最近、多くの場所で企業内Web 2.0の話題を聞くことが多くなってきた。その例のひとつとして、6月15日にXMLコンソーシアムが“エンタープライズ・システムのためのWeb 2.0提言書”を公開していることが挙げられる。
XMLコンソーシアムの団体の特性を考えれば当然だが、この提言書ではXMLに基づくマッシュアップの活用に主眼が置かれており、ブログやSNSの活用については触れられていない。Web 2.0という言葉が多面的な意味を持ち、誰が語るかによって内容が大きく異なっているというひとつの例でもある。
企業内でのマッシュアップは、新しいと言えるのか?
“マッシュアップとは何か”について、あえて説明するまでもないであろう。複数のウェブサイトのコンテンツやサービスを組み合わせることで新しい価値を生み出す手法である。典型的には、Googleマップなどの地図情報サービスに、ほかの情報を付加して表示することなどが考えられる。
企業内でのマッシュアップ活用はなかなか有望な領域であると思う。お手軽なアプリケーション連係のニーズは常に存在するからだ。
「従来ウェブサービスと呼んでいたものをマッシュアップと言い換えただけではないか」というツッコミもありそうだが、そういう要素もあると言わざるをえない。ただし、過去においては、ウェブサービスの基盤プロトコルとしてはSOAPベースが多かったが、最近ではRESTという、よりシンプルな手法を使うケースが一般化している。これにより、お手軽アプリケーション連携の裾野はより広がったと言える。マッシュアップという新たな名称を付けてもよいタイミングではないかと思う。
マッシュアップの企業内での位置づけを理解するには、SOAやコンポジットアプリケーションなど、以前からあるアプリケーション連携テクノロジーと比較してみるのが有効かもしれない。以下の図は、アプリケーションの連携の手段を筆者の考えでまとめてみたものだ。
左に行けば行くほど“密結合”(いわば深い統合)になり、右に行けば行くほど“疎結合”(いわば浅い統合)になるように並べてある。
結合が密であればあるほど、データの整合性を確保することが容易になり、結果として得られたシステムは堅牢である。その一方で実装には大きな負荷がかかり柔軟性は低くなる。結合が疎であれば、実装は容易であり、変化への対応も容易になり柔軟性は増すが、データ整合性や堅牢性はある程度犠牲にならざるを得ない。マッシュアップはいわば“超疎結合型のアプリケーション連携”だ。
整合性の確保か、市場への迅速な対応か
過去における企業コンピューティングの世界では、どちらかというと密結合型のアプリケーション連携が重視される傾向があった。
何よりもデータ整合性の確保が最優先という考え方だ。しかし、企業情報システムの環境変化への対応スピードが重視される中で、より疎結合型の連携のニーズが生じてきた。過去数年間にSOAの重要性が高まってきたのも、今、企業内マッシュアップに注目が集まっているのもそれが理由だ。
言うまでもないが、これらの手法についての議論は、どれが一番良いかという話ではなく、どう組み合わせるかという話である。近所のコンビニに行くのにトラックで行く必要はないが、引越しを自転車だけで済まそうとするのも無理な話である。トラックが必要な用途もあるし、自転車が最適な用途もあるというお話しである。
なお、言葉の用法に関してひとこと注記しておきたい。マッシュアップという言葉がはやり言葉になっているため、本来の定義を越えた範囲でこの言葉が使われる傾向がある(これは、あらゆる流行語に当てはまる傾向だ)。
ゆえに、かつてはコンポジットアプリケーション、あるいは、SOAと呼ばれていた形態に対してもマッシュアップという言葉が適用される傾向がある。仕方がないことではあるが、ベンダーのドキュメントなどを読む場合には注意が必要かもしれない。
以前、某海外ベンダーの資料にあるマッシュアップという言葉がどう見てもコンポジットアプリケーション的だったので、「これはコンポジットアプリケーションと呼ぶべきではないか?」とマーケティング担当者に聞いてみたことがある。彼は「グッド クエスチョン」と言って笑うだけだった。「マーケティング担当者としてははやりの言葉を使わないわけにはいかないんですよ。分かって下さいよ」という意味の笑いだったのかもしれない。
筆者紹介-栗原潔
(株)テックバイザージェイピー代表、弁理士。日本IBM、ガートナージャパンを経て2005年より独立。先進ITと知財を中心としたコンサルティング業務に従事している。東京大学工学部卒、米MIT計算機科学科修士課程修了。主な訳書に『ライフサイクル・イノベーション』(ジェフリー・ムーア著、翔泳社刊)がある。
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