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ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第173回

タブレット向けの次世代Atom「Clover Trail」の特徴とは

2012年10月15日 12時00分更新

文● 大原雄介(http://www.yusuke-ohara.com/

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Atom Z2760の内部を見ると
インテルらしからぬ特徴が見える

Atom Z2760の内部構造

 いよいよ本題のClover Trailについての説明に入ろう。Atom Z2760の内部構造は上の画像のようになっている。1.8GHz駆動のAtomコアをデュアルで搭載し、PowerVR SGX545ベースのGPUに加えて、ビデオデコード/エンコードエンジンや「Video Image Enhance」「Display Control」といったハードウェアで、動画の録画/再生時のCPU負荷軽減を図る。また「Image Signal Processor」と呼ばれる内蔵カメラ(最大800万画素)の撮影処理を行なうアクセラレーターも搭載するなど、タブレット向けとしては非常にコンサバティブな構成である。また、ビジネス向けに暗号化エンジンなどを、ハードウェアで搭載しているのもわかりやすい。

 むしろ、Atom Z2760の特徴はそれ以外にあると、筆者は考えている。それは「タブレット向けSoCならごく一般的だが、インテルがこれを実装するとは思わなかった」というポイントだ。まずメモリーインターフェースには、通常のDDR2に代わってモバイル機器向けの「LPDDR2」を2チャンネル構成で搭載する。これは特に待機時の省電力性改善につながっている。

 また、タブレットには付きものであるセンサー(加速度/角加速度/方位/温度/気圧)の接続に、「I2C」および「HS-UART」※1を新たに追加した。I2Cというのは、信号線2本だけで通信できる低速のインターフェース。HS-UARTは要するに非同期通信のことで、昔懐かしい「RS-232C」も、UARTのひとつである。インテルが一度は「レガシーフリー」をうたってPCから排除したはずのUARTを、また搭載することになったのは面白い。
※1 High-Speed Universal Asynchronous Receiver Transmitter

 ちなみに、これまでのx86ベースのタブレットの場合、こうしたセンサーは一度I2CやUARTを搭載するマイコンに接続して、そのマイコンをPCHに(GPIOポート経由などで)接続という2段式で実装していた。しかし省電力性や低コスト/低実装面積を追求していくと、当然これでは不利になるので内蔵したのであろう。

 SDIOやeMMC、HDMIなどはSM35 Expressにも搭載されていたから、Atom Z2760が搭載するのも不思議ではない。一方で、カメラの高解像度化にともないUSB接続では難しくなってきたのか、「MIPI-CSI」(Camera Serial Interface)を搭載するようになったのは、時代の趨勢だろう。また目立たない部分では、PCIおよびPCI Expressが全廃されており、Wi-Fiコンボチップなどの外部デバイス接続には、もっぱらUSBを使う。これは省電力化に効果的であるが、拡張性は著しく劣ることになる。タブレット向けだからこれで十分と割り切ったようだ。

 ちなみに筆者が一番驚いたのは、内部の周辺回路に「OCP」(Open Core Protocol)と呼ばれる規格を利用していたことだ。例えばAtom Z2760の内部のうち、インテルが自前で提供できるのはCPUと、おそらくLPDDR2のインターフェース、USBのほかはいくつかの周辺回路のみ。GPUは英Imagination TechnologyのPowerVRを利用しているし、おそらくImage Signal Processorも他社から購入していると思われる。問題はこうした個々のコンポーネントをどうつなぐか、という話だ。これには3つほど方法がある。

  • ARMの提唱した「AHB」(Advanced High-Performance Bus)「APB」(Advanced Peripheral Bus)と、これをまとめた「AMBA」(Advanced Microcontroller Bus Architecture)や、その発展型である「AXI」(Advanced eXtensible Interface)を利用する。
  • 業界団体「OCP-IP」が提唱する「OCP」を利用する。
  • 独自に内部接続バスを開発する。

 普通はARMにライセンス料を支払って、AXIを使うのが一般的である。だがインテルはそれを嫌がったようで、インテル自身が製造したブロック同士は「IOSF」(Intel On-chip System Fabric)で接続しつつ、外部から購入したブロックはOCPで接続。その間には「IOSF-OCPブリッジ」を入れて通信するという、不思議な形態になっている。

 これについては、インテルの担当者に話を聞いたことがある。しかし「将来的にはAPBを使うかもしれないけど、今のところはIOSF+OCPが一番いいソリューションだった」という紋切り型の回答しか返ってこなかった。ちなみにこのIOSF+OCPの構成は、Medfieldもまったく同じだそうで、このあたりからも両製品が本質的には同じものであることがうかがえる。

 今のところ、Atom Z2760の性能を示す数字は一切公開されていない。1.8GHzのデュアルコアAtomと考えれば、おおむね推測はできるだろう。むしろキーポイントは消費電力の方だ。Haswell世代では、省電力の目玉として新たに「S0iX」(S0i1/S0i3)という動作状態が設けられた。これはCPUコアは休止させつつも、チップセットなどの周辺回路は稼動状態とすることで、消費電力を下げつつI/O処理を可能とする。Windows 8の目玉である「Connected Standby」には欠かせない技術である。

 インテルが示したAtom Z2760ベースタブレットのリファレンスデザインでは、バッテリーフル充電状態からHD動画の再生で10時間、Connected Standbyを3週間維持できるとしている。3週間のConnected Standbyを実現するために、Atom Z2760ではS0i3状態におけるチップ(CPUコア+周辺回路全体)の消費電力を2mW未満に抑えたという。こうした省電力技術が、Atom Z2760の最大の特徴ということになるだろう。

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