モカレイヤードは癒やし系ノート?
――最初にイメージした色ってどれですか?
鈴木:このモノトーンです。先ほどの話にもつながりますが、例えばホームノートでは白ってすごくいい色だと思うのですが、この製品はコンパクトノートなので、家でも使うけれど持ち出しても使うものである。
それを考えたときに、ただ白いだけのパソコンは出尽くしたかなというか。それだけでは面白味もないし、自分だったらもうちょっと、変わったものが欲しいなという思いがありました。だからモノトーン。
ただ白いパソコンよりはちょっとポップで、なんとなく個性的で、なんとなくモダンな感じもして、でも結構普通。そんな感じでしょうかね。
情野:色を決めるときに社内でも聞いたのですが、一番人気があったのはモカレイヤードなんですね。
――そうなんですか?
鈴木:はい。カラーをいくつか作って社内でレビューしてみたのですが、モカは最初のリアクションが「落ち着く」と(笑)。「かっこいい」とかじゃなくて、「なんか落ち着く感じがいいね」といった反応でした。
――あまりパソコンにはない反応ですね(笑)。パソコンだと「かっこいい」とか「高級感がある」とか、尖り系の言葉が並びがちですからね。そこに癒し系の言葉とは。
鈴木:だいぶ癒し系ですね(笑)。
――確かに、これは今までのノートパソコンでは、まず見たことのない色ですものね。そうすると、モカは決めるまで揉めたりしたんですか? モノトーンやピンクは、すんなり決まりそうな印象がありますが。
情野:モカは議論がありましたが、なんとか日の目を見ることになりました。
色の統一にこだわりぬいて
――モカとピンクって、電源ボタンの部分だけ異なった色を使っていますよね。
鈴木:同系色ですが、違う色にしています。モノトーンは分かりやすい形で完成されていると思いますが、例えばピンクとピンク、モカとモカになった場合、「誰かに見せたいデザイン」という意味では、ちょっとインパクトが足りないかなと思いました。
色をテーマにして作ろうというのが最初からありましたので、電源ボタンでいいアクセントを出して……という狙いがあります。
例えばこのピンクですと、電源ボタンと手前のLaVieロゴの色を揃えているんです。
――なるほど。最初に見せていただいた際に、「おっ!ボタンが各色で共有じゃない」というところに目がいきました。
ノート本体のカラーバリエーション展開は、各社ともよく製品化されていますが、ボタン類の色は各色共通とか、カードスロットのダミーカードは全部黒とか、そういったことがある。LaVie Nではボタン類の色を各色で変えてきたところに、「カラーバリエーションに本気だ」と感じました。
こういった点は、製造の段階で確実にコストがかかりますよね。こういう部分まで凝る、きちんとコストをかけるという方向性は、最初からコンセンサスがとれていたのでしょうか。
情野:私はそう考えていました。ですので、今回はかなりデザインや色を優先していますね。
――過去にもNECノートのデザイン画をいくつか見たことがありますが、そのデザインが100%製品に反映されていたかと言えば、そうでもない。ボタンやキーボードの色・形となると、どうしてもコストを抑えて量産化するために共通化されてしまって、元のデザインのテイストが落ちてしまうことがある。それはNECに限らず、どこでもそうでしょう。
しかし今回は、そういった部分までデザイン優先になっていることが、製品の特徴になっている。この「色を優先していい」というのがコンセンサスとして存在するのは、デザインする上でどうでしたか。
鈴木:実は私はノートパソコンをデザインするのは初めてでして、何も知らなかったというか(笑)
――今までは何を?
鈴木:デスクトップを担当したりしました。自分が「あるパソコン」を、その「カラーが好き」で買ったとしたら、細かい部分まで色が統一されているというのは当たり前という意識がありました。
ですので、なんの迷いもなくそういうデザインで進めていきました。
――例えば、ゴム脚の色が本体のカラーバリエーションと統一されているというのは、なかなかないですよね。
鈴木:それで何度か「どこか妥協できませんかね?」と言われたこともありましたが、初めてで何も知らないふりをして、そのままお願いしました(笑)。
ゴム脚などでも、例えばピンクの本体にグレーだったら、自分はがっかりしますね。それが本体と同じピンク色だったら、「すごい、かわいい」となる。良さに簡単につながる要素かなと思います。
だから裏のゴム脚も含めて、全部やりきったという感じですね。
――光学ドライブのドライブベゼルも全色で変えるというのは、けっこう大変ですよね。
情野:一番揉めたのはバッテリーなんです(笑)。
――バッテリーはオプションでそれぞれ4色あるわけですね! そりゃ大変だ。
鈴木:量産に向けた調色も大変でしたね。何回も何回もやりなおして。
――樹脂のパネルだけならまだしも、パネルとゴム脚の調色となると厳しいですね。 今回、ここまで色を統一したことについて、社内的にはどのような評価がありましたか。
情野:最初は生産面での懸念などもありましたが、「そこをなんとか」とやってもらいました。実際にできてしまえば、否定的な声はないですね。
細部のデザインへのこだわり
――モバイルノートはたくさんありますが、裏面がゴテゴテして、持つと見栄えが悪いものがありますよね。それに比べるとLaVie Nは裏もスッキリしていて、「裏まで気をつかっているな」と感じました。
鈴木:サイドのコネクター部分なども、ノートパソコンでは本体から出っ張ったり欠けたりしがちです。でも、そういうのがすごく嫌でしたので、そこも時間をかけて詰めてもらいました。
――逆に言えば、そういうデザイナーのこだわりを、設計側が飲んだわけですよね。こだわりを製品に反映させようと。
これまでのNECのこだわりから比べると、もう一歩踏み込んでデザインのディテールまで詰めた。そこまでしようと決断した理由や背景というのは、どこにあるのでしょうか。
情野:デザインは商品の生命線のひとつだと思っていたので、ここまでこだわって作ったということを、きちんと形にしたかったんです。NECがどこまでできるか、やってみたいという気持ちがあった。
これを見て「変わったね」と言ってもらいたいという思いもあって、うちはうちなりのデザインの深いところを見せたかったんですね。
――そういう意味では、最近のNECのデザインでは、企業ロゴをあまり強調していませんよね。
かつてならこの製品も、天板の中央に「NEC」や「LaVie」のロゴが大きくあったでしょう。ところが今回は、天板にはパソコンの商品名を示すようなロゴの類はまったくない。実はそういうパソコンって、あまりないですよね。そういった点も、狙ったところなんでしょうか。
鈴木:はい。自分がパソコンを買って家や外で使っているときに、企業ロゴが背中に大きく入っているのは、あまりかっこよくないなと。
――私が見たときにイメージしたのが、シンプルなカンペンケース。表面に何もない、完全な金属色のみのもの。あれに近い存在感の薄さ。これくらいの方が確かに、持ち物として主張しすぎないのでいいな、と思いました。
ただ、それでOKとするというのは、かなり冒険ですよね。
情野:「角の方に(ロゴが)欲しいよね」とか、いろいろ意見もあったのですが、あたらしいカテゴリーでそういったチャレンジができるタイミングだったと思います。また、若い人たちの意見として「企業ロゴを主張しすぎない方がいい」といった話をして、それではやってみようということになりました。
これがシンプルでかっこいいとか、おしゃれとか、そういうイメージにつながればいい。そういうイメージをNECのパソコンに持ってもらうということは、非常に大事なところです。
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