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東京から1時間の人口流出都市、横須賀の憂鬱と希望 ― 第1回

吉田雄人市長に聞いた「横須賀で今なにが起こっているのか?」

2016年05月16日 07時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp 写真●曽根田元

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2013年、日本でもっとも人口減が激しい都市と名指しされた神奈川県の横須賀市。品川から1時間弱という通勤圏にありながら、人口流出の止まらない40万人都市でいったいなにが起こっているのか? 横須賀市の吉田雄人市長に聞いた。

異国情緒あふれた横須賀で起こっていること

 品川駅で京浜急行に乗り、横浜を過ぎると、トンネルが増えてくる。品川から45分程度で、うたた寝をする間もなくたどり着いたのは横須賀中央駅。神奈川県の三浦半島の中央にある横須賀市の中心である。イメージしていたよりも、東京からかなり近いのに驚く。

 チェーン店が立ち並ぶ横須賀中央駅の周辺は賑やかで、市役所へ向かう道すがらには大きな商店街や横須賀名物である「よこすか海軍カレー」の店が軒を連ねる。駅の周りには高層マンションもいくつか立っている。筆者が中高生のときに過ごした平塚や藤沢など、神奈川にある中堅都市とまったく同じだ。駅から15分くらい歩くと、バルチック艦隊を打ち破った戦艦三笠と出会い、その先にあるさん橋からは東京湾で唯一の無人島である猿島に渡ることができる。

港に抜けると戦艦三笠と出会える

 他のまちと大きく異なるのは外国人の多さだ。「基地のまち」と言われる横須賀にはアメリカ海軍の基地があるため、当然ながら外国人の居住者も多い。横須賀中央駅から汐入駅側に向かう途中にある「どぶ板通り」には、横須賀名物であるヨコスカネイビーハンバーガーやスカジャンの店のほか、基地の外国人を相手にした英語表記のプールバーやパブが立ち並び、さながらアメリカのダウンタウンの様相を見せる。異国情緒あふれた港町という横須賀の印象通りだ。

賑わいを見せる横須賀の地元商店街異国情緒あふれた「どぶ板通り」の入り口

 にぎわいを見せる横須賀の市街地だが、ここも他の地方都市と同じく深刻な人口流出に悩まされている。東京からわずか1時間圏内の40万人都市でだ。一般的に人口の減少というと、出生数と死亡数の差から導き出される「自然増減」と住民の転居数から導き出される「社会増減」の2つがあるが、横須賀市は3年前に社会増減における人口流出都市ワースト1位となった。住民基本台帳人口移動の報告によると、2013年の1年間で1772人の社会減であった。

 この理由の一端は、製造業の空洞化だ。15年ほど前から、横須賀市からは日産自動車の久里浜工場、関東自動車の本社工場、住友重機械工業の浦賀ドック、マルハニチロの久里浜工場などが立て続けに撤退している。そして、企業拠点がなくなった2~3年後に2000~3000人規模の人口流出が起こっており、働く場がなくなることが、人口流出の要因と考えられる。さらに「谷戸(やと)」と呼ばれる横浜・横須賀地区で特有な山がちな住宅地では、その住みにくさから廃屋が後を絶たない。雇用を増やし、住みやすさを外部にアピールし、横須賀を再生していくのは喫緊の課題と言える。

横須賀が「選ばれるまち」になるために

 2009年、無所属で当選した吉田雄人市長は、こうした人口流出や雇用の空洞化、高齢化などに苦しむ横須賀市の舵取りを進めている。まずは吉田市長に横須賀の現状と市としての取り組みを説明してもらった。

横須賀市の舵取りを進める今年40歳の吉田雄人市長

 吉田市長は、早稲田大学政治経済学部を卒業後、アクセンチュアを経て、2003年に横須賀市議会議員に初当選。早稲田大学 大学院 政治学研究科修士課程(政治学専攻)修了後、政令市を除く市町村の統一地方選挙で全国一という得票数で再選し、2009年に市長に選出された。外資企業という職歴、特定政党の推薦や支持のない無所属での当選、当選当時33歳の若さで40万人都市の首長になったことで、地元からも大きな期待を寄せられている。

 現在2期目となる吉田市長は、横須賀市の現状について「実際に流出しているのは20~40代の結婚・子育て層。人口も4~5年前には近隣の藤沢市に抜かれてしまった」と危機感を強める。一方、市民満足度を調べると、8割の市民が横須賀市での居住し続けることを希望しているというファクトがあるという。「横浜市で6割、三浦市で5割程度にもかかわらず、横須賀市は市民満足度が8割を超えている。これは驚異的な数字です」(吉田市長)。実際、転出数についてはむしろ藤沢市の方が多く、転入数が圧倒的に少ないというのが、横須賀市の人口流出の現象として現れているようだ。

 実際に足を運べば体感できるが、横須賀は海や山などの自然が豊かで、旬の野菜や魚など食環境も充実している。そして、横須賀製鉄所から始まる製造業の歴史、NTTの研究開発機関を中心とした横須賀リサーチパーク(YRP)で培ってきたテクノロジーとの親和性、さらに多様な人種が集う基地のまちならではのカルチャーやコミュニティなどが、横須賀というまちに「厚み」を加えている。「私は横須賀出身ではないですが、それでも市民はきちんと受け止めてくれる。多様性に対して寛容なまちだと思います」と吉田市長は語る。

 こうした現状に対して、横須賀市は「選ばれるまち、横須賀」を掲げ、この人口流出に対してさまざまな施策を打っている。具体的には、小児医療費無料化や中学校完全給食の実施の検討、待機児童の削減、学力向上、セーフティネットの拡充などの「結婚・子育て世代政策の充実」、市街地での容積率や高さ規制の緩和、固定資産税の減額などを中心にした「住宅政策の充実」、治安のよさや公園の数、学力の高さなどをアピールする「都市イメージの創造・発信」の3つを柱として、人口流出に対応した施策を推進している。

 「横須賀のイメージについてアンケートをとると『外国人とふれあえるまち』というのが突出して高いんです(笑)。まあ、推して知るべしということなんですが、だったら『英語が学べるまち』とか、今までと異なった都市のイメージを発信していく必要があると思っています」と吉田市長は語る。

地元に雇用を作れば、満員電車なんて生まれない

 「満員電車は政治の責任。地元にきちんと雇用を作れば、満員電車なんて生まれるわけない」と指摘する吉田市長。本質的には雇用の問題を解消しなければ、人口流出を抑えることは難しい。企業誘致に関しては実績もあり、ニフコや日本エア・リキードなどが新たに横須賀に拠点を設ける。しかし、これまでのように企業をただ誘致して、工場を建てても、コスト面で優れたアジアのプレイヤーにきちんと対抗できる時代背景ではない。そこで生まれたのが、10年間で100社の企業を集積し、雇用換算で100億円の効果増を目指す「ヨコスカバレー」の構想だ。

ヨコスカバレーのWebサイト

 ヨコスカバレー構想では、ハッカソンやプログラミング研修、ITキャンプなどを実施し、横須賀をITのまちとして認知してもらう。これによって雇用を生みだし、人口流出への歯止めとしていくのが目的だ。こうした取り組みをさまざまな形で引っ張るヨコスカバレー構想実現委員会には、市長自らが会員となり、企業、個人、学生まで含めた会員30名以上が参加している。

 こうしたヨコスカバレーの取り組みとして、先日発表されたのは横須賀への誘致を促す「YOKOSUKA IT CAMP」だ。これは市外のIT企業が横須賀で合宿する場合に、会場や宿泊、市内移動の交通費、ランチまで無償提供するというなんとも太っ腹なプログラム。申し込み殺到で、即日受付が締め切られており、業界での注目度の高さが伺える。

 「オフィスは小さくても通信環境が整っていればよいというIT企業を誘致する。シリコンバレーまで行かなくとも、シーズ段階も含めたスタートアップを横須賀が全面的にサポートすることで、新しい企業集積のやり方を模索する」と吉田市長は語る。設立1年を迎えるヨコスカバレーの取り組みは、いよいよ正念場に差し掛かっていると言える。

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