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栗原潔の“エンタープライズ・コンピューティング新世紀” 第8回

いまあえてWeb 2.0を分析する(8)――Web 2.0系テクノロジーはどこが優れているのか?

2007年08月03日 20時45分更新

文● 栗原潔

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 企業内でWeb 2.0系テクノロジーを活用するためには、企業文化の改革が必要だ。過去にKM(Knowledge Management)の一環として電子掲示板を導入したが誰も書き込まなかったので、今度はブログを導入してみるかという考え方では同じ失敗を繰り返すだけだろう。

 とは言え、テクノロジーとして見た時に、Web 2.0系のツールが過去のものと比較してどの点で優れているか、特に、企業内で展開した時にどのようなユニークなバリューを提供してくれるのかを把握しておくことは重要だろう。ここで一度おさらいをしておこう。



ブログはどこが優れているのか?


 ブログは従来型の電子掲示板と比較してどこが優れているのだろうか?ブログのメリットについては、HTMLの知識がなくても簡単にコンテンツが作れるという点が挙げられることが多いが、これだけでは電子掲示板との違いは特にない。

 ベストセラーとなった新書ウェブ進化論』の著者・梅田望夫氏も述べているように、ブログの第一のポイントは、“パーマリンク”(Permanent Link)にあるだろう。パーマリンクとは、ブログのエントリーに対する一意かつ永続的なリンクである。一般的な掲示板のエントリーや、時々刻々更新されるウェブサイトに対するリンクのように、時間が経つと内容が変わってしまうということがない。これによって、ブログのエントリーを知識コンテンツとして長期的に活用できる可能性が高まるわけだ。

 ブログのもうひとつのユニークな特徴は“トラックバック”だ。従来であれば、ほかのブログのエントリーに対するリンクは一方向であり、逆リンクを張りたい場合は、相手にお願いしてリンクを設けてもらうしかなかった。トラックバックはこの仕組みを自動化し、AからBにリンクを張れば、自動的にBからAにリンクを張ってくれる。これにより、知識コンテンツの有機的な統合が促進されるだろう。

 一方ブログに関する注意点として、フロー的なコンテンツ(現在進行中の情報)の扱いは得意だが、ストック的なコンテンツ(過去のアーカイブ的な情報)の扱いは苦手という点がある。いったん、トップページから消えてしまうと、リンクが張られていない限り、過去の情報を閲覧することは難しくなる。

 ただし、適切なサーチエンジンがあれば、ユーザーの要求に応じて過去の重要なエントリーを掘り起こすことができる。企業内でブログを展開する場合には、何らかのエンタープライズサーチの採用を検討すべきだろう(エンタープライズサーチの要件についての議論は後日書いていきたい)。



SNSはどこが優れているのか?


 企業内での展開を考えた時、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の最大のポイントはクローズドなコミュニティーを作れる点にある。過去のKMシステムの問題のひとつとして、情報が見えすぎてしまうと言う点があった。

 苦労して獲得した貴重なノウハウや顧客の機密に関する情報を全社的に公開してしまうのは避けたいと思うと、逆にノウハウが個人の頭の中に囲い込まれたり、特定の社員の間だけで共用されるクローズドな情報になってしまいがちになるということだ。「情報はすべてオープンにすべし」という発想は建前上はすばらしいかもしれないが、現実の企業では非現実的だ。

 SNSが提供するクローズドなコミュニティーにより、重要なノウハウを真に信頼できる社員との間で共用できる仕組みが作れる。もちろん、このようなノウハウを永遠にクローズドな世界に置いておくのではなく、ある程度、形式知として固まった段階で全社的に公開していく仕組みが必要だろう。「オープンにするためにはクローズドな議論が必要」という逆転の発想である。

 このような「最初はクローズドな環境で議論を重ね、議論が固まってから公開する」という考え方は、SNSが登場する前からあったやり方だ。典型的には、タスクフォースによる会議、メーリングリスト、タバコ部屋での会話(笑))などで行なわれてきたプロセスだろう。SNSの適切な採用により、このような議論のプロセスをよりコントロールされた環境で行なうことができるようになるだろう。

 ただし、気をつけなければいけないのは、SNSは派閥や秘密主義を助長することにつながり兼ねない点だ。これは、テクノロジーの問題というよりも、企業文化やプロセスの問題である。クローズドな議論をオープンな知識コンテンツへ抽出していく際の判断基準やプロセスについては明確に定義しておく必要があるだろう。

 ところで、企業内の展開に関しては、ブログはSNSのサブセットであると考えるのが自然だと思う。つまり、ブログにおいても読者層をある程度絞る機能が必要ではということだ。もちろん、全社的に公開するブログがあってもよいが、それは特別な場合である。アーキテクチャー的には、SNSのコミュニティー内の共用資源としてブログがあるという設計の方が現実的だろう。

 次回は、企業内の展開におけるWiki、RSS、ソーシャル・ブックマークのテクノロジー的な優位性について検討していこう。


筆者紹介-栗原潔

著者近影 - 栗原潔さん

(株)テックバイザージェイピー代表、弁理士。日本IBM、ガートナージャパンを経て2005年より独立。先進ITと知財を中心としたコンサルティング業務に従事している。東京大学工学部卒、米MIT計算機科学科修士課程修了。主な訳書に『ライフサイクル・イノベーション』(ジェフリー・ムーア著、翔泳社刊)がある。


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