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日本の宇宙開発最前線 第5回

宇宙基本法が成立

宇宙開発戦略本部長の福田康夫です

2008年05月24日 09時00分更新

文● 小黒直昭

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■運用にかかるこれからの宇宙開発の成否

宇宙基本法

03年3月、情報収集衛星を搭載して打ち上げられる、H-IIAロケット5号機(H-IIAF5)。提供:JAXA

 今回の基本法で、ミサイル監視衛星の保有が可能になるなど日本の防衛産業が拡大することから、宇宙産業に関わる業界は、その成立をとりあえず歓迎しているようです。

 また、宇宙基本法では産業振興のほか、研究開発や国際協力もその理念にあげています。運用態勢では、複数の省庁にまたがっていた宇宙利用の縦割り行政の弊害を打破すべく、首相を本部長とした「宇宙開発戦略本部」を立ち上げ、今後の具体的な執行機関として、内閣府に宇宙局(仮称)を置くことも決まっています。これらのことから、ようやく宇宙開発も国家戦略として扱われると期待感を持つ関係者も多いといいます。

宇宙基本法

現在開発が進む「準天頂衛星」のアンテナのプロトフライト試験の様子。準天頂衛星は最終的に3機が打ち上げられ、日豪間で8の字の軌道を描くことで常に1機が日本の直上を飛びます。これにより、GPSを補完した測位が可能になります。当初は民間と共同開発を計画していましたが、採算が取れないことから民間は撤退。現在は安全保障を念頭にした国のプロジェクトというかたちで計画が進められています。提供:JAXA

 しかし、一方で、防衛や産業に視点が行き過ぎて、今後の純粋な技術開発や、宇宙探査を含めた統括した宇宙開発のビジョンがないと批判する向きもあります。悪い言い方をするなら、国防族の思惑や、アメリカの圧力、産業界の要望を適当に取りまとめ、国民向けにはテポドンの脅威ということで通して予算をぶんどった、バラ色の法律です。ビジョンがないのもしかりでしょう。

 特に気になるのは、産業界が求めていた、日米衛星合意の見直しです。これには、政府は否定的な見解を示していますので、政府発注の衛星が国産化できるかは、まだ疑問が残ります。また、そもそも、そんな保護主義的なことで、本当に産業の振興ができるのか? 窮地にたった宇宙産業にたずさわる大企業を助けるための法律ではないかという声があるのも確かです。さらには、実際の運用態勢の構築にあたっては、既得権限が大きく奪われるため法案に強く抵抗していた文部科学省の巻き返しがあるのでは、といった予想もされています。

 いずれにせよ、方向は決まりました。ただ、その予算なりリソースをどう使うのか。考えてみると、これは道路特定財源が置かれている現状とまったく同じ構図です。やはりそこには、日本の宇宙開発をどうしたいのかというポリシーと、できた法律をいかに運用していくかというトップの指導力が求めらることになるでしょう。それを抜きにして、今後の宇宙開発の未来はないと思います。

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