誤用で始まる音の変化もまた楽器の始まり
―― この本の表紙のスピーカーだ。
船田 ここからプリミティブな電子回路に進んでいくんですよ。これ以上、原始的な発振回路はないというレベルで。完全に電池をショートさせてるだけ。スピーカーメーカーの人が見たら仰天しますね。
―― 電池つなぐとブリブリ鳴るけど、これ、どういうことなの?
船田 通電してコーンが動くと、一瞬このフックが外れるじゃない。そしてまたくっつくじゃん。そしたらまたコーンが動いて外れるじゃん。その繰り返し。
―― 電源の断続で発振しているということか。
船田 電気を流しただけだと音にはならない。断続的に流せば音になる。その断続を作る方法は何でもいいよと。このフックも、その本にはビールのプルタブとか書いてあるけど、アメリカみたいなタブはなかなか手に入らないから、こっちで工夫したわけ。これが原始的な電子楽器?
―― 発振器かな?
船田 その後、この本では延々発振器を作り続けるんだけど、この本の中で電子工作らしい電子工作は、これね。この本の中ではフォトレジスターと言っているけど、CdSと安い古いデジタル回路用のチップを使って、発振回路を作る。
―― 大きさの違うCdSが6つありますな。
船田 そうすると偶然のハーモニーが出るよと。光を周波数に変えているわけ。演奏性があるのよ。
―― いろんな周波数の音が混じっているから、モジュレーションしているように聴こえるね。このチップは?
船田 このICの中に発振回路に使える素子が6個入っている。これはいわゆるロジックICのひとつで、ヘックス・インバーターというんだけど、NOT演算をするんですよ。Hiを入れるとLoが出るというIC。それをフィードバックさせて、信号を遅らせてやると発振するわけですよ。つまりデジタルもアナログも、俺達にかかっちゃ同じだぜ、みたいな。発振さえすれば楽器になるという。
―― つまり誤用だよね。
船田 誤用です。これははっきり英語でも誤用と書いてありました。その本に載っているものを、船田なりにアレンジしてこうなったというものなんだけど、回路図的にはまったく同じ物が本に載っています。なので自由にCdSの位置や大きさを変えてアレンジして、自分なりの楽器を作ってみようと。
―― これはCdSを遮光したチューブに入れてやると、普通に弾けそうだよね。
船田 そう。あとはフラッシュを当てるとかね。LEDで発振している信号を光に変えてやると、光のフィードバックが起きるので、さらに複雑なモジュレーションがかけられるようになるとか。
―― いろんなテクニックを組み合わせると、欲しい音も得られると。
船田 この本で言う楽器を作るということは、つまりこういうことなんです。回路と原理、ベーシックなものを提供するから、あとは自分の気に入ったものにしてみようと。見た目に凝ってもいいし、演奏性を高めてもいいし。その過程で楽器とは何かを、自分なりにもう一回考えてみようということだね。
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