中国人の感覚からすれば「あえて英語サイトを見る必要はない」わけだ。

 さらに、外国(中国国外)で人気を席巻するサービス、例えば「Second Life」であったり、「Facebook」であったり、ないしは「mixi」なんかも、いつの間にかそれにそっくりな中国版サービスが登場しているので、これもまた敢えて本国本家のサービスを利用する必要がないのだ。

 では中高年はというと、彼らはインターネットを利用する気のない世代である。なぜかというと文革(文化大革命)を経験した世代なので、インターネット利用世代以上に英語を使いこなす人は少ないのが現実だからだ。

 そんなわけで、ソニー(中国語では「索尼」)もキヤノン(同「佳能」)もマイクロソフト(同「微軟」)もトヨタ(同「豊田」)も、横文字の企業はみな漢字名を使うのが中国では常識だ。日系企業を含めて、横文字の企業が中国に上陸する場合には企業名の認知向上のために、ほぼ例外なく漢字名を付ける必要がある。

 漢字よりも英語のほうがメジャーなのは、「ルイ・ヴィトン」や「スワロフスキー」などの、都市で一番の高級デパートでしか売られない超高級ブランドくらいしか思いつかない。デパートと一言で言っても、大都市でも庶民的なデパートに入るテナントには漢字名のものが多くあり、高級デパートになればなるほど、テナントから漢字名のものが減って英語名のブランドが並んでいく。

 そこからは「英語名には高級感が付くが、代償として消費者を限定してしまう諸刃の剣」になるという、中国の現実が見てとれる。

google中国

google中国の画面。URLは http://www.google.cn/ だが、実際には中国人の多くが http://g.cn/ でアクセスしている

 グーグルの中国向け戦略を振り返ると、さらに面白い。グーグルは当初、中国でも「google」という横文字ブランドで中国市場を開拓してきたが、2006年4月に「谷歌」(発音はグゥガ。谷歌は簡体字表記で、日本語漢字の表記では「穀歌」)という中国名を発表して現地化を強調。

 さらにその後で、「googleと正しく入力できない人が多いから」という理由から、2007年10月末に世界最短のドメイン「g.cn」を取得して利用開始した。

コカ・コーラの当て字表記

パナソニックに、このようなうまい当て字が見つかれば、一気にブランド認知も高まるだろう(写真の下の看板はご存じ、コカ・コーラの当て字表記)

 グーグルが谷歌と名乗ったのは、単に発音が似ているから、という理由だけではない。谷歌、すなわち日本語漢字表記で穀歌と名付けられたのは、インターネットを検索して探していた情報を見つける行為が「穀物を収穫する喜びに通じる」ことから、穀物の収穫の歌、すなわち穀歌(谷歌)になったのだ。

 ほかにも座布団を1枚あげたくなるうまい当て字を付けた代表的な企業ではコカ・コーラがあげられる。コカ・コーラは中国語で「可口可楽」、発音にして「カコカラ」というが、意味は可が可能の可だから、「口にできて楽しくなる→飲んで楽しい」となるのだ。炭酸飲料っぽさをうまく伝える当て字だ。

 逆に日本企業の中には、日本では超がつくほど人気が出た製品なのに中国ではまったく売れなかったケースもある。これは「ひらがなの製品名」を「漢字で当て字」にしたところ、卑猥な言葉を連想させるような、山田くんに座布団全部持って行かせたくなるような、そんな製品名だったりする。

 パナソニックが中国において松下から脱却できないのは、ひとつに「英語よりも漢字が基本の中国においては松下の名が浸透し、パナソニックという名が浸透してないため、松下の名を消してパナソニックだけにしてしまうと消費者がなんだか分からなくなる」というのが理由にあるだろう。

 もうひとつには、中国人が唸ってすぐ覚えてくれるような「パナソニック」に相当する「うまい当て字」が見つからない、というのも原因ではなかろうか。中国人消費者の間では、パナソニックを当て字にした「怕那索尼客」「怕那索尼克」が、「あの(那)ソニー(索尼)を恐れる(怕)」という意味になるからじゃないか、という噂も流れている。

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