検索広告の行き詰まり
1年半ほど前、グーグルの二人の創業者はある雑誌の取材に「グーグルの最大の課題はパーソナライズ」だと答えた。
もちろんグーグルには、「Gmail」も「iGoogle」も「Google Apps」もある。同社の収益のほとんどは、いわゆる検索広告だが、これは単に検索結果や表示されるページの内容に合わせた広告を表示するしくみである。
一方、パーソナライズを適切に行なえば、よりユーザーの趣向に合った検索広告を表示できるようになる。例えば「インド」と検索したときに、旅行に興味のない人に「インド旅行」の広告を出しても無意味である。食べ物に興味のある人なら「インド料理」の広告を出したほうがクリック率が上がるというものだ。ところが、パーソナライズということに関しては、最初からパーソナル情報を持っている「Facebook」のようなSNSのほうが有利である。
クラウドコンピューティング時代を象徴する技術として「データポータビリティー」が注目されているが、このままではSNSにやられかねない。データポータビリティーというのは、Facebookの言葉を借りれば「ユーザーのプロフィールや友だち、趣味などのグループの情報を、他のサイトで活用できるようにする仕組み」である。
しかも、SNS内でアプリケーション機能が充実してきたため、グーグルが夢に描いていた「スタートページ」の世界がSNSのほうででき上がりつつある。このままでは、同社の屋台骨である検索広告市場をもおびやかしかねないと、グーグルの創業者たちが心配性なら考えるはずである。
クラウドの最後の砦は端末だった
一方、クラウドコンピューティングが進むと、さまざまな端末で共通の情報やサービスを扱えるようになる。つまり、携帯とパソコンの違いはユーザーインターフェースの違いだけになる。Androidで、自社の検索サービスや地図情報、広告システムなどを提供するのは容易になっているはずだ。
おそらくAndroid携帯は、グーグルの「スタートページ」なのだ。創業者二人が同社の課題だとしたパーソナライズに必須となるスタートページをいつでもどこでも利用できる窓として携帯を捉えている。だから、ここには相当にお金をかけてもいいはずだし、オープンソース化して多数の協力メーカーを引き込むことも有効である。
発表会で世界初のAndroid搭載機「HTC Dream」に触ってきたSさんは、「iPhoneに似ていました」とメールをくれた。
それをいうなら、私はiPhoneのトップ画面を初めてみたとき、海外旅行で使っていた「Visor Phone」や「Treo 600」によく似ていると思ったものだ。それでは、Androidのどこが新しいのか?
iPhoneがVisorやTreoと違ったように、やはり見た目ではないのだろう。個人的に期待したいのは、まったく誰も携帯では想定していなかったようなブッ飛んだサービスである。まずは、「Google Ride Finder」(米国で展開しているタクシーがどこを走っているか地図に表示されるサービス)あたりか? 携帯業界のこれからの課題は、想像力への挑戦となりそうだ。
筆者紹介:遠藤諭
株式会社アスキー・メディアワークス アスキー総合研究所 所長。1985年株式会社アスキーに入社、月刊アスキー編集長などを経て2008年より現職。著書に『計算機屋かく戦えり』『ジェネラルパーパス・テクノロジー』(共著)、『3日で作るPHPアプリケーション』(共著)など。ブログ「東京カレー日記」も更新中。
この連載の記事
-
第6回
トピックス
ちょっと怖い、唐の予言書の話 -
第5回
トピックス
iPhone? PRADAフォン? いやいや“イロモノ”でしょ -
第4回
トピックス
パックマン世界選手権 -
第3回
トピックス
COMPUTEX TAIPEIにはロシア人がいっぱい -
第2回
トピックス
セカンドライフの中の名前 -
第1回
トピックス
Macをはじめよう -
トピックス
遠藤諭の“ご提案”〈目次〉 - この連載の一覧へ