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イスラエルITいろはにほへと 第9回

石を投げればスタートアップに当たる

2014年10月06日 16時00分更新

文● 加藤スティーブ(ISRATECH)

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Ani TERADA

「世界をひっくり返して人々を笑顔にする」というミッションを掲げ、今年からイスラエルで事業を展開するAniwoの寺田彼日ファウンダー兼CEO。

「StartUp-Nation」と呼ばれるイスラエルには現在6000社程度のスタートアップが存在すると言われている。中でも商都テルアビブは「石を投げれば、スタートアップに当たる」と言われるほどで、その数は軽く1000を超える。2014年7月より現地に移住したAniwoの寺田彼日CEOに、テルアビブ中心地に存在するコワーキングスペースの事情を伝えてもらった。


クールでスマート、イスラエルのコワーキングスペース潜入レポート

多くのスタートアップが集う街、テルアビブ市のロスチャイルドストリート──今回はその界隈にあるお洒落で、毎日仕事に行きたなくなる、素敵なコワーキングスペースについてリポートする。

ロスチャイルドストリート

多くのスタートアップが拠点を構えるロスチャイルドストリート。高層ビルの建設も進み、経済成長を感じさせる

今回紹介するのは、「The Library Tel Aviv」「MINDSPACE」「TechLoft」「Samurai House in Israel」(SHI)──の4カ所だ。


The Library Tel Aviv

最初に紹介するのは、行政がスタートアップを活性化させる取り組みの一環として、図書館を有効利用した「The Library Tel Aviv」。現在40名程度の起業家が活動している。

The Library Tel Aviv

スーパーやアパレルショップ、レストランが入る複合ビル内の図書館

「The Library Tel Aviv」を利用する条件は、

 ・テクノロジーベンチャー
 ・初期のシードステージ(まだ投資を受けていない)
 ・2~4人のチーム
 ・最低週4日間のフル稼働が可能

──というもの。選考にあたってはテルアビブ市民が優先されるが、外国企業の応募も可能だ。また利用料金は1席3カ月で750NIS(約3万円弱)というかなり安めの設定だ。

The Library Tel Aviv

The Library Tel Avivワーキングスペースの様子

机や椅子、電源、フリーWi-Fi、空調といった基本的な設備は万全で、快適に仕事ができる環境が整っている。場の雰囲気としては、図書館ということもあってか比較的静か。おのおの黙々と作業をしている印象だ。

The Library Tel Aviv

壁全面がブレスト用の黒板で奥はミーティングルーム

このオフィスで一番のお勧めは、窓からの眺望。オフィスからテルアビブの街と地中海を見下ろしてリフレッシュすれば、作業効率アップも間違いないだろう。

The Library Tel Aviv

テルアビブの街と地中海を一望できるデスク

The Library Tel Aviv

窓から見下ろすテルアビブの景色


MINDSPACE

MINDSPACEは、民間企業が運営するコワーキングスペース。オープン後わずか数カ月で入居企業数が50社ほどの満員状態。同じビルの別フロアに増設中という大人気だ。利用条件は特にないが、申し込み時の空席に応じて入居が決定するそうだ。

MINDSPACE

お洒落なカフェのようなワーキングスペース

扉を開けると広がるモダンでスタイリッシュなワーキングスペース。アポなし見学だったにも関わらず、スタッフも入居起業家も非常にフレンドリーに迎えてくれた。多くのスタートアップのメンバーがPCに向かって仕事に取り組んでおり、活気にあふれている。

MINDSPACE

テルアビブ市内の移動に便利な自転車の無料貸出しもある

月額の利用料金は、

 1人席:1650NIS(約4万200円)
 4人部屋:8500NIS(約23万3300円)
 8人部屋:11000NIS(約32万7800円)

──という比較的高めの設定。しかし新進気鋭のスタートアップが集まり、ドリンクや軽食がオールフリーで快適・お洒落なワーキングスペース、毎週のように開催される投資家や大企業と連携したミートアップがあるなど、十分な価値はある。

MINDSPACE

コーヒーやスパークリングウォーター、ポップコーンやクッキーなどが無料で提供される起業家のリフレッシュルーム

スタッフの話を聞いて特に興味深かったのは、スタートアップ同士の連携が生み出す新たな価値についてだ。MINDSPACEでは、「MINDCOIN」という仮想通貨が流通しており、それぞれの得意分野を生かして互いにサポートしているそうだ。例えば、UIデザインのサポートが欲しい場合は、時間単位でワーキングスペース内のデザイナーに仕事を依頼できる。人々の連携を円滑化し、新しい価値の創出を促進するエコシステムがコワーキングスペース内で成り立っているのがイスラエルらしいところだろう。


TechLoft

次も民間系コワーキングスペースTechLoft。こちらは、MINDSPACEとは対照的な、静かで落ち着いた雰囲気。現在の入居企業数は12社だ。

TechLoft

歴代の入居企業のロゴが並ぶエントランス

月額の利用料金は、

 1人席:1300NIS(約3万8700円)
 4人部屋:3500NIS(約10万4300円)
 1部屋:4000~9000NIS(約11万9200~26万8200円)

──と、民間のワーキングスペースとしては抑えめだ。

TechLoft

ホワイトボード代わりのガラスに数式が並ぶ

取材当日は、TechLoftの担当者が不在だったため内部を詳しく見ることができなかったが、とある男性がこちらに気付いて、担当者が外している旨、その週の予定と連絡先、ウェブサイトのURLまで親切に教えてくれた。私がこれまで接してきたイスラエルの方々は、このように総じて親切で多大なサポートをしてくれる。こういった「Give and Give」の文化が、イノベーションの源泉の一つになっているのだろう。

TechLoft

黙々と作業に励む起業家たち


Samurai House in Israel(SHI)

最後に紹介するのは、日本を代表するインキュベーターであるサムライインキュベートが運営するSamurai House in Israel。こちらは、他のワーキングスペースと異なり、日本文化を全面に押し出した温かみのある空間だ。

SHI

天井から提灯の下がる空間が、日本文化の発信基地としての役割も担う

月額の利用料金は、1人席が1000NIS(約2万9800円)。今回巡った民間系コワーキングスペースでは最も安い価格設定だ。オープンスペースの他、3つの会議室、イベントスペース、キッチン、リラックスルームと設備も充実している。

SHI

日本のグッズが並ぶ廊下

SHI

毎週ミートアップが行われるイベントスペースとオープンスペース

SHI

ブレインストーミング&リラックスルーム

私もこのオフィスで日々事業に取り組んでいるが、最も嬉しいことの一つは、訪問者がこのスペースに置いてあるもの一つ一つに興味を持ち、そこからコミュニケーションが広がることだ。日本とイスラエルは、遠い国であるが故にお互いの情報が少なすぎるのが現在の課題。SHIは毎週末のミートアップで日本文化を発信して、両国をつなぐ重要な役割を果たしている。

SHI

日本食を紹介するイベント参加者とサムライインキュベート代表取締役の榊原健太郎CEO(手前右)

日本とイスラエルの起業家が、イスラエルから世界を変えるサービスを生み出していくという志を持って切磋琢磨する空間は、非常に刺激的で可能性に溢れている。ここから、次々と世界を代表するサービスが生まれてくる未来が今から待ち遠しい。


筆者紹介──加藤スティーブ


著者近影

イスラエルの尖った技術に着目して、2006年にイスラエル初訪問。2009年にISRATECHを設立し、毎月40〜60社のスタートアップが生まれるイスラエル企業の情報を日本へ発信し続ける。2012年にはイスラエル国内にも拠点を設立。イスラエルのイノベーションを日本へ取り込むための活動に着手する。ダイヤモンドオンラインにて「サムスンは既に10年前に進出! 発明大国イスラエルの頭脳を生かせ」を連載。



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