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【レポート】新たな10年の歩みを始めた文化庁メディア芸術祭――贈呈式&祝賀会

2008年02月06日 20時31分更新

文● 千葉英寿

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11年目を迎えた文化庁メディア芸術祭

11年目を迎えた文化庁メディア芸術祭が開幕した

 東京・六本木の東京ミッドタウン・ミッドタウンホールで5日、文化庁と国立新美術館、ならびに(財)画像情報教育振興協会(CG-ARTS協会)が主催する“第11回文化庁メディア芸術祭”の文化庁メディア芸術祭賞贈呈式と祝賀会が執り行なわれた。新しい“次の10年”に突入した文化庁メディア芸術祭は、これを機に恵比寿からアートとエンタテインメントの集積地として確立しつつある六本木に開催地を移し、受賞作品展も国立新美術館において今月6日から17日までの11日間に渡って開催されている。贈呈式と祝賀会はそれに先駆けて行なわれた。

政界からマンガ、アニメやエンタテインメントまで
各界の著名人が贈賞に集う!


 贈呈式には文部科学大臣の渡海 紀三朗(とかい きさぶろう)氏、文部科学副大臣の池坊保子(いけのぼう やすこ)氏、文化庁長官の青木 保氏ら政府要人と、国立新美術館館長の林田英樹氏、CG-ARTS協会理事長の永田圭司氏、東京大学大学院教授の浜野保樹氏をはじめとする運営委員/審査委員が列席し、各分野の関係者が一堂に会する中で開催された。贈賞はアート部門/エンターテインメント部門/アニメーション部門/マンガ部門の順に行なわれ、大賞は渡海氏から、優秀賞と奨励賞は池坊氏より手渡された。また、各部門ごとに、アート部門は原田大三郎氏(アート部門主査/多摩美術大学教授)、エンターテインメント部門は水口哲也氏(エンターテインメント部門主査/プロデューサー)、アニメーション部門は鈴木伸一氏(アニメーション部門主査/アニメーション監督)、マンガ部門はちばてつや氏(マンガ部門審査委員/マンガ家)から副賞が手渡された。



<アート部門>


 アート部門の大賞を受賞した、広島の原爆ドームを題材に制作した作品「nijuman no borei」のジャン=ガブリエル・ペリオ(Jean-Gabriel Periot)氏は、映画撮影のため欠席となり、ビデオコメントが寄せられた。

 ペリオ氏は「現在、核問題については世界中で議論されています。しかし、実際に犠牲になったのは広島、長崎の多くの方々です。私はこの作品を犠牲となられた方々へ贈る“思い出”として制作しました。ヨーロッパでは核爆弾によって広島、長崎で実際に何が起きたかはあまり知られていません」と欧米と被爆国・日本の核に対する感覚の違いを示し、「ですから、私は『』について、そして『人々の思いでが失われる』ことについて、この作品を通じて欧米の観客に疑問を投げかけたかったのです」と制作の意図を説明した。最後に「日本の皆様、そして広島で作品制作にご協力いただいた皆様にお礼を申し上げます。彼らの力添えなしにはこの作品を完成させることはできませんでした」と謝辞を述べた。

nijuman no borei[映像]/Jean-Gabriel Periot

nijuman no borei[映像]/Jean-Gabriel Periot (C) Envie de Tempete Productions

【大賞】
nijuman no borei[映像]/Jean-Gabriel PERIOT
【優秀賞】
Camera Lucida: Sonochemical Observatory[インスタレーション]/Evelina Domnitch/Dmitry Gelfand
ISSEY MIYAKE A-POC INSIDE.[映像]/佐藤雅彦+ユーフラテス
Se Mi Sei Vicino(If you are close to me)[インタラクティブアート]/Sonia Cillari
ビュー・ビュー・View[インタラクティブアート]/blue elephant
【奨励賞】
Super Smile[映像]/Effie Wu

アート部門受賞者の各氏

アート部門受賞者の各氏



<エンターテインメント部門>


(図版)JMAF006.jpg (キャプション)
太田敬三氏

「おっ、的確な評価をしているな。文化庁メディア芸術祭ちょっと違うぞ、と思いました」という具合に、あくまで“私見”を披露して会場を沸かせた太田氏

 エンターテインメント部門の大賞を受賞した「Wii Sports」の開発チームを代表して、太田敬三氏は次のようにコメントした。「いままで何本かのゲーム開発に携わってきましたが、Wii Sportsが発売に至った時に今まで感じたことのなかった“流れに乗れた”という感覚を初めて覚えました」「ひとつ驚いたのは、今回の贈賞理由として『今回の受賞はWii Sports単体ではなく、周りを含めたハードウェア、OSを含めた“Wiiというメディアに対しての賞である』という水口さんのコメントを拝見させていただき、私が心に感じていたことをそのままストレートにほめていただいて、すごくうれしかったです。Wiiプロジェクト代表としてお礼を申し上げたいです」

Wii Sports[ゲーム]/「Wii Sports」開発チーム代表 太田敬三

Wii Sports[ゲーム]/「Wii Sports」開発チーム代表 太田敬三 (C) 2006 Nintendo

【大賞】
Wii Sports[ゲーム]/「Wii Sports」開発チーム代表 太田敬三
【優秀賞】
DAYDREAM[Web]/勅使河原 一雅
METAL GEAR SOLID 4 GUNS OF THE PATRIOTS[ゲーム]/小島秀夫(KOMAMI)
MONSTER HUNTER PORTABLE 2nd[ゲーム]/「モンスターハンターポータブル2nd」開発チーム代表 辻本良三
気づいていますか。[ショートムービー]/田中英生
【奨励賞】
匂いをかがれるかぐや姫~日本昔話Remix~[絵本]/原 倫太郎+原 游

エンターテインメント部門受賞者の各氏

エンターテインメント部門受賞者の各氏



<アニメーション部門>


原 恵一監督

「(この作品は)僕にとっては特別な一本」と語った原監督

 アニメーション部門の大賞を受賞したのは、劇場版クレヨンしんちゃんの名作「モーレツ大人帝国の逆襲」などで知られる、原 恵一監督の「河童のクゥと夏休み」。原監督は「二十数年間、アニメ演出の仕事をしていますが、その間中、この作品を創るためにいろんなことを考えていて、昔から創りたかった作品でした。作品そのものはアニメとしての派手さに欠けるとか、アニメらしさがない作品なのですが、あえてそういう作品が創りたかったのです。それに対してはあきらめる気にはなれませんでした。そして、あきらめなかったら、賛同してくださる方も増えて、あ、離れていった方もいますが(笑)、残ってくれた人たちや新たに集まってくれた人たちとなんとか創ることができました。選んでくれてありがとうございました」と語った。

河童のクゥと夏休み[劇場公開アニメーション]/原 恵一

河童のクゥと夏休み[劇場公開アニメーション]/原 恵一 (C) 2007 木暮正夫/「河童のクゥと夏休み」製作委員会

【大賞】
河童のクゥと夏休み[劇場公開アニメーション]/原 恵一
【優秀賞】
うっかりペネロペ[TVアニメーション]/高木 淳(監督)
カフカ 田舎医者[短編アニメーション]/山村浩二
天元突破グレンラガン[TVアニメーション]/今石洋之(監督)
電脳コイル[TVアニメーション]/磯 光雄
【奨励賞】
ウシニチ[短編アニメーション]/一瀬皓コ

アニメーション部門受賞者の各氏

アニメーション部門受賞者の各氏



<マンガ部門>


郷田マモラ氏

「ついでに嫁はんにもお礼を」と郷田氏が付け加えると会場からあたたかな笑いが起きた

 死刑囚と若き刑務官の交流をテーマした「モリのアサガオ」で、マンガ部門の大賞を受賞した郷田マモラ氏は、「多くの人たちに支えられて今の僕があると思います。審査員の方々、癖のあるマンガを読んでくれている読者のみなさん、とりわけ、ちばてつや先生にはお礼を言いたいです。というのも、僕はモーニングのちばてつや賞を3度いただいております」とお礼を述べるとともに、“死刑というめちゃめちゃしんどいテーマをいただいた”漫画アクションの編集長や担当編集、デザイン担当、“いつも締め切り前のドタバタを過ごしてくれる”アシスタントといったスタッフにも謝辞を述べた。さらに「最後にこの場でお礼を言いたい」人がいると言い「天国のばあちゃんに。おばあちゃんとは血のつながりがないのですが、本当に大事に育ててもらいました。5歳から10歳までの毎晩、日本昔話の本を寝る前に読んでもらいました。その時に物語の作り手になる大切なものをいただいたと思います」と語った。

モリのアサガオ[ストーリーマンガ]/郷田マモラ

モリのアサガオ[ストーリーマンガ]/郷田マモラ (C) 郷田マモラ/双葉社

【大賞】
モリのアサガオ[ストーリーマンガ]/郷田マモラ
【優秀賞】
海街diary[ストーリーマンガ]/吉田秋生
鈴木先生[ストーリーマンガ]/武富健治
竹光侍[ストーリーマンガ]/松本大洋/永福一成(作)
プライド[ストーリーマンガ]/一条ゆかり
【奨励賞】
天顕祭[自主制作マンガ]/白井弓子
マンガ部門受賞者の各氏

マンガ部門受賞者の各氏



<功労賞>


辻 真先氏

最近ではミステリー作家として知られる辻氏

 功労賞には、テレビアニメの脚本家でミステリー小説も書いている辻 真先氏が受賞した。多岐にわたるジャンル、非常に数多く作品のシナリオを書いてきたまさに功労者。受賞に登壇した辻氏は「今年で76になります。70年ずーっと漫画とアニメをやってきました。好きなのでやってきたのに、こんなのもらっていいのかしらん、と思います。僕のアニメを見ていただいた方、一緒に創った方、そして僕よりもずっとたくさんアニメの仕事をしていたのに、すでにこの世にいらっしゃらない先輩方に代わって、私が仮にいただくということでありがたく承りたいと思います」と語った。

辻氏が手がけた作品の数々

辻氏が手がけた作品の数々



渡海文部科学大臣

メディア芸術祭にとって2008年は「新たな飛躍の年」と語った渡海氏

 最後に渡海 紀三朗文部科学大臣が挨拶に立ち、次のように語った。「今回の応募作品は過去最大の2091件にのぼり、そのうち429件は海外から応募いただいており、国際的に広く認知され、高い評価と賛同ををいただいていると思います。昨年(2007年)は、日中国交正常化35周年を記念して“文化庁メディア芸術祭上海展2007”を開催し、メディア芸術分野でも発展目覚ましい中国で数多くの方に日本のメディア芸術に触れていただきました。平成20年度(2008年度)からは恒常的に海外での発表の機会を設ける予算も確保でき、新たな飛躍の年になることが期待されています。今後もメディア芸術をはじめ、文化芸術の振興とともに知的財産の創造、保護および活用に関する施策の充実に務めて参りたいと考えています」

受賞者、審査委員、来賓など関係者

記念撮影におさまる受賞者、審査委員、来賓など関係者


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