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栗原潔の“エンタープライズ・コンピューティング新世紀” 第2回

いまあえてWeb2.0を分析する(2)

2007年04月18日 18時30分更新

文● 栗原潔

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ドットコムの歴史は繰り返す


 しかし、ここで、エンタープライズの世界とWeb 2.0の世界を本質的に相容れないものとしてとらえることは適切ではない。エンタープライズとWeb 2.0の関係を考えるには、1990年代後半のドットコムブーム時代に起きたことを見直してみることが重要かもしれない。

 ドットコムブーム初期には、多くの一般企業がドットコムの世界を自社とは関係のない世界ととらえていた。「TCP/IPではトランザクション処理などできない」と主張する者もいれば、セキュリティの問題を考えて自社システムのインターネット接続を禁止する企業もあった。一方、ドットコム企業側もスピード優先であり、システムの安定稼働等は二の次ととらえていることが多かった。

Amazon.com

Amazon.com

 しかし、時が経過すると、ネット上でのビジネスの拡大とテクノロジーの進化により、エンタープライズはドットコムの世界を取り入れ、そして、ドットコムはエンタープライズの世界を取り入れざるを得なくなった。今日では、ネット上の商取引を行なっていない企業は存在しないといってよいし、一方、eBayAmazonを始めとした大規模なドットコム企業は、システムの多重化等に投資し、従来の企業システムの視点で見てもきわめて高いレベルの信頼性を確保している。

 つまり、エンタープライズとドットコムはお互いの良い部分を取り合いながら収束し、新しいコンピューティングの世界が生まれたわけだ。



いいとこ取り戦略を目指そう


 同じことが、これからのエンタープライズとWeb 2.0の間に起こることは自明と言ってもよいだろう。いまのところは、両者の特性は全く異なるように思えるかもしれないが、Web 2.0の世界はエンタープライズの堅牢性を必要としている。そして、エンタープライズの世界はWeb 2.0の柔軟性とスピードを必要としている。

 そもそも、Web 2.0の世界で宣伝されている概念もまったくの新しいものではなく、エンタープライズの世界で古くから提唱されてきた概念新しいテクノロジーで実装しようとする試みであることも多い。

 例えば、集合知(Collective Intelligence)の考え方は、多様なユーザーが自由に意見を交換することで“単独ではなしえないレベル”の知識を構築しようとするものだが、これは企業コンピューティングの世界でKM(Kknowledge Management:知識管理)と呼ばれていた考え方と同じベクトル上にあるものだ。

 Web 2.0の世界で利用されているブログ、SNS、ソーシャル・ブックマークなどのテクノロジーを企業内の知識管理でも活用しようとするのは必然的な動きでもある。

 このような考え方を“Enterprise 2.0”と呼ぶことがある。ハーバード ビジネス スクールのアンドリュー・マカフィー教授が提唱した概念だ。これについては後に詳しく書くこととしよう。



エンタープライズと融合した新しいWeb 2.0


 繰り返しになるが、一般企業は「Web 2.0の世界から活用できるアイデアがないか」を常に模索すべきであるし、Web 2.0企業は自社サービスの安定稼働を実現するためにエンタープライズコンピューティング的な考え方を応用する機会を追求すべきだ。互いを別世界とみなして無視することは最悪の戦略だろう。

 ところで、余談ではあるが、このようなエンタープライズに対応したWeb 2.0の世界を表現するためのしゃれとして“W2EE”(Web 2.0 Enteriprise Edition)と言う言葉を思い付いたことがある。

 もちろん“J2EE”(Java 2 Enterprise Edition)のもじりなのだが、サン・マイクロシステムズがJ2EEという言い方をやめて“Java Eneterprise System”に名称変更してしまったために、W2EEという言葉を流行らそうとする筆者の目論見は失敗に終わってしまった。

 エンタープライズとWeb 2.0が融合した新しいコンピューティングを表すのによい言葉はないものだろうか? 上記のように、Enterprise 2.0という用語はやや狭い定義で使われてしまっているため、より広範な定義の用語が必要なのである。

筆者紹介-栗原潔

著者近影 - 栗原潔さん

(株)テックバイザージェイピー代表、弁理士。日本IBM、ガートナージャパンを経て2005年より独立。先進ITと知財を中心としたコンサルティング業務に従事している。東京大学工学部卒、米MIT計算機科学科修士課程修了。主な訳書に『ライフサイクル・イノベーション』(ジェフリー・ムーア著、翔泳社刊)がある。


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