このページの本文へ

ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第176回

AMDの新「Venus」コアは2013年3月のRadeon HD 8970から?

2012年11月05日 12時00分更新

文● 大原雄介(http://www.yusuke-ohara.com/

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

新VenusコアのRadeon HD 8970は
2013年3月登場?

2011~2013年のAMD GPUロードマップ

 これで現行製品はおしまい。2012年はもう、AMD GPUに関する動きはなさそうだ。当初は「次期製品が2012年第4四半期に?」という話もあったが、前回のNVIDIAでも説明したとおり、製造を担当するTSMCの逼迫状況は、2013年まで解消されない見込みであり、ここに新コアを突っ込んだ場合、既存のRadeon HD 7000シリーズの生産がその分逼迫するのは必至だ。その状態でもし新コアに何か問題が出た場合、会社の存続すら揺るがしかねない状況になる。そのため、仮に新コアに問題があっても、Radeon HD 7000シリーズの量産には支障が出ない状況になるまで待つのが賢明というか、当然のことであろう。

 その新コア「Sea Island」シリーズだが、現在は「最初の製品が2013年3月くらいになるだろう」と見られている。Sea Islandの最初の製品が、「Venus」と呼ばれるコアである。Venusは基本的に、Radeon HD 7970/7970 GHz Editionの後継のハイエンド製品となる。内部アーキテクチャーそのものは、「GCN 2.0」(Graphics Core Next 2.0)になる。ただし、これは名前がアナウンスされているのみで、既存のGCNとどう異なるかについては、今のところ明確な説明は一切ない。

 おそらく「Radeon HD 6900」世代の「VLIW4」から、Radeon HD 7900世代の「GCN」に移行した時ほどの変更はなく、それ以前の「VLIW5」から、VLIW4に変更に変わった程度のものではないかと想像される。具体的に言えば、シェーダーの効率を多少改善して、同じ動作消費電力であればより高い動作周波数やより多くのシェーダーを搭載可能になるとか、メモリーアクセスの効率を改善する、などが見える形での変更点となるだろうと思われる。

 AMDのこれまでの製品リリースプランから考えれば、最初にリリースされるのはVenusを搭載するハイエンド品の「Radeon HD 8970」であろう。今のところ伝わっているスペックでは、シェーダー(AMD用語のRadeon Core)を2560個搭載し、テクスチャユニットは160基、ROP(ラスタライザ)は48基となっている。この比率は面白い。Radeon HD 7970、つまり最初のGCNの場合、「シェーダー:テクスチャユニット:ROP」の比率は、おおむね「64:4:1」となっていた。一方、Radeon HD 8970を同じように計算すると、「64:4:1.2」となる。つまり相対的にROPが強化されているわけだ。このあたりが、GCN 2.0における性能強化のポイントのひとつなのかもしれない。

 Radeon HD 8970では動作周波数がやや引き上げられて、最大で1.15GHzあたりまで駆動できるようになったようだ。そうなるとボトルネックになりやすいのが、ビデオメモリーである。メモリーについては、バス幅そのものは384bitのまま変わらないが、メモリーバスの周波数を6.7GHzあたりまで引き上げる、という話が聞こえている。

 メモリーバス周波数の引き上げにより、帯域は320GB/秒を超えるという話なのだが、問題は「そんなGDDR5を本当に供給できるのか?」という点にある。一応はサムスンやSK Hynix、エルピーダといったDRAMベンダー各社はいずれも、7GHz動作のGDDR5のサンプルを2010年頃までに揃えてきている。だから不可能というわけではないのだが、当時は動作周波数が高い分だけ消費電力と発熱もやはり高めで、これらがむしろ問題という話であった。この問題が何かしら解決されていれば、この動作周波数での動作も可能だと思うのだが……。

 ところで、Radeon HD 8970が300GB/秒を越える帯域を確保していることからすると、Venusコアは倍精度浮動小数点演算を、きちんとサポートするハードウェアであることが推察される。単精度で十分なら、こんなに帯域は必要ないからだ。論より証拠で、倍精度はエミュレーション動作となるGeForce GTX 680の帯域は、200GB/秒に満たない程度でしかない。

 ところがゲームを動かすとGeForce GTX 680がRadeon HD 7970より高速になるのは、ようするに32bit幅、つまり単精度浮動小数点演算やゲームで使う整数演算系であれば200GB/秒あれば十分という話である。逆にRadeon HD 7970が最大264GB/秒の帯域を持ちながら、これをフルに使うのは64bit幅の浮動小数点演算時であり、32bit幅では帯域をやや持て余していることの裏返しである。つまりハイエンドは引き続き、GPGPU向けの「Fire Pro」とコアを共用することになりそうだ。

 このRadeon HD 8970からやや性能を落としたものが、「Radeon HD 8950」としてほぼ同時期に投入されることも確定している。性能レンジとしてはRadeon HD 7970にかなり近いが、ちょっとだけ劣るというあたりに調整していると思われる。

カテゴリートップへ

この連載の記事

注目ニュース

ASCII倶楽部

プレミアムPC試用レポート

ピックアップ

ASCII.jp RSS2.0 配信中

ASCII.jpメール デジタルMac/iPodマガジン