プリンターや複合機の需要はどんどん下がっていくのになぜか?
だが、プリントヘッドを使用するプリンタや複合機の需要は低迷している。
ペーパーレス化の進展や、オフィスへの出社率の低下、さらには、景気減速の影響などの影響を受け、販売台数は減少し、市場は縮小傾向にある。業界内では、中長期的に見ても、このトレンドは変わらないという見方が支配的だ。
それにも関わらず、エプソンがプリントヘッドの生産整備に積極的な投資をするのはなぜか。
それはエプソンが置かれた立場が、競合他社とは異なる点が見逃せない。
エプソンのプリンタおよび複合機は、インクジェット方式を採用している。しかも、独自のマイクロピエゾ技術により、圧をかけるとピエゾが変形し、その力で、高い精度で、インク滴を吐出することができる。1993年3月に発売したインクジェットプリンタ「MJ-500」に採用したのがはじまりで、それから30年を経過している。その間、マイクロピエゾは、技術を進化させ、秋田エプソンの10号棟で生産するプリントヘッドは、第3世代となるPrecisionCoreとなる。
PrecisionCoreでは、プリントチップを直列に並べたシリアルヘッド方式や、高速印刷などに適したラインヘッド方式など、プリンタの用途に合わせて構成。ひとつのチップで、家庭向けプリンタから、オフィス向けプリンタ、複合機、商業・産業印刷向けなど、多様なプリントヘッドを実現できるのが特徴だ。
そして、熱を加えない「Heat-Free Technology」を採用していることから、吐出するインクの選択肢が広く、ヘッドの耐久性が高い。また、省電力化や小型化がしやすいという特徴も持つ。
現在、オフィスではレーザー方式のプリンタや複合機が主流だが、昨今の環境意識の高まりとともに、オフィスではレーザープリンタから、環境性能が高いインクジェットプリンタに置き換える潮流が生まれ始めているという。
セイコーエプソンの𠮷田執行役員は、「欧州や台湾、アジア、南米など、環境に敏感な市場ではインクジェットプリンタが持つ省電力、省資源といった環境性能の高さに対するメッセージが理解されはじめている。日本でも関心が高まっている」とする。
エプソンでは、2026年にレーザープリンタの販売を終息する計画を発表しており、これも、インクジェットプリンタの販売を加速することにつながると見ている。オフィスにおけるレーザープリンタからインクジェットプリンタへの移行促進が、PrecisionCoreプリントヘッドの増産の理由のひとつといえる。
それだけではない。エプソンでは、大容量エコタンク搭載プリンタで先行し、すでに13年の実績を持つが、2023年度も過去最高の出荷実績を更新するなど、海外を中心に需要が伸びていること、エプソンのシェアがこれまで低かった複合機市場において、製品ラインアップを強化しており、販売ルートの強化とともに、その領域へのアプローチを本格化していること、商業印刷や産業印刷では、アナログ化からデジタル化への移行が進んでおり、同市場に展開するための製品が揃ってきたこと、捺染や回路基板の製造といった新たな分野への提案も加速しており、事業領域を拡大するチャンスがあるなど、PrecisionCoreプリントヘッドを搭載した製品の広がりが期待されている。
さらに、現在、エプソンのインクジェットプリンタにおけるPrecisionCoreプリントヘッドの搭載比率は約2割だが、商業・産業向けプリンタや高速ラインヘッド搭載のインクジェット複合機では、1台あたりの使用チップ数が多くなるため、搭載比率が増加することになる点も見逃せない。
こうした今後の動きを見越して、PrecisionCoreプリントヘッドの積極的な増産を進めているというわけだ。
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