ノイズの再現にまで、こだわる
── 実写の世界で、Blu-rayとそれ以前の違いはなんでしょうか。
麻倉 これは一般的な話ですけど、映画の世界からスタートしたBD-ROMで最初にこだわったのは、フィルムの持っている「味わい感」、特に「グレインノイズ」の再現だったと思うんですよ。今日観たガンダムではあまり感じられないんですが、実写作品では現像する際にフィルムに粒状のノイズが出るのですね。これはノイズと言っても、コンテンツの一部であって、これが見えるかどうかが非常に重要なんですね。
DVDではほとんど消えてしまってまったく見えないものですが、Blu-rayでもきちっとフィルムからトランスファーして、エンコードしてっていう段階を経ないと途中で消えてしまうものです。つまりグレインノイズが出ている作品はBlu-ray作品のなかでもかなり貴重なものとなります。
例えば、「パイレーツオブカリビアン」のシリーズはフィルムらしい粒状性の細かいノイズが、圧縮工程を経ながらもきちんと残っています。単に画がきれいなだけでなく、そういう部分でも現代最先端の画質と言えます。
4K、2Kマスターへの移行で、BDの画質は次のステージへ
── 映像の作り方そのものにも違いが出てくるんでしょうね。
麻倉 Blu-rayになって、映画の作成プロセスもがらっと変わりました。マスターテープの画質はリリース作品より上でないといけません。
DVDの時代はハイビジョンマスターでした。SD画質のDVDに対してHD画質のマスターはバランスが良かったんですが、途中いろいろな工程を経て劣化していくわけですから、昔撮ったDVDマスターはBDでは使い物になりません。そのため4K、2Kマスターを使うのが一般的です。
これが入ってきたのが一昨年ぐらいなので、そこから後の作品の質がすごく違うんですよね。
例えば、「フィフスエレメント」には、2006年に出たものと2007年に出たものがあります。DVDを作るときに使ったハイビジョンマスターをそのまま使ったものが最初に出たんだけれど、大変に不評で、使い物にならないと。そこで一から全部作り直したんです。
単純なリマスタリングではなくて、もう一度フィルムをデジタル化するところから始めたんですね。
フィルムをデジタル化する際には、普通テレシネというシステムを使って動画をハイビジョンカメラで撮っていくんですが、現状では4K、2Kに対応したカメラはありません。そこで、ひとコマずつスキャンしていきます。色の深度も4:2:2に対して、4:4:4と非常に深いものにして、さらにコンピュータ上で修復をかける。観比べると全然違います。
これは現代のBD-ROMのひとつの水準と言えます。
ハイビジョンを堪能できるBDソフトは?
── これ以外にもハイビジョンの美しさを堪能できる作品があれば。
麻倉 最近気に入っている作品のひとつに「エディット・ピアフ~愛の賛歌~」がありますね。今年のアカデミー女優賞作品で、撮影監督は日本人です。彼はインタビューで「作中暗い画面が多く、暗い画面にこだわった」と話しています。
暗いシーンでもつぶれないで入っていて、いいテレビで観るとそれがよく分かります。これにより、ピアフの波乱万丈な人生のリアリティーがすごく増してくるんですね。DVDではこういった暗いシーンの深さとかクリアーさが出てこないんですよ。暗部階調の表現はハイビジョンフォーマットならではで、素晴らしいなと。
音楽作品における最近の傑作は「ヘアスプレー」ですね。それから、中島美嘉や松田聖子のライブ。ステージングに、ハイビジョンならではのリアリティーが良く出ているなと。
それと外せないのが、「セリーヌ・ディオン ラスベガスライブ」。映像が素晴らしいし、シルク・ドゥ・ソレイユとの競演も素晴らしい。歌も素晴らしいし、声もTrueHDというロスレスのマルチチャンネルで入っているのですごくいい。何拍子も掛け合わせた作品です。
本編に付属するメイキングも良くできていて、本編のステージと同じ時間軸で、その舞台裏を撮っているんですよ。こんなリアルなメイキングは今まで観たことがないですね。
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