「着うた」は音楽の一時性、消費材化を進めた?
── 「着うた」が普及したことで、音楽を聴く選択肢が増えましたが、音楽業界やファンに対してどんな影響を与えたと思いますか?
津田 「着うた」は、音楽を良くも悪くも「消費財」的なものにしたんじゃないかという印象を持っています。音楽がテンポラリ(一時的)なものとして消費されることが加速されたんじゃないかと。
レコード会社は、「着うた」が売れて喜んでいますよね。実際にやってみたら利益率が高いし、「意外と儲かるじゃん」というのが本音でしょう。ただ、アーティストの反応は複雑で、儲かって喜んでいる人もいれば、音質があまりよくないし、曲を「ぶつ切り」にして売られるのが嫌だという人もいます。
携帯電話向け音楽配信のユーザーは、中高生がメインです。彼らは決済方法がネックになっていて、パソコン向けの音楽配信で気軽に楽曲を買えないんです。
パソコン向け音楽配信のうち、iTSなどにはプリペイドカードが用意されていますが、カードは購入の手間がかかるため、決済にクレジットカードを使う人が多いです。しかし、中高生は自分だけでクレジットカードを作れない。一方、携帯電話なら決済が簡単ですし、購入後、携帯型プレーヤーに 転送する手間なくすぐに聞けますよね。
── 中高生はCDを買わないんでしょうか?
津田 マキシシングルは1000円、1200円だけど、「着うたフル」なら欲しい1曲だけ3〜400円で買える。シングルより安いからという理由で、「着うたフル」を買っている中高生も多いです。
僕は、そうした買い方に慣れた子供達は、「1曲よかったらアルバムCDも買ってみよう」という流れにつながらないのではと思っています。
同じ音楽配信でも、パソコン向けのサービスを利用するユーザーは、目的がちょっと異なります。パソコン向け音楽配信は、今まで音楽CDを買ってきて、それをパソコンに取り込んでライブラリー化していた人たちが、その感覚の延長上で使っている。だから「アルバム単位で曲を揃えたい」と考える人が少なからずいる。
僕は過去、音楽業界を陰で支えてきたのは、年にアルバムを何百枚も買うような音楽マニアだったと思っています。
もちろん「着うた」を全否定しているわけではありません。とはいえ、いくら「着うた」が好調だからといって、目の間のお金に引かれて、携帯電話向け音楽配信にばかり力をいれていたのでは、そういう音楽マニアにそっぽを向かれて、長い目で見たら音楽業界は先細りになっていくんじゃないかと思っています。
「音楽を聴く」という体験が安くなっている?
── 携帯電話向けとパソコン向けでは、そんなにユーザー層が異なるんでしょうか。
津田 ええ。例えば、携帯電話機を買い替えた際、前の機器で購入した音楽ファイルを引き継ぐという人は数%しかいないという話を聞いたことがあります。
昔は機種変すると、デジタル著作権管理(DRM)などの問題で音楽ファイルを転送できませんでしたが、最近では引き継ぎに対応するモデルも増えてきています。そうした状況でも音楽ファイルを引き継がず、中には同じ曲を新しく買い直したりするユーザーすらいます。音楽を単なる消費材と考えている人が多いということだと思います。
また、携帯電話向け音楽配信のユーザーは、あまり音質を求めていません。
過去にKDDIが携帯電話ユーザーを対象に音楽CDと「着うたフル」の音質の効き比べをやったところ、10人に1〜2人しか違いを聴き分けられなかったのだとか。サービスの提供側にも、「音質を改善しろ」というクレームはほとんどこないみたいですね。そういう事実が象徴するように、着うたの隆盛によって音楽を聴くという「体験」の価値が下落しているのかもしれません。
── 「ぶつ切り」の「着うた」を批判されていましたが、津田さんと してはどのように「着うた」が利用されればいいと考えていますか?
津田 音楽業界は、音楽に興味を持たせるためのツールとして、「着うた」を積極的に使った方がいいんじゃないでしょうか。売り上げが飽和状態になっている今、「着うた」は「着ボイスのちょっと長い版」以上の意味は持っていないような気がします。
それこそ「試聴」と割り切って無料にするとか、100円で着うたを買うと、100人に1人の割合でそのアーティストのライブのチケットが当たるとか。音楽業界を盛り上げていくための「手段」と割り切って着うたを活用していけば、新たな市場も開拓できるんじゃないですかね。
筆者紹介─津田大介
インターネット媒体やビジネス誌を中心に、幅広いジャンルの記事を執筆するライター/ITジャーナリスト。音楽配信、ファイル交換ソフト、CCCDなどのデジタル著作権問題などに造詣が深い。音楽配信関連の話題を扱うウェブサイト「音楽配信メモ」の管理人としても知られる。この8月に小寺信良氏との共著で「CONTENT'S FUTURE」を出版。
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