ICT集積型の新しい地方創生のモデルを作れるか?
1周年のヨコスカバレーの熱気を見せた「YOKOS会議2016」
2016年06月28日 07時00分更新
6月26日、横須賀市は地元へのIT集積を目指すヨコスカバレーのプロジェクト結成1周年を記念した「YOKOS会議(ヨコスカイギ)2016」を開催した。吉田雄人横須賀市長の挨拶からスタートしたイベントでは、ヨコスカバレーのメンバー、若手、顧問などが次々登壇し、活動内容や方向性が多角的に把握できる内容だった。
吉田市長が語る横須賀の現状と危機
2年目を迎えるヨコスカバレーの現状をアピールすべく、都内にあるD2Cのイベントホールで開催された「YOKOS会議2016」。イベントでは、ヨコスカバレーのメンバーによるパネルディスカッションのほか、地元の若者によるスペシャルピッチ、ヨコスカバレー顧問を務めるD2C代表取締役社長の宝珠山卓志氏、日本GE代表職務執行者社長兼CEOの安渕聖司氏、アクセンチュア取締役会長の程近智氏などのパネルディスカッションなど、見どころのあるセッションが繰り広げられた。
YOKOS会議の冒頭、挨拶に立った吉田雄人横須賀市長は、「ヨコスカバレー」の趣旨と現状について説明した。
吉田市長が掲げる横須賀の問題意識は、人口の減少だ。3年前、横須賀市は1772人が転出超過(転出数-転入数)になった日本一の人口流出都市と名指しされた。これに危機感を覚えた吉田市長は、どん底からは上がるしかないという意気込みで市長就任以来社会減を削減する政策に着手してきたという。
まず行なったのは転出超過の状況の把握だ。横須賀で転出率が高いのは20~40代の層に偏っており、これに関しては近隣の三浦市、逗子市、葉山市、藤沢市と比べてもあまり変わらない。しかも、市内に住み続けたいという人の割合も79.4%となっており、居住満足度も高い。では、なぜ転出超過するかというと、やはり転入率が圧倒的に低いから。20~40歳代で調べると、葉山市の30.3%、逗子市の25.6%、藤沢市の20.6%、三浦市の17.2%に対して、横須賀市は13.6%。つまり、市内に引っ越してくる割合が圧倒的に低いことがわかる。
時代にあわない誘致から脱却し、新しいICTの集積へ
転入を増やすには、子育てしやすい、住宅が低廉、治安がよいなど、住環境の充実が重要だが、これに加えて働く場所を増やすという取り組みも重要になる。特に横須賀は、この15年で日産自動車や住友重工、関東自動車などの拠点がことごとくなくなった。雇用の欠如が人口流出につながっているわけである。
自治体が雇用を創出する方法としては、大規模な工場を誘致し、埋め立て地に工業団地を造り、山を切り崩して宅地を造成するのがこれまで一般的だった。しかし、吉田市長はこれらの施策を「時代にあわない。お金も土地もない」と断言する。その上で、「場所を選ばない、土地もあまり必要ないICTを支援することで、働く場所を作っていけるのではないか」とスタートアップ支援に行き着いたという。
とはいえ、吉田市長は行政の主導する既存のベンチャーやインキュベート支援には異を唱える。「行政の独りよがりで、事業者の育成ノウハウもない。なかなか成果が上がらない」と指摘し、行政の支援に限界があると説明。この結果として、横須賀市は行政は環境作りに徹し、民間の自助的なコミュニティが主導するヨコスカバレーに行き着いた。
その点、横須賀にはさまざまな強みがある。情報通信部門で先端的な研究を続けるYRP(横須賀リサーチパーク)があるほか、三浦半島市内にもICT事業者がいくつも存在する。さらに仕事だけではなく、生活も充実できる環境も充実している。こうした強みを元に、新しい企業誘致・企業集積の形を日本で作っていくというヨコスカバレー構想がちょうど1年前に発足したという。
ヨコスカバレーが目指すのは10年間で100社の企業誘致、100億円の雇用換算。行政としても、「叩けばきちんとよく響く市役所」を目指しており、職員も意識を共有していると説明した。吉田市長は、聴衆に対して、横須賀への関心・興味を持ってもらい、事業するなら横須賀で、できれば横須賀に転居までしてもらいたいとアピール。「今日、お集まりのみなさんの中でもなにかできそうだと思ったら、ヨコスカバレー構想にぜひ参加してもらいたい。横須賀の取り組みがロールモデルとして全国に波及し、日本全体の地方創生につながることを私としては期待している」と語った。
無料のプログラミングスクールやメディア連携した観光振興も
では、1年間でどのような活動をやってきたのか? YOKOS会議の企画を担当したlinK SupporTersの土屋健司さん、横須賀の谷戸地区でアプリ開発を進めるタイムカプセルの相澤謙一郎さん、鎌倉の地元興しを行なっているカマコンの宮田正秀さん、クラウドソーシングで仕事の地方移転を目指すランサーズの蓑口恵美さんなど、ヨコスカバレーのメンバーが登壇したパネルディスカッションでは、各ユニットの活動動向が披露された。
相澤さん率いるハッカソンユニットで仕掛けたのは、ご当地カレー日本一と言われる横須賀海軍カレーにかけて行なわれたカレーハッカソン。参加者はほとんど横浜と東京の人で、横須賀の街を歩きながら、横須賀の文化を学びつつ、ハッカソンで成果物を開発。横浜、横須賀、鎌倉の三市合同のグランプリで、横須賀発のチームが優勝したという。
また、同じく相澤さんが担当するプログラミング研修ユニットでは、昨年の10月からプログラミングスクールや学校での講習を実施。そして、いよいよ学生向けの無料プログラミングスクールである「ヨコスカプログラミングスクール」も6月から開講する。「横須賀の中でも、恵まれないお子さん、教育熱心じゃない親御さんもいらっしゃる。でも、やる気のある若者には平等にスキルを身につけてもらう場所を提供したい。今はピラミッド階層の下にいる人でも、いつかIT業界の永ちゃんとして成り上がれるところを作りたい」と相澤さんはアピールする。
さらに、ヨコスカバレーと言えばIT企業の誘致を推進すべく、開発合宿にかかる場所代、宿泊費、昼食代、移動代までを横須賀市が負担する「YOKOSUKA IT Camp」も有名。昨年に18社の応募があったが、今年も12社で申し込みが埋まってしまったという。
そして、土屋さんの肝いりでスタートしたのは観光振興。観光ポータルのSNS連動が乏しかったり、観光サイトの発進力が弱かったため、今までうまく伝えられていなかった三浦半島の観光をアピールすべく、今後はことりっぷやマップルなどのメディアとの連携を進めていく。
このように現在ヨコスカバレーとしては、イベントを散発的に試行している段階だが、「今後はいろんな企業を巻き込んだオープンイノベーションのような形で進めていきたい」と土屋さんは語る。参加者からは、今後の課題としては、基地の街として親和性の高い外国人やまだまだ少ない女性の巻き込み、自律的なコミュニティの成長、地元企業の事業の成功と雇用の創出などがテーマとして上がった。大企業や国の予算に頼らない自律的な地方創生モデルをITの力を使って実現できるか、2年目のヨコスカバレーの活動は正念場を迎える。
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