JASRAC登録問題は「通過儀礼」だった
── 「JASRAC登録問題」については、どう思いますか?
津田 ネットの一部では、状況を知らずにJASRACを叩いている人もいますが、あの件についてはJASRACは単に申請されたものを受け付けただけで、ほとんど非はないはずです。
結局は、ドワンゴとクリプトンの権利意識の違いから生じた問題なんだと思いますね。
本来は事前に権利関係をどういう扱いにするのかきちんと擦り合わせをしておくべきだった話で、その意味では両社に責任があるんじゃないでしょうか。一番迷惑を被ったのは、原曲の作者さんでしょうし。
音楽業界では、何かが盛り上がった時点で囲い込み、1社独占して利益を出すという手法が当たり前のように使われています。ドワンゴとしては、「着うた」が彼らの根幹にあるビジネスのひとつでもあるわけですから、何を置いてもまず対価回収が容易になるJASRACに登録するというのは当たり前の話だったのでしょう。
そのあたりがネットで自由に「ネタ」にしてもらって、このムーブメントを盛り上げていきたいクリプトンの価値観と合わなかったんでしょうね。いずれにせよ、ドワンゴ・ミュージックパブリッシングとクリプトンの伊藤社長の間で泥仕合的な言い争いが起きてしまったことは、余計なことだったんじゃないかなと思います。
── もう少し慎重に事を進めるべきだったのかもしれませんね
津田 ただ、個人的にはそんなにネガティブな出来事ではないと思ってるんですよ。いずれにしても、ユーザーがみんなで作り上げた公共性の高いコンテンツは、どうしたって「独占」とはなじまない。初音ミクが盛り上がっていけば、遅かれ早かれ、既存の音楽ビジネスのあり方とどう折り合いをつけるかという問題は起こっていたでしょう。
だから、初音ミクがビックビジネスになる前の早い時点でこういう著作権がらみのトラブルが起こって、問題はありつつも一応両社で合意して乗り越えられたというのは、今後の発展を考える上ではいいことだったんじゃないかと思いますね。ある種の「通過儀礼」というか、早いうちにこのもめ事をやっておいてよかったな、と。
筆者紹介──津田大介
インターネットやビジネス誌を中心に、幅広いジャンルの記事を執筆するジャーナリスト。音楽配信、ファイル交換ソフト、 CCCDなどのデジタル著作権問題などに造詣が深い。「著作権保護期間の延長問題を考えるフォーラム」や「インターネット先進ユーザーの会」(MiAU)といった団体の発起人としても知られる。近著に、小寺信良氏との共著 で「CONTENT'S FUTURE」。自身のウェブサイトは「音楽配信メモ。
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