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【レポート】日本が世界に誇るマンガやアニメ、メディアアートの祭典――第11回文化庁メディア芸術祭

2008年02月12日 19時49分更新

文● 千葉英寿

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<アニメーション部門>


 本展の目玉のひとつが、このアニメーション部門だろう。世界のアニメシーンを牽引している日本のアニメ界にあって、優秀な作品を国(文化庁)が顕彰するインパクトは、国内よりもアジアを中心とした海外に対して影響がありそうだ。選考の結果について、大賞の「河童のクゥと夏休み」や優秀賞の「カフカ田舎医者」などが選出されたことには、まったく異論を差し挟む余地もない。ただ、国内で常に話題となる“萌え要素を含んだ作品が推薦作品にも含まれていないのには、若干ながら違和感を感じずにはいられない。ただひたすら映像表現という側面から見たアニメーションの価値を評価対象にしているのであれば、多くの人々の賛同を得るのは難しいかもしれないが、入選圏外から浮上した「グレンラガン」の経緯を聞けば、必ずしもそれだけではないようだ。やはり、次回もアニメーション部門から目が離せない。


【大賞】
河童のクゥと夏休み[劇場公開アニメーション]/原 恵一


Wii Sports

(C) 2007 木暮正夫 / 「河童のクゥと夏休み」製作委員会 河童のクゥと夏休み[劇場公開アニメーション]/原 恵一

 小学生の康一と河童の子どもクゥが、河童の仲間を探すための旅に出る。現代社会に翻弄されるクゥと康一の一家を通じて、経済至上主義の人間の醜さや怖さ、環境問題を抱えた社会の歪みを描き出すと同時に、人々の優しさ、家族の絆など、普遍的なテーマも丁寧に描き出した作品。2007年夏に公開され、キネマ旬報の2007年日本映画ベスト・テンの5位にランクインした。文化庁メディア芸術祭において2度のアニメーション部門の大賞を受賞した監督は、「もののけ姫」「千と千尋の神隠し」の宮崎 駿氏に続いて、今回の原 恵一氏で2人目だ。原監督は「クレヨンしんちゃん」シリーズの「嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦」で2002年に大賞を受賞しており、今回はオリジナル作品での受賞となった。世界に対して発信できる日本のアニメーションの作り手として、最も期待されている監督だ。

「河童のクゥと夏休み」の設定資料、絵コンテ

「河童のクゥと夏休み」の設定資料、絵コンテなども展示されている


【優秀賞】
うっかりペネロペ[TVアニメーション]/高木 淳(監督)


うっかりペネロペ

(C) うっかりペネロペ製作委員会 うっかりペネロペ[TVアニメーション]/高木 淳(監督)

 「リサとガスパール」などで知られる絵本画家のゲオルグ・ハレンスレーベン(Georg Hallensleben)とアン・グットマン(Ann Gutman)夫妻が、子どもの日常を優しい目線で描いた絵本シリーズ「Penelope」(ペネロペ)を原作にして、NHK教育テレビで放送されたテレビアニメ。本作を手がけた日本アニメーションの高木 淳監督は、世界名作劇場の制作に関わってきたベテランだ。原作の手描きのタッチを再現し、温かみのある絵作りを見事に実現しているが、全面的に3D CGが使われており、最先端のアニメーション技術が取り入れられているのも受賞の理由となった。

「うっかりペネロペ」の原作絵本、台本、絵コンテ

「うっかりペネロペ」の原作絵本、台本、絵コンテなど


【優秀賞】
カフカ 田舎医者[短編アニメーション]/山村浩二


カフカ 田舎医者

(C) Yamamura Animation / SHOCHIKU カフカ 田舎医者[短編アニメーション]/山村浩二

 世界のヤマムラの新作だ。山村浩二監督は、2002年に「頭山」で“アヌシー2003”のグランプリ、第75回アカデミー賞短編アニメーション部門でノミネート、と2つの日本人初を果たしている。難解な不条理小説とされるフランツ・カフカ(Franz Kafka)の「田舎医者」の世界を、上映時間20分間に1万枚以上もの作画を費やして、その孤独と不安の世界をアニメーションでしかできない描き方で見事に映像化している。山村監督はほかのクリエイターには到底近づけないような孤高の域へと突き進んでいるように見えるが、その視線の先にはアニメーションの新たな表現が見えているのかもしれない。

「うっかりペネロペ」の原作絵本、台本、絵コンテ

「カフカ 田舎医者」の原画

「カフカ 田舎医者」の絵コンテ


【優秀賞】
天元突破グレンラガン[TVアニメーション]/今石洋之(監督)


天元突破グレンラガン

(C) GAINAX / アニプレックス・KDE-J・テレビ東京・電通 天元突破グレンラガン[TVアニメーション]/今石洋之(監督)

 ひたすら熱く、そして男は合体! と言わんばかりのガチンコのロボットアニメ、それが「グレンラガン」だ。これまで何度となく描かれてきた王道のロボットアニメが受賞した理由はどこにあるのだろうか? 実は、本作は二次審査過程では入選圏外となったが、強く推す声があって意見は二分した。結果、表現の核をなしている“製作者たちが信じているアニメーションの表現クオリティー”が改めて評価された。今石洋之監督をはじめとする、ガイナックスの制作チームの熱くたぎるアニメへの魂が、審査委員の心を動かしたと言えるだろう。


【優秀賞】
電脳コイル[TVアニメーション]/磯 光雄


電脳コイル

(C) 磯光雄 / 徳間書店・電脳コイル製作委員会 電脳コイル[TVアニメーション]/磯光雄

 電脳世界を楽しめるメガネ型コンピューター“電脳メガネ”が、子どもたちの間で大流行している202X年の大黒市が舞台。大黒市に転校してきたヤサコが、電脳メガネが引き起こす不思議な出来事に巻き込まれていく。良質なジュブナイル(童話)としてNHK教育テレビらしい作品であるが、実はここで描かれる電脳とは、現在の(インターネットの)世界とそれほど違いがなく、未来を舞台にしながら現代を鋭く描いていると言っていいだろう。初監督を務める原案の磯 光雄氏は、「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」などの設定や「新世紀エヴァンゲリオン」(1995年)の脚本などを手がけており、今最も業界で注目されているクリエイターの一人だ。審査の過程でも二次審査最大の得票数を得ており、本作を大賞に、という声もあったということだ。

「電脳コイル」の設定資料、絵コンテ

「電脳コイル」の設定資料、絵コンテなど


【奨励賞】
ウシニチ[短編アニメーション]/一瀬皓コ


ウシニチ

(C) Ichinose Hiroco ウシニチ[短編アニメーション]/一瀬皓コ

 東京工芸大学大学院に在籍する一瀬皓コさんの作品。不思議とかわいいウシの一日を描いた短編作品。登場する動物たちの小さなエピソードが、シンプルな線画のアニメーションで展開していく。なんともゆったりしたほんわか幸せな気分に浸れる。鉛筆書きに消しゴムをかけたような独特なタッチや、ちょっとだけ毒のある表現など、オリジナリティのある作者のセンスに、今後の作品に期待を持たせている。

「ウシニチ」の原画、絵コンテ

「ウシニチ」の原画、絵コンテなど

アニメーション部門のエリア

アニメーション部門のエリアには3つのアニメシアターが設けられており、受賞作品をはじめ、さまざまなアニメ作品が上映されている

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