サービス開始から9年を経て、kintoneの進化がますます加速している。昨年のモバイル版のリニューアル以降、開発体制も拡充され、直近ではいよいよIF関数・ROUND関数などがサポートされた。プロダクトマネージャーの長尾洋也氏に、最新のアップデートについて聞いた。
そもそも「IF関数ないの?」と言われていた
kintoneでは2020年1月にはIF関数をサポートした。計算フィールドに数式入れる入力フィールドの折り返しや改行もサポートされた。Excelが使える程度の人がわざわざkintone流のお作法を覚えなくても、手軽に利用できるというのがIF関数追加のねらいだ。
過去、IF関数がなかったkintoneだったが、実はできることはそれほど変わらないという。ただし、実現するためには複雑な計算式と本来の用途とは異なる設定を駆使するか、別途プラグインを導入する必要があった。
「たとえば、消費税込みか、税抜きかをドロップダウンで選ぶためには、税率アプリのようなものを別途で作って、そこからルックアップで値を引っ張ってくる必要がありました。でも、本来のルックアップやプラグインって、もう少し複雑なことをやるために使うモノなのに、覚えなければならない状態は適切でないと考えていました」(長尾氏)。
IF関数は以前からユーザーから求められてきた機能であり、そもそもkintoneの導入を検討するのにネックとなった機能だったという。「そもそも『IF関数ないの?』とは言われていました。kintoneに移行したいけど、IF関数がないのであれば難しいという声です。IF関数がなくてもkintoneでできることは多いけど、ないことに対する心理的な障壁があったので、これは実装すべきだと思いました」と長尾氏は語る。
実際に検討を開始したのは一昨年の夏くらいだったが、仕様を決めるのに時間がかかり、同時期にモバイル版の開発に全力を注いでいた。プラットフォームが異なるモバイル版の開発がうまく行き、チームの開発力に自信が出てきたこのタイミングでの実装になったという。
2月にはROUND関数もサポートされた。これを使えば端数の処理や小数点の移動などが容易になる。従来も「常時切り捨てる」といった設定は可能だったが、計算途中の数値でも切り捨て処理が発生していたという。しかし、ROUND関数を使えば、必要なタイミングに切り捨て処理を追加できるようになる。「お金の計算は会社のルールとして決まっているもの。kintoneだけ独自ルールというわけにはいかなかった」と長尾氏は語る。
「独自の回避策」や「仕様の穴ぼこ」を埋める取り組み
kintoneでは計算式の強化以外にもユーザーからの要望が多かったアップデートをいくつか施している。たとえば、ネイティブアプリのSAMLによるSSO(シングルサインオン)対応は、ネイティブアプリの利用を加速するアップデートだという。
「kintoneはブラウザでも、ネイティブアプリでも使ます。プッシュ通知を受け取ろうと思うとネイティブアプリを使う必要があるのですが、今度は大きな企業でよく利用されているSSOが使えなくなります。この二者択一をなくすために、ネイティブアプリでSAML認証に対応しました」(長尾氏)
kintoneユーザーにとってうれしいのは「テーブル名の表示」だ。テーブル名の表示ができなかったため、設定の際にも指定が難しかった。「正直、できなかったの?という機能ではあるのですが、テーブル名が表示できなかったので、今まではラベルフィールドにテーブル名を表示して、ヘッダ部分に置いてもらっていたんです。でも、これは本質的でではないノウハウでした(笑)」(長尾氏)。加えて、アクション機能でテーブル名を指定できるようになり、今後の拡張にも役立つという。
IF関数・ROUND関数の追加、テーブル名の表示に限らず、kintoneにはテクニックを知っている人じゃないとうまくアプリを作れないという事態も起こりがちだった。実装はスキルを持つパートナーにノウハウが依存しており、現場のユーザーがあとからアプリを変更するのも難しかった。この状況を変えていくのが、現在のkintone開発の大きなテーマだという。
「kintoneは『独自の回避策』や『仕様の穴ぼこ』がまだまだ多いので、これを変えていきたい。直感的に操作していけば、その通り動いて、メリットを感じられるサービスに作り替えています。kintone使ってみようかなと思っている人が、手軽にアプリを作り、業務改善に試せるようにしていきたいです」(長尾氏)
2019年は毎月アップデートを達成し、2020年もコンスタントに機能強化と向上を追加していくという。3月もレコード一覧の列幅を保存できるようになったり、ルックアップフィールドを関連レコード一覧の表示条件として設定可能になったり、リンクを開く際に別タブで開くか同じタブで開くかを選べるようになったり、地味ながら使い勝手をじわじわ上げるアップデートを施している。今後のアップデートにも期待したい。