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“目”がテーマのユニークな作品の数々

【レポート】アートな発想と企業の技術力が融合した「200∞年目玉商品」展

2008年01月30日 20時23分更新

文● 千葉英寿

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 アートと企業という、一見すると関連が薄そうな新たな視点でアーティストとパートナー企業が作品を表現した展示会“「200∞年目玉商品」展”が26日、東京ミッドタウンの21_21 DESIGN SIGHTで開幕した。期間は3月16日まで。主催は21_21 DESIGN SIGHTならびに(財)三宅一生デザイン文化財団。

21_21DESIGN SIGHT T-シャツプロジェクト

B1のメイン会場の様子。中央の展示はアーティストのトニー・アウスラー(Tony Oursler)、ティム・ホーキンス(Tim Hawkins)、ジェームズ・オーガー(James Auger)が制作したTシャツと、リーバイ・ストラウスジャパン(株)の提供による復刻版ヴィンテージジーンズをあわせて展示した“21_21DESIGN SIGHT T-シャツプロジェクト”

 アートと企業と言えば、企業がアーティストの活動を助成するメセナ(社会貢献)や展覧会の冠スポンサーと言った、あくまでもアートに対して資金協力する、というのがこれまでの主たるスタイルだった。21_21 DESIGN SIGHTの2008年最初の展示となる「200∞年目玉商品」展では、21_21 DESIGN SIGHTとメインパートナー各社とのコラボレートによる作品展となった。昨年(2007年)のオープン以来、「チョコレート」「お笑い」「」と、デザインをすぐに連想できないようなテーマとデザインを出会わせることで、デザインに対する新たな視点を提供してきた21_21DESIGN SIGHT。本展覧会ではデザインに欠かせない“視る、見る、観る、診る…みるちから”である、ものごとを見きわめる力、優れた“”がテーマとなっている。

 21_21 DESIGN SIGHT のコンセプトであり、名称の由来でもある「優れた視力」「先を見通す力」を持った“目”をテーマに、クリエイターたちと企業のビジョンやノウハウが出会い、コラボレーションすることで数々の“目玉商品”が作られ、展示された。ただ単にアーティストの制作活動を企業が協力するだけではなく、企業側が持つ最新技術やスキル、ノウハウを注ぎ込み、制作に正面から取り組むことで、アートとテクノロジーが見事に融合した意欲的な作品が生み出されたのが、本展覧会の特徴と言える。



観客や会場=パッケージ!? これも一つのアート作品に


 開催に先立って前日の25日には、本展のディレクターを務めた、(株)三宅デザイン事務所の代表取締役社長の北村みどり氏、アーティストの日比野克彦氏、月刊「ソトコト」の編集長の小黒一三氏の3氏をはじめ、参加アーティストや参加企業の代表者が出席してプレス説明会と内覧会が行なわれた。

日比野氏の段ボールパッケージ作品

作品の説明もダンボール。まるでひとつの作品のようだ

 日比野氏は本展ディレクターを務めるとともに自らアーティストとして参加し、さらに展示全体のアートディレクションも担当と、八面六臂の活躍を果たした。会場全体が日比野氏のディレクションにより段ボールが多用されており、観客を含めた会場そのものが、段ボールにパッケージされたひとつの商品になったかのようだ。カタログは各作品をマンガで紹介したり、パートナー企業の広告も入った雑誌形態をとるなど、展覧会のカタログの常識を覆すユニークで楽しい内容になっている。

カタログも日比野氏のディレクション。大久保亞夜子氏による、オリジナルキャラクターの妖怪・タマショーが勝ち鵜役するマンガが随所に出てくる。内覧会ではスタッフが売り子に変身し、会場内で販売していた

日比野克彦氏

本展ディレクターでアーティストの日比野克彦氏

北村みどり氏

本展ディレクターで、三宅デザイン事務所の代表取締役社長の北村みどり氏



キヤノンの大判プリンターが フォトアートを大迫力で見せつける!!


 メイン会場の壁面いっぱいに展示されている、人物のポートレートと瞳(虹彩)を組み合わせた写真は、フランスの写真家フランシス・ジャコベッティ(Francis Giacobetti)氏が撮影した「HYMN」(イムヌ)シリーズという作品だ。本展ではキヤノンマーケティングジャパン(株)が大判対応インクジェットプリンター「imagePROGRAF」の最新機種を使用し、最高2400×1200dpiの高解像度を実現する高密度プリントヘッドテクノロジーと12色の顔料インクにより、ジャコベッティ氏のフォトアートの魅力を余すところなく高画質に表現していた。

HYMN

「HYMN(イムヌ)」フランシス・ジャコベッティ/キヤノンマーケティングジャパン

 写真は右から順にイェフデイ・メニューイン(ヴァイオリン奏者/イギリス)、三宅一生(ファッションデザイナー/日本)、イオ・ミン・ペイ(Ieoh Ming Pei)(建築家/アメリカ)、レンゾ・ピアノ(Renzo Piano)(建築家/イタリア)、アウン・サン・スー・チー(Daw Aung San Suu Kyi)(政治活動家/ミャンマー)の各氏。このほかに、黒澤 明やフェデリコ・フェリーニ(Federico Fellini)、ウディ・アレン(Woody Allen)ら映画監督や、スティーブン・W・ホーキング(Stephen W. Hawking)氏やスティーブン・ジェイ・グールド(Stephen Jay Gould)氏などの科学者と、ジャンルや性別を問わず、人類が新たな一歩を踏み出すのに貢献した偉大な同時代人を取り上げている。



見ているつもりが、見られてる!!


「Me-Boshi」プラプラックス/日産自動車

Me-Boshi

「メグスリノキ~The Second Sight Tree」プラプラックス

 会場中央の一角には、不思議な2つの突起がついた白い柱が立っている。この突起は潜望鏡のように覗けるスコープになっており、俯瞰の視点から会場を見渡すことができる。このインスタレーション「Me-Boshi」は、メディアアートユニットのプラプラックスが日産自動車(株)とともに制作したもので、車を運転する際の死角を補うために日産が開発した「アラウンドビューモニター」技術から着想を得て生み出された作品。柱の最上部には4つのカメラが仕掛けられおり、周囲の映像を取り込んで俯瞰映像を作り出している。Me-Boshiには、実はもうひとつの仕掛けがあって、スコープを覗いている人物の瞳が天井に映し出されるようになっている。スコープをのぞいている時には、周囲を「見ている」わけだが、同時に天井に投影されている自分の瞳が周囲の人々に「見られている」ことも意識させられるのだ。

「The World of Hamsters」タカラトミー

 「Augmented Animals(動物の視点)」は、2002年に米タイム誌の「100人の発明家」に選ばれたイギリスのデザイナー、ジェームズ・オーガー氏が2001年から発表している一連のプロジェクトだ。動物が、人間界の環境に適応して生き延びるための器具を開発するという視点で発想され、ヴィジュアルイメージとともに提案するもの。「クジラのための海中ステルスジャケット」や、ネズミなどの小動物のための「夜間用サバイバルゴーグル」など、う~むと感心してしまうものから思わず笑ってしまうものまで、さまざまなアイデアにあふれている。

Augmented Animals/夜間用サバイバルゴーグル

「Augmented Animals(動物の視点)/夜間用サバイバルゴーグル」ジェームズ・オーガー

 その中から「夜間用サバイバルゴーグル」をハムスターに装着することを想定した体験型装置「The World of Hamsters」を、玩具メーカー(株)タカラトミーが制作し、展示していた。

 ハムスターがいる小部屋を覗いて見ると通常はただのハムスターなのだが、暗視スコープのスイッチを入れるとゴーグルをしているものに変わる。“ハムスターの視点で[視る]、暗闇を暗視スコープで[見る]、ハムスターの想像の物語を[観る]”、というストーリー性を持った作品だ。実はスコープには液晶ディスプレーが仕込まれておりその前に人が立つとセンサーが感知して特定の映像を映し出す仕組みになっている。ディスプレーに写し出される映像はコンテンツ製作のため、センサーはセンサーで動作するおもちゃのためと、いずれも同社のおもちゃ開発のために生み出した既存の技術を応用したということだ。

オップ・ザ・シクロプス

「オップ・ザ・シクロプス」ヴァシリス・ジディアナキス/ATOPOS Cultural Organisation(Greece)、セーレン

 このほか、ギリシア生まれのアーティスト、ヴァシリス・ジディアナキス(Vassilis Zidianakis)氏が地中海沿岸地域に伝わる「目玉の魔除けから発想したキャラクター「オップ」も存在感がある。(株)セーレンが開発した1677万色の表現力を持つ繊維製品の印刷技術“ビスコテックス”を使って、色鮮やかにスクリーンに表現されたオップが、あたかも本展の守り神のように鎮座している。

Tear Drop

「Tear Drop」吉岡徳仁/ヤマギワ

 また、アーティストの吉岡徳仁氏とヤマギワ(株)が開発した照明作品「Tear Drop」が段ボールの山にディスプレイされていた。Tear Dropは、感動の涙をイメージした“光”そのものが照明になったかのような作品で、生命活動を表わすように明滅する様子が印象的だった。

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