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イスラエルITいろはにほへと 第10回

対GDP比世界一のイスラエルVC事情

2014年10月07日 16時00分更新

文● 加藤スティーブ(ISRATECH)

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Israel

中東のシリコンバレーと評されるイスラエルだが、テクノロジー系のスタートアップやR&Dだけがハイテククラスターを構成しているのではなく、リスクマネーを供給する「ベンチャーキャピタル」の存在が不可欠。今回は、そんなイスラエルのベンチャーキャピタル周辺事情をFintech Global Capitalの本藤 孝代表パートナーにリポートしてもらう。


イスラエルのベンチャーキャピタル(以下、VC)の歴史は20年ほど。日本の40年と比べると歴史が浅いものの、投資額は日本の2倍程度(約2000億円)であり、両国のVCはさまざまな点で異なっている。日本のVCが金融をはじめとした大手企業の関連会社が多いのに対して、イスラエルは欧米と同様のパートナーシップ制。このため、イスラエルのVCは欧米のVCと共通する点が多い。ちなみに、日本の独立系VCではパートナーシップ制が増えてきている。

イスラエルと欧米のVCの共通点は例えば、パートナーの多くに起業経験があったり、独立性を保った形でファンドが運営されていたりする点だ。通常イスラエルのVCは投資先に対して、社外取締役の席をできる限り確保し、経営アドバイスや人材、顧客の紹介などを行う。取締役会は代表取締役社長が議長(チェアマン)を務めることが一般的な日本と異なり、イスラエルではスタートアップが成長段階に入ってくると、特にチェアマンは外部のシニアかつ業界に造詣が深い人を迎え入れる。

これには理由があり、成長を加速させるために業界(特に上層部)へのネットワークを強化するためや、会社を売却する際の交渉のイニシアティブをとってもらうためなどである。海外からの投資が多いこともあり、イスラエルの会社の取締役会は複数の国の人から構成されることが多く、それぞれのグローバルな視点から議論が展開される。取締役会では、開発の進捗報告や製品の市場への展開戦略、製品・サービスのプライシング、アライアンス戦略、重要契約の骨子、ファイナンシングなど、会社経営において重要なことが大所高所から話し合われている。

例えば開発系の話であれば、現在の主力製品の開発状況、技術的なボトルネックの有無、ボトルネックの克服の仕方、プロトタイプ完成後にどのセグメントや会社をターゲットに営業をするか、会社の営業及び各取締役がそれらの会社にネットワークがあるか──。

欧米、日本を含めていくつもの国の取締役会に参加した経験があるが、イスラエルの取締役会の雰囲気として特徴的なのは、同時に人が話すことがあるということだ。例えば、潜在顧客の話をしているところで、CEOが潜在顧客A社の話をすると、ある取締役がA社について「最近自分がそこの役員に聞いた話だと……」と語りだし、違う取締役がB社について「そのライバル会社のB社だが……」と同時に話しだし、お互いが話し続けるということがよく起こる。もちろん、最終的には議論が収束の方向に向かい、一定の結論を出すのだか、そのちょっとカオスなプロセスが特徴的だ。

また他の国ではあまりお目にかからない取締役会の議題として、CEOのリロケーションというのがある。イスラエルの複数の会社の取締役会で経験したことだが、自分達の製品の潜在顧客(メインの市場)のいる国に、CEOや営業責任者を転勤させることを本人の個人的な事情は考慮に入れず話し合うのである。もっともそこにはオフィスがあるわけではなく、赴いた人が自分でオフィスを探さなければいけないのだが……。例えば、本社があった米国西海岸にいたCEOを、取締役会で開発拠点のイスラエルの陣頭指揮をとらせることを決定し、CEOは家族ごとイスラエルに帰国。2年後に潜在顧客が多くいる市場にさらに取締役会の決定により転勤という会社も知っている。自国に大きな市場が存在しないが故のイスラエル人のモビリティーの柔軟性といえよう。

このリロケーションの話にもその一端があるが、イスラエルのスタートアップの経営陣は事業に対してのコミットメントが高いためハードワーカーが多く、またレスポンスを重視するといのも特徴だ。イスラエル人は独立心が高く個人主義的な人が多いが、男女を問わず兵役があるということに起因するのか、仕事の面ではトップダウンの組織形態であることが多く、個々人が組織の規律を順守する能力が高い。こういった点と技術力が相まって、GDP比VC投資額が世界一であることが示すように、イスラエルのスタートアップに世界中から資金が集まってくるのだろう。

とはいえ、日本でのイスラエルの産業・スタートアップに対する認知度は低く、欧米や中国、韓国などと比較すると、協業・投資などにおいて周回遅れの感が否めない。多くの日本人がまずはイスラエルを訪れて自分の目で技術力を確かめれば、間違いなく注目されるべき国なのだ。


筆者紹介──加藤スティーブ


著者近影

イスラエルの尖った技術に着目して、2006年にイスラエル初訪問。2009年にISRATECHを設立し、毎月40〜60社のスタートアップが生まれるイスラエル企業の情報を日本へ発信し続ける。2012年にはイスラエル国内にも拠点を設立。イスラエルのイノベーションを日本へ取り込むための活動に着手する。ダイヤモンドオンラインにて「サムスンは既に10年前に進出! 発明大国イスラエルの頭脳を生かせ」を連載。



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