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高橋幸治のデジタルカルチャー斜め読み 第26回

なぜクルマほしいのか、水口哲也が話す欲求を量子化する世界

2016年06月21日 09時00分更新

文● 高橋幸治、編集●ASCII.jp

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脳だけでなく細胞に染み込んだ記憶があるのかもしれない

高橋 新しい身体性への欲求ということで言えば、水口さんはずっと人間の「Wants」というものを追求されていますよね。旧来のマーケティングで測定できるような意識化されている表層的な「Needs」ではなくて、もっと人間の意識の深層に組織化されずに流動している言語化されない欲動のようなものと言いますか……。

水口 Wantsの探求はもう25年くらい取り組んでいるライフワークですね(笑)。ゲームに限らず、どんなメディアをデザインするときも、人間のWantsはいつも僕の創造の出発点になっています。さっきからクルマの話が出ているのでそれを例に取ると、人間がなぜクルマをほしがるのかというと、「一人になれる空間がほしい」とか「単純に女の子にモテたい」とか「自分の子供たちを喜ばせたい」とかいろいろな動機があるわけです。でも、その表向きの欲求を注意深く可能な限り分解して再び組み上げていったりすると、そのWantsを満たす対象は別にクルマじゃなくてもよかったということがわかってきたりするんです。

高橋 モノを離れてもWantsを満たすことはできるということですよね。

水口 Wantsはその人が生きてきた時代や経験の総量にも左右されるので、個人ごと、世代ごと、地域ごとにも違ったりするんだけど、同時代的なものも確実に存在するんでしょうね。個人や世代や地域を超越したWantsがうねりのように共鳴し合って、ある種の時代の気分のようなものを形作っていく……。いま、そうした潮流の中にVRなどのテクノロジーとそれらが生み出すエンターテインメントへの希求が絡み合っているような気がしますね。

高橋 僕はその人間のWantsはかなりの部分で身体と結びついているような気がするんですよね。だからそれを徹底的に確かめる意味でも、人工知能には行けるところまで行ってほしいという気がしています。

水口 人間は本当に脳だけで記憶しているのかという疑問もあるしね。人間の体を組織している細胞って数十兆もあって、部位や器官によって異なるらしいけど、数ヵ月から数年でほとんどの細胞が新しいものに更新されてしまうわけでしょ? 僕は細胞に染み付いた記憶というものがあるような気がしているんですよ。

 いまあまりにも忙しかったりするのでここ数ヵ月サーフィンができてないんだけど、もうかなり海の中にいるときの感覚を忘れ始めている……。そう考えると、細胞レベルで記憶している事柄というのがあるんじゃないかと思いますよね。

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