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【レポート】日本が世界に誇るマンガやアニメ、メディアアートの祭典――第11回文化庁メディア芸術祭

2008年02月12日 19時49分更新

文● 千葉英寿

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<エンターテインメント部門>

 アート部門のエリアを進んで行くと、いつのまにやらエンターテインメント部門のエリアに気づかずに入っている。出展作品には、ゲームなどの商業作品が中心となっているが、インタラクティブアートの部類にも入る遊具なども数多く展示されているのは、メディア芸術祭ならでは、と言えるだろう。こうした遊具は実際に触れることができ、ゲーム作品は大賞の「Wii Sports」のように実際にプレイできるものもある。


【優秀賞】
気づいていますか。[映像(ショートムービー)]/田中英生


気づいていますか。

(C) BMW Japan, Corp. 気づいていますか。[映像(ショートムービー)]/田中英生

 日本法人のビー・エム・ダブリュー(株)(BMW)が企画した3部作シリーズのウェブムービー。車選びに熱心な主人公が、いつもの通勤路でただならぬ気配を感じ、その後も身の回りで奇妙な出来事が起こる様子を描いている。監督に劇場公開作品も控えている若手注目株のスチュワート・ヘンドラー(Stewart Hendler)氏を起用、スタイリッシュでミステリアスな映像に仕上げていて、クオリティーも高い。ウェブという新しいライフスタイルにあったメディア表現を使うことで、人々と商品の新しい出会いと関わり方を提示した作品と言えるだろう。


【推薦作品】
Stbabillity, Disaster Log[インタラクティブアート]/Karolina Sobecka


サウンドキャンディ

(C) 2007 石橋秀一, 瓜生大輔, 奥出直人, 慶應義塾大学, 奥出研究室 サウンドキャンディ[遊具]/石橋秀一、瓜生大輔、奥出直人

 なんだか毛むくじゃらのドーナツのようなガジェットに、好きな音声を録音して自分の身体に装着すると、音声が身体の動きに合わせて、さまざまに変化したサウンドとして再生される。単純なだけに思わず夢中になってしまう楽しさがある。


【推薦作品】
Freqtric Project[遊具]/馬場哲晃


Freqtric Project

(C) Tetsuaki Baba Freqtric Project[遊具]/馬場哲晃

 ちょっと見には木でできたタンバリンのようだが、実際には四方に金属の握りがあり、ここに複数の人が触れたままで自分以外の他者に触れると音が出るというしくみになっている。音は意味のない合成音もあれば、スネア、シンバルといったドラムスの各パーツで構成される音もあり、思わず隣や向こう側の人を試しに叩いて楽器にしてしまう。この作品の目的にまさにここにある。他者との接触が音を出す“楽器”になることで、初対面でも遠慮なく触れあってしまうという、原始的なコミュニケーションを軸としたエンターテインメントなのだ。ただ単に人に触れたり触れられたりするのが、「なんだか楽しい」という子どもの頃の感覚を思い出させてくれる。

Freqtric Project

保育や学校の現場でもすぐに使えそうだが、それ以上にカラオケや合コンの場に1つあると大人気のツールになりそうだ。直に触れ合うことの少ない現代人にとって、出てくるべくして出てきた遊具かもしれない


【推薦作品】
Mountain Guitar[遊具]/金箱淳一


Mountain Guitar

(C) Junichi KANEBAKO Mountain Guitar[遊具]/金箱淳一

 まさに実体のあるエアギターだ。本体を傾けたり、揺らしたり、叩くといった動作を行なうことで、ギタリストのテクニックを真似ることができる。単純な動作がダイレクトに音になるのがとても楽しい作品。というかデザイン性にも優れており、これはすでに商品だと言っても過言ではないだろう。

金箱淳一氏

作者の情報科学芸術大学院大学2年の金箱淳一氏。同作品は学生CGコンテストのインタラクティブ部門佳作にも選ばれている


【推薦作品】
カミロボファイト[キャラクター]/安居智博


カミロボファイト

(C) Tomohiro Yasui/butterfly・stroke inc.All Rights Reserved. カミロボファイト[キャラクター]/安居智博

 作者が30年近くに渡り作り続け、遊び続けた紙製のロボットファイター。言ってみれば子ども遊びの延長にあるものだが、それにしてもここまで練られた完成したキャラクターは一見の価値あり。臨場感溢れるリングでのファイトを収めたビデオ映像など、お遊びでは片付けられない“本気”を感じる。


【優秀賞】
DAYDREAM[Web]/勅使河原 一雅


DAYDREAM

(C) 勅使河原一雅 DAYDREAM[Web]/勅使河原 一雅

 日本とロンドンで展開する帽子のブランド「Weave Toshi」のウェブサイトで公開された作品(http://www.qubibi.net/bunka/daydream/)。画面上にはボタンもスクロールバーもなく、ただひたすらカーソルを回すことで、映像を進めることができる。帽子という説明しにくいものを立体的に見せるというビジュアル面では見事に成功している。しかし、このサイトが商業サイトとしてうまく商品をナビゲートしているか、という面で見れば“?”が付く(もちろん「Weave Toshi」のウェブサイト全体を指しているわけではない)。アクセシビリティー(誰にでもどんな閲覧環境でも同様にアクセスできる)という要素を考えなければならないウェブというメディアには、アート表現が必ずしもマッチしないという現実があるのだ。もっともこの独創的な映像は、見るものにこのブランドを強く印象付けており、ブランド認知には大いに貢献している。


【優秀賞】
METAL GEAR SOLID 4 GUNS OF THE PATRIOTS[ゲーム]/小島秀夫(KOMAMI)


METAL GEAR SOLID 4 GUNS OF THE PATRIOTS

(C) 1987-2007 Konami Digital Entertainment Co., Ltd. METAL GEAR SOLID 4 GUNS OF THE PATRIOTS[ゲーム]/小島秀夫(KOMAMI)

 MSX版から始まり本作のPS3版まで、20年もの長い間にさまざまなゲームプラットフォームで作り続けられてきたアクションゲーム「メタルギア」シリーズの最新作。戦争が舞台ではあるが、敵に見つからずに潜入するステルスゲームという独自のスタイルで、“殺さず”のコンセプトを守り続けているところが、「文化庁としては(優秀賞に)選出するひとつの要因になった」(文化庁芸術文化調査官 野口玲一氏)ということだ。3D CGを駆使したシネマティックな映像で、臨場感溢れるゲーム表現に成功している。なお、メタルギアシリーズは、平成10年度にもデジタルアート(インタラクティブ)部門で優秀賞を獲得している。


【優秀賞】
MONSTER HUNTER PORTABLE 2nd[ゲーム]/「モンスターハンターポータブル2nd」開発チーム代表 辻本良三


MONSTER HUNTER PORTABLE 2nd

(C) CAPCOM CO., LTD. 2007 ALL RIGHTS RESERVED. MONSTER HUNTER PORTABLE 2nd[ゲーム]/「モンスターハンターポータブル2nd」開発チーム代表 辻本良三

 プレイヤーがハンターになって、大自然の中に現われる巨大なモンスターをハンティングするという内容で、キラータイトルとしてPSPの普及を牽引した大ヒットハンティング・アクションゲーム。爽快なアクションやアイテムの収集・生産、PSP本体のアドホック・ワイヤレス通信機能を使うことによって最大4人まで協力プレイができるなど、ゲームとしての楽しさにあふれている。きめ細かくクオリティーの高い映像も高く評価された。


【大賞】
Wii Sports[ゲーム]/「Wii Sports」開発チーム代表 太田敬三


Wii Sports

(C) 2006 Nintendo Wii Sports[ゲーム]/「Wii Sports」開発チーム代表 太田敬三

 テニス、野球、ボクシング、ゴルフ、ボウリング、といったおなじみのスポーツを題材に、それらのスポーツの動きが楽しめるスポーツゲーム。国内のみならず全世界で、年齢を問わずに高い支持を獲得し、社会現象にまでなった家庭用ゲーム機「Wii」を代表するゲーム作品。Wiiはこの「Wii Sports」と一体になることで、人気に火がついたと言える。本作の贈賞理由でも「『Wii Sports』というソフト単体だけではなく、ゲームマシン、インターフェース、OS、Mii(アバター)などを含めた、Wiiというシステム全体に対する評価だ」としている。Wii Sportsがゲームの原点であるスポーツにフォーカスしたことで、Wiiという新たなゲームコンソールの門出を飾るとともに、ゲームというメディアにおける新しい扉を開いたと言えるだろう。


【奨励賞】
匂いをかがれるかぐや姫~日本昔話Remix~[その他(絵本)]/原 倫太郎+原 游


匂いをかがれるかぐや姫~日本昔話Remix~

(C) 原倫太郎+原游 匂いをかがれるかぐや姫~日本昔話Remix~[その他(絵本)]/原 倫太郎+原 游

匂いをかがれるかぐや姫~日本昔話Remix~

「匂いをかがれるかぐや姫~日本昔話Remix~」の表紙

 映像やゲームなどの作品がほとんどのエンターテインメント部門にあって、奨励賞には“”が選ばれた。表現されたメディアは旧来の“本”ではあったが、コンテンツの制作過程において、コンピューターとそこで動作する自動翻訳ソフトが用いられるという、非常にユニークなコンセプトの元に制作された絵本だ。日本の代表的な昔話である「一寸法師」や「かぐや姫」、「桃太郎」を15種類の自動翻訳ソフトを使って、原作である日本語からこれを英語に一旦翻訳し、その後、新たに日本語に再翻訳することで、原作とは似て非なる“新たな物語”を紡ぎだした。さらにその物語をイメージして描いた挿絵が添えられている。

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