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日本の宇宙開発最前線 第5回

宇宙基本法が成立

宇宙開発戦略本部長の福田康夫です

2008年05月24日 09時00分更新

文● 小黒直昭

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宇宙基本法

ニッポンの次期主力ロケット「H-IIB」。提供:JAXA

 5月21日、懸案だった宇宙基本法が成立し、宇宙産業に関わる人や宇宙開発に携わる研究者や防衛関係者や好事家や物見遊山の僕などが、ひとまず安堵のため息を漏らしています。

 報道でご存じかもしれませんが、この法律の骨子は、今まで平和目的に限定してきた宇宙開発のタガを外し、それと同時に日本の宇宙開発を国策として一本化、推進していくもので、最終的には、日本の宇宙産業を国際競争力のあるものに育てていこうというものです。今回は掛け声だけではなく、政府による民間からの調達や、民間への技術移転、開発への予算措置などが盛り込まれたことで、関係者の「安堵のため息」が聞こえてくるというわけです。

 ところで、ここで素朴な疑問が生じます。産業振興。それはすばらしいことなのですが、なぜ「防衛」が先行でなければならないのでしょうか? そしてもうひとつ、技術立国日本たるものの宇宙産業が、なんで法律で保護しなければならないほど弱っちくなってしまったのでしょうか。そして、突き詰めるなら、いまなぜこんな法律を作る必要があったのでしょうか?

宇宙基本法成立のウラ側にあったもの

宇宙基本法

1970年に日本で初めて打ち上げられた試験衛星「おおすみ」。技術試験のための計器と送信機だけを備えた、わずか24kg弱の衛星でした。提供:JAXA

宇宙基本法

実際の打ち上げ。軍事転用を懸念する日本社会党などの指摘から、打ち上げには誘導装置なしのL-4S型ロケットを使用。無誘導装置での軌道投入成功は、図らずも世界に前例のない快挙となりました。提供:JAXA

 日本が初めての人工衛星「おおすみ」を打ち上げたのは1970年。ソ連、アメリカ、フランスにつぐ、世界で4番目となる自力打ち上げで、決して世界から大きく遅れをとったわけではありません。ただし、世界の宇宙開発が軍事によって推し進められていたのに対し、日本では平和利用の縛りがあることから、予算も市場も限られたものでした。そんななか、日本の宇宙産業にとって致命的な出来事が発生します。

 ご存じの方も多いでしょうが、80年代、貿易赤字に苦しむアメリカは、日本の内需拡大を求めると同時に、いわゆる「スーパー301条」を制定し、自動車や半導体の市場開放を日本に求めてきました。90年にはこの延長として「日米衛星合意」が成立。これにより日本では、政府が発注する通信、放送、気象といった実用衛星は、すべて入札で購入しなければならなくなったのです。

 コスト面でも技術面でもアメリカに遅れていた日本の衛星は競争力があるべくもなく、90年以降に日本企業が作った政府調達の衛星は、ひまわり7号だけ。期待された民間の商用衛星の需要もほとんどなくなり、いきおいロケット打ち上げビジネスも窮地に。日本企業は、試験衛星などで細々と技術を継承しているのが現状です(※)。

 ところが、98年に北朝鮮が発射したテポドンは、日本にとって神風となりました。事態を受けて、政府は日本独自の情報収集能力を保持すべく、実質は偵察衛星であるところの「情報収集衛星」の打ち上げを決定。軍事衛星は機密面から保有国が国内で生産するという慣例にのっとり、三菱電機によって製造され、現在では、実質3機の情報収集衛星が軌道上で活動しています。

 こうした経緯ののち、アメリカの主導するミサイル防衛計画が具体的に浮上。防衛システムを日米で共同で開発するなど、日本にも応分の負担が求められていることから、日本側からも積極的に参加し、実態にあった法改正も行なうことで、(アメリカの横槍をかわして)国の宇宙産業を育てていこうというのが、今回の宇宙基本法の背景です。

※日本に技術や先見性がないという話ではないので念のため。それは、現在活躍しているかぐやとかだいちなどの衛星を見ても明らかでしょう。でも、それでメーカーに開発力があるかとか儲かっているかというと、ほそぼそと、という話です、念のため。

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