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イスラエルITいろはにほへと 最終回

セキュリティ技術を世界各国のデバイスカンパニーへ提供

IoTを根幹から支えるイスラエルの暗号技術スタートアップ、Discretix

2015年05月01日 09時00分更新

文● 加藤スティーブ(ISRATECH)

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 あらゆるものがインターネット接続するIoTの時代を迎えている。本連載第15回にて、ケレン・エラザリ氏が示唆した中でお伝えした通り、一般の人がこうした時代で専門家と同じ知識を持つことは不可能であろう。専門家以外の人が安全にインターネット接続を行うために、セキュリティ技術は欠かせないものとなっていくと筆者は視る。

 本日ご紹介するのは、セキュリティ技術の中で暗号技術に強みをもつDiscretixである。最近同社は、Sansa Security (サンサ セキュリティ)へとブランド名を変更、IoT時代に必要不可欠であるセキュリティ技術を世界各国のデバイスカンパニーへ提供している。Discretix 日本のカントリーマネジャー春田篤志氏にお話を伺った。

暗号研究者とエンジニア集団が敏速に開発

 Discretixの創業は2000年、スタートアップというには少し古い会社かもしれない。創業当初より組込みのセキュリティに特化し、特にスマートフォンなどバッテリ駆動で低消費電力が要求されるデバイスにおいて、フットプリントの小さい半導体IPならびソフトウェアソリューションを提供している。支援しているベンチャー・キャピタルは、Pitangoや、Sequoia Israelなどイスラエルでも一流どころである。

 同社は、ベースバンド向けプロセッサでセキュリティに携わっていたエンジニアがスピンアウトして会社を創業。当初は暗号のアクセラレータIPからビジネスを開始、現在では、暗号研究者、システムアーキテクト、ハードウェアエンジニア、ソフトウェアエンジニアと、特に組込みデバイスにおけるセキュリティを実現するのに必要な生粋のエンジニア集団となっている。創業から15年を経て、時代の変遷とともに、ノウハウをため込んできている。

 Discretixの技術優位性は、優れた暗号研究者と多くのハードウェアエンジニア、組込みソフトウェアエンジニアを保有しており、会社としてスピーディに製品開発や、プロジェクト遂行をできること。RTOSのみならず、Rich OS上でのプロジェクト経験も多い。

 特にチップ上でのTEE(Trusted Execution Environment)と呼ばれる環境(ARM Trustzone, Security Coprocessorなど)でのソフトウェア開発は、この業界においてもっとも多くの開発リソースならびに経験を有している。

 これまでは、主に暗号アクセラレータと付随するチップ上でのプラットフォームセキュリティならびに、スマートフォンなどのマルチメディアデバイスにおけるビデオオンデマンドなどの著作権保護技術分野(DRM分野)に注力してきたが、今後はIoTの時代を見据え異業種・業界にわたって利用されるコネクテッドデバイスにおいて、End to Endでのシステムセキュリティを実現できるよう取り組んでいる。

 背景にはビッグデータ・IoTの時代において、コネクテッドデバイス・センサーからのデータが有益となってきており、これらのデータを安心して有効に利用するには、やはり根幹としてインフラとしてのセキュリティ(データの機密性、完全性、真正性、可用性)が担保されている必要がある。

Sansa Securityが考えるIoT時代のセキュリティプラットフォーム

 ただIoTの世界では、これまでのデバイス・ユーザの認証とは逆の匿名性が担保されている必要があるなど、プライバシーに関する考慮も必要となり、従来のスタンドアローンシステムやサービスでは必要なかった複雑性も顧慮をいれる必要がでてきている。また、デバイスのライフサイクルの変化や、市場に出荷・配置されたデバイスにおいて、ソフトウェア・ファームウェアの更新による新しい機能のアクティベーションやその利用可否、利用頻度・履歴のモニターなども管理上大事な問題となってきている。

 そうした問題を解決するためには、世の中にあるコネクテッドデバイスへのキーならびにデバイス・プロビジョニング(必要なタイミングで、デバイスごとに必要な固有鍵などを投入して、必要な機能が利用できるように準備すること)が必要となってきている背景があり、Discretixでは独自のプロビジョニングのメッセージ方式を開発して、サーバならびにクライアントソリューションとして提案を始めている。

 Discretixは、要素技術であるデバイスのPlatform Security(暗復号機能、Secure Bootなど)では、一歩他社の先を行っており、今後の動向に注目したい。



筆者紹介──加藤スティーブ


著者近影

イスラエルの尖った技術に着目して、2006年にイスラエル初訪問。2009年にISRATECHを設立し、毎月40~60社のスタートアップが生まれるイスラエル企業の情報を日本へ発信し続ける。2012年にはイスラエル国内にも拠点を設立。イスラエルのイノベーションを日本へ取り込むための活動に着手する。ダイヤモンドオンラインにて「サムスンは既に10年前に進出! 発明大国イスラエルの頭脳を生かせ」を連載。


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