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栗原潔の“エンタープライズ・コンピューティング新世紀” 第4回

いまあえてWeb2.0を分析する(4)──Enterprise 2.0実現の課題

2007年06月01日 00時00分更新

文● 栗原潔

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状況は欧米も似たようなもの


 ところで、筆者は、Enteprise 2.0の提唱者であるアンドリュー・マカフィー教授が米国のイベントで開催したワークショップに出席したことがある。

 ITアナリストや大手企業の情報システム部門のスタッフが、社内でのソーシャル・ソフトウェアの活用の際の課題について話し合った。そこで企業の担当者が述べた典型的状況は、「ブログを導入しても、全社的に普及させるのはなかなか難しい。特に、若手社員はすぐ使ってくれるが、ベテラン社員は抵抗勢力となることが多い」というものだった。この点では米国企業も日本企業もあまり変わらないものだなと思ったのをおぼえている。

 この件に限った話ではないが、欧米のシステムの事例が紹介される時には、通常、成功事例だけが紹介されるため、欧米企業は日本に比べてはるかに進んでいるのだなという印象を持たれることが多いかもしれない。しかし、現実には多くの欧米企業が、日本企業と同じような問題に悩んでいたりするのだ。



意識改革のためのヒント


 では、このような課題にどう対応し、Eneterprise 2.0を真に業務に役立つものにしていくべきだろうか? もちろん、単純な答えがあれば苦労はしない。しかし、いくつかのヒントはあるだろう。

 まず、第一に、システム部門担当者が、上述のようにEnteprise 2.0はテクノロジー上の課題ではなく、社内の意識改革の課題であることを充分に認識することだ。当然、ブログなどのソフトウェアを展開するというステップは最終目的ではない。これだけでは、最終目的地である業務での有効利用にに達するまでの1%くらいしか進んだことにならないだろう。

 意識改革を進める上ではトップダウンの活用が重要となることが多いだろう。役員が率先してブログを使いこなすということが、ひとつの契機になるかもしれない。もし、本当に社内にEnterprise 2.0を根付かせたいと思うのであれば、スタート地点は社長ブログであるかもしれない。



遊びのツールでも、そこから生み出されるものがあればいい


 もうひとつの克服すべき課題として、「ブログのようなソフトウェアを企業で導入すると、遊び目的で使う社員が出てきて業務に差し支えるのではないか」という旧世代の典型的な拒否反応に対応することがあるだろう。この点について、マカフィー教授は以下のように述べている。

 ブログなどのツールを導入すると社員同士が「今晩、ポーカーはどうだい」というような仕事以外の話に使うのではないかとの懸念し、導入に躊躇するマネージメントがいるようだ。しかし、私はそういうマネージメントに問いかけたい――ブログが導入される前には、仕事中にポーカーの話をする社員はいなかったのですか?」と。

 要するに、遊びに使われることによる悪影響は多少はあるかもしれないが、それにあまり神経質になるべきではないということだ(もちろん、ある程度のけじめは必要だが)。逆に、最初は遊びの情報交換に利用されても、ユーザーがツールに慣れ親しみ、業務の情報交換にも活用できるようになれば、悪影響をはるかに上回るだけのメリットが得られることも多いだろう。

筆者紹介-栗原潔

著者近影 - 栗原潔さん

(株)テックバイザージェイピー代表、弁理士。日本IBM、ガートナージャパンを経て2005年より独立。先進ITと知財を中心としたコンサルティング業務に従事している。東京大学工学部卒、米MIT計算機科学科修士課程修了。主な訳書に『ライフサイクル・イノベーション』(ジェフリー・ムーア著、翔泳社刊)がある。


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