最初のCMタレントがケント・デリカット
このすしメーカーは、地味な(失礼!)見た目からは想像もつかないほど、語るべき要素が多い深い製品になる。まず、当初は業務用でなく、家庭用から始まった。
製品名は「にぎりっこ」。タレントのケント・デリカットを起用して、初のテレビCMも流した。ちなみに彼を起用した理由が、当時、東京・町田本社の近所に住んでいたから(!)というのも興味深い(同社の会社行事にも来ていたそうだ)。
「当時、寿司といえば高嶺の花で、気軽に食べられるものではありませんでした。それが家でお手軽にシャリを作れるということで話題になって、最初の1年は大いに売れたんです」(小柳氏)
上からご飯を投入し、ローラーで型を取って落とすというのは、現在でも踏襲している基本スタイルだ。しかし、すしメーカーって、そんなに数が出るような製品でもないような……
「家庭用のものは、みなさん1度使うと棚にしまって、そのまま放置してしまうんですよね。話題性はあったけど、商売としては厳しかったので、家庭用は2年くらいで『店じまい』でした」(小柳氏)
売り上げに貢献した年も……
短命に終わった家庭用製品だが、今後は業務用の寿司メーカーが来るとにらんで事業はそのまま続行した。その後、80年代の後半には大手スーパーや持ち帰り寿司チェーン店に採用され始めていく。
面白いのは、すしメーカーがオーディオテクニカの窮地を救ったことがあるということだ。1992年、バブル崩壊のあおりを受けて同社は初めて業績が赤字になったが、1993年には黒字への「V字回復」を果たした。その利益の半分を出したのが、業務用のすしメーカーだったという。
ところですしメーカーには、何かオーディオの技術が流用されているのだろうか?
「当初はオーディオ出身の技術者が異動してやっていたので、材料や電気など、個々の持っているノウハウが生かされていました。でも、最近は専門の技術者が付いていますし、機械自体も変わっていてオーディオとはほとんど関係ないですね」(小柳氏)