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AV評論家・麻倉怜士氏に聞く

「せっかくの人生、悪い音を聴いている暇なんてない」

2007年06月28日 00時00分更新

文● 編集部、聞き手●遠藤諭(アスキー取締役、CCO)

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タイトル

 「オーディオブームの再来」 最近そんな話題を耳にする機会が増えた。実際、休日の量販店などでは、来店した夫婦が仲良くオーディオ機器の視聴を行なっている場面を多く目にするようになった。

 バブル期に一斉を風靡して以降、長らく氷河期が続いていた高級オーディオの市場。しかし、ここにきて一時期撤退した国内企業の再参入なども続き、久々の活況を呈している。

 一方で、昨年はドラマ『のだめカンタービレ』のヒットに関連したCDが売れたり、“モーツァルト・イヤー”(生誕250周年を祝うキャンペーン)などとも重なり、クラシック音楽に関心が集まる1年になったという。

 このように再び熱気を帯びつつあるピュアオーディオの世界。その楽しさをどう味わったらいいかを分かりやすくまとめたのが新書『やっぱり楽しいオーディオ生活』(アスキー新書)である。手前味噌だが、発売後短期間で重版がかかるなど好調な売れ行きだ。

 今回はこの本の著者であるAV評論家の麻倉怜士先生に、音楽の楽しさ、オーディオライフの楽しみ方の秘訣について聞いた。



“いい音楽”は、においを感じさせるフレーズ


麻倉怜士氏

麻倉怜士氏。日本を代表するAV評論家のひとりで、専門誌に執筆するかたわら、ソニーの企業研究や次世代DVD関連の著作なども手がける。また、津田塾大学で音楽理論の講師として教鞭もとっている

[遠藤] この本の殺し文句は、「音楽性のあるオーディオがいい」ってところだと思うんですよ。音楽が帰着点になっている。「においのあるフレーズ」とでも言うんでしょうか? 「いい音楽」って言葉を読んだ瞬間に、自分にとっての「いい音楽」のイメージが、ふっとよみがえる。言葉から妄想が広がるんですよね(笑)。

[麻倉] オーディオと音楽は、本来そういう関係であるべきなんです。でもオーディオが産業として広がっていくなかで、目標とするものが“ミュージック”ではなく、“サウンド”になってしまった。この装置は低音がいいとか高域が伸びるとか、そういう“音的なメルクマーク”(目印)ばかりが話題に上るようになってしまったのです。

オーディオ装置にとって一番重要なことは“音楽の体積”をどこまで伝えられるかどうかだと思います。音楽にも体積があるんですね。作曲家のイメージを100%とした場合、悪い音で聞かせたら魅力は半減するけれども、いい音にすればそれが80%ぐらいにまで戻る。これこそが本来の意味での高忠実性(=ハイフィデリティー)ではないでしょうか。いずれにしても「どんな音が出るか」ではなくて、「音楽の本質をどこまで伝えられるかどうか」が大切なんだっていう部分はぶれちゃいけないと思いますね。



音が人の感覚に与える影響は全身


[遠藤] 僕ぐらいの年代になると、高級オーディオを趣味にする人たちの気持ち、特におじさんたちの心境が、だんだん分かってくるようになるんですよ。いい椅子に深々と腰掛けて、音の振動を体全体で感じる感覚っていいなぁと。子守歌というか、まるで授乳されるみたいに、与えられるものとして音楽を感じたいって欲求がふつふつと、わき起こってくるわけです(笑)。

遠藤諭

遠藤諭。昔は四畳半でもダイヤトーンのでかいスピーカーで聞いてたのになぁ

[麻倉] 音が人の感覚に与える影響は、全身だと思いますね。つい先日、北ドイツ放送交響楽団の演奏でブラームスの2番を聴いたんです。実はその数日前にも別の会場で同じ演奏を聞いてるんですが、そのときはそれほど感動しなかった。

最初に聴いた東京文化会館の音は素直でフラットなんですよね。それはそれでスタンダード的なのですが、そのあとに聴いた東京オペラシティーの武満ホールは音が濃厚で、ひとつひとつの楽器の音色が手に取るように分かる。そこで聴いて「これはものすごいオーケストラだったんだな」ということが、体感的に、実に納得がいった。

最後にニ長調のトゥッティの和音で「ジャン」と終わったときに、ホールの後ろまでいった残響が戻ってきて、ふわっと私を包むんですよ。響きが本当にこう回りこんで、ある種の衝撃波がやってくる。「おぉっ、きたぜ!」って感じの。音はもちろん耳で聴くものなんですけど、あの時は音を体全体で感じました。そのあとに一瞬の静寂があって、聴衆が「うわぁ」と、(手を)叩く。

こういうのは生でしか味わえない感動です。ブラームスの2番だから曲もいいし、演奏もいいんだけど、それにプラスして、こりゃまことに「音」がいいなと。音楽は作曲者がいて、演奏家がいて、聴衆がいる。この3つの要素がなければ成り立たない。でもこの3つに音響を加えた4つが加わることで、突き抜けた感動がありましたね。僕はクラシックの音楽が好きなんですが、こういう生で感じた体験を、自宅でも再現できないものかと、人はマニアの道に入っていくんです。

お菓子

東京のある超高級ホテルが厚意で作ってくれたという、お菓子細工の『やっぱり楽しいオーディオ生活』。食べるのがもったいない?

(次のページに続く)

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