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FeliCaが生き残るとは限らない 日本のモバイル決済が変わる日 ― 第4回

NFCで国家振興を目指したリトアニアの「Mokipay」

2016年08月31日 17時00分更新

文● 鈴木淳也(Twitter:@j17sf

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 みなさんは「リトアニア」という国名を聞いて、どのようなイメージを思い浮かべるだろうか? 多くは「バルト三国の1つ」や「旧ソビエト連邦の構成国の1つ」などと答えるだろう。少し歴史に詳しい方なら「ポーランド・リトアニア共和国として中世以降の欧州で一世を風靡した国」という回答も出てくるかもしれない。一方で、近年の文化的特徴や経済特性の視点で同国を語れる人は少ないかもしれない。

リトアニアの首都ヴィリニュス(Vilnius)。古い街並みが続く旧市街と、高層ビルや近代建築が並ぶ新市街で構成される同国最大の都市だ

 歴史的経緯から文化面ではポーランドとロシアの影響が強く、特に人的交流や経済面では現在もなおロシアに依存する部分が大きく、さまざまな場面でリトアニア語と並んで英語とロシア語が並記されるケースが見受けられる。またバルト三国は東欧や旧ソ連圏の中では比較的豊かな地域ではあるものの、欧州連合全体でみれば下位グループに属する。そこで国としての競争力を高めるべく、近年では特にIT産業に力を入れている。著名な成功例では、エストニアの首都タリンで誕生した「Skype」が挙げられる。

 リトアニアの場合、2010年前後のタイミングで特に「NFC(Near Field Communication)」を使ったインフラ技術開発に力を入れていたようだ。筆者は2011年から世界中で開催されていたNFC関連の展示会や国際会議を頻繁に訪れていたが、会場で何人ものリトアニア出身の技術者やビジネスマンに会ったことが印象に残っている。こうしたなか、世界に先駆けて「NFCを使った決済インフラを全国規模で展開した初のサービス」との触れ込みで発表されたのが、今回紹介する「Mokipay」となる。

国際バスケットボール大会で訪問外国人もターゲットに

 Mokipayが発表されたのは2011年7月のこと。8~9月に同国で開催される「EuroBasket 2011」に合わせ、外国人でも気軽に利用できるNFCを使った非接触決済システムを構築し、ぜひこの最新インフラを世界中の人々に楽しんでほしいという触れ込みだ。この発表に際しては当時リトアニア首相だったAndrius Kubilius氏が関係者らとともにヴィリニュス市内のレストランを訪れ、実際にMokipayを使って決済を行なう様子を報道陣にアピールしている。

 前回まで紹介したフランスのCityziと目的と経緯こそ違えど、やはりMokipayも国家プロジェクトの1つなのだ。これは後から知ったことだが、リトアニアで最も盛んなスポーツはバスケットボールであり、2011年のEuroBasketを招致した同国の興行を成功させようとする意気込みは並々ならぬものがあったはずだ。実際、開催期間中にヴィリニュスを訪問した筆者は「ホテルがやたら高い」という印象を抱いていたが、それだけ外国人客が多く訪問していたということなのだろう。

ヴィリニュスの街のあちこちにバスケットボールを模したデコレーションが行なわれ、街が「EuroBasket 2011」ムード一色に染まっていた

 外国人にも利用可能なサービスということで、ヴィリニュス到着後に筆者も実際に試してみることにした。Mokipayは同国最大の携帯キャリアである「Omnitel」がサービスを展開しており、ヴィリニュス市内にいくつかあるOmnitelのストアで購入することが可能だ。通常はNFCに対応したOmnitelの提供する携帯電話をMokipayに用いるのだが、これではNFC非対応の端末を持つ旅行者はMokipayを利用できないことになる。
 そこで、NFCタグが仕込まれた専用の“ステッカー”を用意し、こうした旅行者には携帯電話の裏などにステッカーを貼付してもらうことで、擬似的に「タップ&ペイ」を体験してもらうことを想定している。また、ここで支払いに使うお金は「トップアップ」方式であらかじめ自身のアカウントにチャージしておく必要がある。リトアニア在住者であれば銀行口座経由でオンラインチャージが可能だが、旅行者の場合はOmnitelのストアに出向くことで店頭のカウンターで「トップアップ」を行なえる。

リトアニア最大の携帯キャリアである「Omnitel」のストアでMokipayの購入やクレジットのトップアップが可能となっている

 企業としては独立しているものの、基本的にMokipayはOmnitelのサービスとセットで使うことになる。旅行者が外国から持ち込んだ携帯電話やスマートフォンにMokipay対応のOmnitel SIMカードを挿入して、これとMokipayアカウントを結びつけることでサービスが機能する。Mokipayのパッケージを入手すると、ボーナスクレジットとして10リタス(2011年当時の為替レートで350円程度、現在はユーロに移行済み)が付属してくるが、実際にはOmnitelのSIMカードを購入してサービスを契約しているので、初期費用として数千円程度を支払っていると考えていい。

購入したMokipayとOmnitelのSIMカード。Mokipayのパッケージには専用ステッカーが貼付されており、これを当時利用していたiPhone 4の裏側に貼付してみた

 「これで無事にMokipayが使える」と思ったが、ここには罠が隠されていた。

 Mokipayの利用には前述のOmnitelのサービスで契約した回線と、そこで得られるリトアニア国内の電話番号が必要なのだが、筆者が待ち受け用の端末として用意したSIMロックフリーの「Nexus One」では、どうやってもサービスが有効化されない。Omnitelのストアで正味2時間ほど店員を挟んで本社のサポートセンターとやり取りした結果、どうやらMokipayが正式にサポートした端末でないとOmnitelのSIMカードを挿入しても正常に動作しないということが判明した。

 NFC対応端末は高価なので、同ストアで最安値の対応端末だったSamsung製のフィーチャーフォンを8000円ほどで購入して作業を再開すると、今度は何の問題もなくセットアップが完了した。結局、Mokipayが最低限動作する環境を構築するだけで1万1000円程度のコストがかかってしまった。

 なぜMokipay専用に端末を用意する必要があるのかは、すぐに判明することになった。

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