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さくらの熱量チャレンジ 第18回

ものづくりと企画・調達のプロが立ち上げた熟練スタートアップの挑戦

生活を守るIoTを目指すゼロスペックの金子氏が惚れたsakura.io

2017年07月28日 07時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

提供: さくらインターネット

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社会課題を解決するIoTサービスの展開を目指すゼロスペックは、ものづくりのプロと企画・調達のプロの2人が立ち上げた「おじさんスタートアップ」。灯油の備蓄タンクで残量検知を実現するサービスにおいて、sakura.ioを採用した理由を同社のエンジニア金子恵一氏に聞いた。

ものづくりのプロと企画・調達のプロが出会って生まれたゼロスペック

 2015年設立のゼロスペックはIoTを使った地方創生を目指したスタートアップ。代表取締役の多田満朗氏は、ニトリグループのB2B事業の中で、調達や流通、経費における無駄なコストを徹底的に省き、コストパフォーマンスを武器とするニトリグループを支えてきた。そんなコストカットのプロである多田氏が、とある研究会で技術責任者の金子恵一氏に出会うところから、ゼロスペックのビジネスはスタートする。

 今回の取材相手である金子恵一氏は、人口補助心臓やタッチパネルなど、一貫してものづくりの現場を歩み続けてきた。単なる製品開発のみならず、新規事業や日本法人、工場などの立ち上げ、機器認証の取得、出資や助成金の獲得、販売先との提携交渉、知財の獲得や保護、事業売却まで幅広く手がけており、まさにものづくりの酸いも甘いも知り尽くした人物と言える。

 しかし、外から見れば十分成功したプロジェクトも、内情としてはどこも中途半端だった過去の反省があったという。「今まで所属していた大企業は経営計画に基づいて、人を動かしていたので、新しいモノを作るとか、新しい発想を入れることができない。利益を上げたい会社と面白いモノを作りたいという個人の想いは相容れなかったんです」と金子氏は語る。

ゼロスペック 技術責任者 金子恵一氏

 そして、これは事業部の目標をひたすら追い続けてきた多田氏も同じだった。多田氏と意気投合した金子氏は、ゼロスペックに合流し、技術分野をカバーする責任者に就任し、IoTの事業を推進することになる。「なにか1つのことを徹底的に極めてみたい。それがIoTだったんです」と金子氏は振り返る。

社会課題を解消するIoTを実現すべく北海道へ

 ゼロスペックが考えるIoTは、「トイレのドアにセンサーを取り付ける」といった身の回りの問題を解決するものではなく、より社会にインパクトをもたらす事業。課題解決の例がないブルーオーシャンであること、経済合理性があること、生活の向上を実感できること。社会課題の解決にIoTを活用することが、ゼロスペックの目指すビジネスだ。

 そのための舞台となったのが、ニトリ創業の地で、多田氏の地元でもある北海道。地方創生に必要なコネクションがすでに構築されていたのが大きい。そして、財政破綻をした夕張市の例を見るまでもなく、北海道は地元課題が山積する地域でもある。「このまま人口が減ったら、今までの生活は維持できなくなります。でも、IoTを使えば、ミニマムな生活を自律的に行なえるのではないか。人間のための便利さではなく、生活を守っていくためのIoTを考えていこうと考えています」(金子氏)。

 まず目を付けたのは、灯油配送の効率化にIoTを活用するというソリューションだ。冬の寒さが厳しい北海道では各家庭に490L(!)という巨大な灯油の備蓄タンクが設置されているが、郊外に行けば行くほど灯油の配送が困難という課題がある。契約しないと定期的な配送は行なわれないし、少量の配送だと1回の配送料も馬鹿にならない。「たとえば、灯油代が1000円でも、配送料が1000円とかかかる。明らかに高いのですが、寒い冬にストーブが付かないと死活問題。配送業者も1回あたりなるべく多くの量を配送して、売り上げを上げたい」といった課題となる。大企業が参入するには市場としては小さいが、確実にニーズのあるローカルニッチに、ゼロスペックはターゲットを合わせた。

北海道の各家庭にある灯油の備蓄タンク

sakura.ioの採用で経済合理性という壁を越える

 こうした課題の解決策として、当然各家庭の貯蔵タンクにセンサーを設置するというアイデアが生まれる。しかし、センサーが高ければ、経済合理性がない。実際、備蓄タンクの底に貼り付ける圧力センサーや備蓄タンクに穴を開けて差し込むタイプの残量検知計は存在するが、通信機能はないし、5万~10万円と価格も高い。「備蓄タンクを備えているのは80万世帯。このうち半分でも、センサーを取り付けられれば、課題は解決します。でも、お客様と配送業者の双方にメリットを得られなければ、誰も使ってくれません」と金子氏は語る。

 社会課題を解決するIoTに立ちはだかるコストの問題。これを解消できる1つの武器として選んだのが、さくらインターネットのIoTプラットフォーム「sakura.io」になる。「過去、情報システム関連の仕事をやっていた経験があり、必要なリソースを低廉なコストで、しかも迅速に提供してくれる事業者としてさくらインターネットのことは知っていました。だから、Webサイトを見た段階で、さくらといっしょにやりたいと思いました」(金子氏)。α版のときはまだまだ不安もあったが、β版を見た段階で「これはすぐに作れそうだ」という確信に変わったという。

 こうした声に対して、さくらインターネットの山口亮介氏は、「sakura.ioはコストをものすごく抑えているので、月額1000円なら使わないけど、数百円だったら使うというサービスにはすごく向いています。地方の課題自体は昔からあったけど、テクノロジーも未熟で、高コストだったので、今のようなことは難しかったんです。そういった点でsakura.ioへの期待は大きいです」と語る。

さくらインターネット loT事業推進室 部長 山口亮介氏

sakura.ioには「IoTはこうあるべき」という設計思想が見える

 sakura.ioは開発もスピーディ。金子氏も品質の高い試作機が短時間でできたことに驚いたという。「僕がやるのはデータをクレンジングして、必要なものを通信回線に載せるという処理だけ。基盤は20日くらいかかったのですが、JSONでデータを取り出したり、認証するところも完成度が高く、ソフトウェアの開発は2日間でできました」と語る。山口氏も、「α版のときに一度お話を伺ったのですが、その後7ヶ月くらい連絡が途切れていました。でも、次にお会いしたときには『できました』と試作品を持ってきて、驚きました(笑)」と語る。

 試作品の開発に際しては、2~3年の利用を前提とした省電力設計、寒冷地での利用に耐えうる耐久性などにも配慮した。「たとえば、センサーデバイスは電源を入れて、一分経ってから通信を開始するシーケンスになっています。デバイスのすべてに電気を通し、いったん暖めてから、データ送信します。ヒーターを取り付けなくても、安定した運用が可能になります」(金子氏)。

 また、寒冷地での安定した動作を前提に、一定期間でリセットする仕様を入れている。通信していない状態では、ほぼすべての回路の電気を落とし、RTCで時刻を同期。起動するたびにリセットするため、長時間動作させることによってソフトウェアがハングアップするといった不具合が起こりにくくなるという。しかも、一定の時間に通信が集中し、ふくそうが起こらないようランダムにリセットをかけている。こうした細かい工夫の1つ1つに金子氏のものづくりノウハウがしっかり息づいている。

 長らくものづくりの業界で実績を積み重ねてきた金子氏は、sakura.ioのシンプルさに共感を覚えるという。「日本企業が長らくやってきたのは、ボタンと機能がいっぱいある電化製品のイメージ。現場から見れば『この機能付けてもコストが上がるだけ』という無駄な機能がものすごく多かった。でも、sakura.ioにはそういった無駄がない。必要な機能だけがきちんと載っている」(金子氏)。

「sakura.ioには無駄がない。必要な機能だけがきちんと載っている」(金子氏)

 そしてこうしたものづくりには「IoTはこうあるべき」「センサーの通信はこうあるべきという設計思想が見え隠れするという。「余計な機能がないので、覚えることも少ない。開発スピードも上がるし、品質も高い」と金子氏は高く評価する。

社会インフラとなるIoTにsakura.ioが向いている理由

 試作機はタンクのキャップを差し替えるだけで利用可能。現在札幌の20世帯に設置されており、実証実験が進められている。今後、年内のサービスインに向け、試作機は量産前提の製品版としてさらに磨きをかけることになるが、ここでは社長の多田氏がニトリで培ってきたノウハウで徹底的なコストダウンが図されるという。

 たとえば、カスタム部材と標準部材があれば、間違いなく標準部材を採用。標準部品の中でも一番数が出ているモノを調べ、さらにどの会社が採用しているかまで調べて、最初からコストを下げていくという。仕入れ数に関係なくコストを下げるノウハウ。「私も驚いたのですが、2000円の電池が400円に、700円のアンテナが100円を切るんです(笑)」(金子氏)。もちろん、台数が増えれば、さらに下げられるという魔法のようなノウハウで、コストと品質が担保された製品版に近づけていく。そして、サービスも北海道で提供される予定となっている。

 ゼロスペックとしては備蓄タンクにセンサーデバイスを取り付けるのは、社会インフラとなるIoTのあくまで第一歩に過ぎないという。その点、さまざまなセンサーと組み合わせられるsakura.ioであれば、開発コストを抑えながら、多角的な利用が可能になる。「今はLTEですが、今後はLoRaやWi-Fiを使ってもよいし、使い方も老人の見守りやバスの運行、駐車場の管理、水道管のメンテナンスなどにも応用が利きます。地域に一定量を配布することで、こうした用途にも手が出せると思っています」と金子氏は語る。

 住み慣れた町で住民が不自由なく暮らせるミニマムな地域社会をテクノロジーで実現するゼロスペック。「生活を守るIoT」は、人口減少と高齢化が加速する日本が今まさに必要としているものだ。地方の課題を解消するIoTの構築に本気で取り組む彼らが描く未来はひたすら明るい。

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(提供:さくらインターネット)

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