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塩澤一洋の“Creating Reed, Creative Mass.──大公開時代の羅針盤” 第22回

塩澤一洋の“Creating Reed, Creative Mass.──大公開時代の羅針盤”

失敗の創造性

2008年10月19日 15時00分更新

文● 塩澤一洋 イラスト●たかぎ*のぶこ

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シリコンバレーのミクロとマクロ。失敗に寛容な社会の創造性


 失敗が成功や創造のもとならば、社会も失敗に寛容であることが必要だ。どんな人でもさまざまな失敗をするのだから、失敗した人がいたら可能な限り許す。失敗を糾弾するよりも寛容な心、建設的な対応が望ましい。成功を生み創造を育む社会は、失敗を受け入れるのである。

 米グーグル社を筆頭に大小さまざまな新興企業がひしめくシリコンバレーは、実に失敗に寛容な社会だ。新しいアイデアをかたちにしようと、次々と会社が起業される。

 会社を興し、育てる仕組みはシリコンバレーという地域に根付いているから、大切なのはアイデアの中身だ。会社を興し事業化することによって、アイデアの社会的価値を問えるのだ。価値が見いだされれば投資を得られ、市場を獲得でき、しまいに会社自体の買い手が現れる。シリコンバレーはアイデアと企業の孵卵器なのである。

 しかし、アイデアに価値がなければ投資は継続されないし、市場も振り向かない。やがて会社は倒産の道をたどることになる。社会の評価は厳しい。

 大切なのはこのあとだ。シリコンバレーでは、会社をつぶしても、またやり直せる。投資された資金によって会社を運営しているから、会社はつぶれても借金で首が回らなくなることはない。次のアイデアを出せば、別の投資が得られ、経営を支援する人を見つけられる。失敗によって経験値が上がっていることが評価されるから、ある程度の失敗は勲章でさえある。

 このようにシリコンバレーが「失敗を許容する社会」であることが、人々を新たなチャレンジに向かわせ、ほんのひと握りの大成功企業を生み育てているのである。企業の成長は企業の価値を高めるから、それによって生じる資金がまた次の投資に回る、という好循環を生む。


(次ページに続く)

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