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進化が止まらない!AWSの最新動向 第10回

「クラウド=コスト削減」から脱却した新しい価値創造へ

2000年当時のAmazon.comを毎日追加!AWSは止まらない

2012年09月14日 06時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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アマゾン データ サービス ジャパンは、AWS(Amazon Web Services)の最新動向やユーザー事例などを紹介するカンファレンス「AWS SUMMIT TOKYO 2012」を開催した。基調講演では、米Amazon Web Services LLC 副社長のアダム・セリプスキー氏は、途中ユーザー事例を挟みながら、AWSの最新動向やクラウドのもたらす変革について語った。

エンタープライズでの導入が進むAWS

 国内初上陸となるAWS SUMMIT TOKYO 2012の冒頭、登壇したアマゾン データ サービス ジャパン 代表取締役社長 長崎 忠雄氏は、まず昨年3月からスタートした東京リージョンが史上最速の初年度成長を遂げたことを報告し、集まった聴衆に謝意を表した。

アマゾン データ サービス ジャパン 代表取締役社長 長崎 忠雄氏

 また、東京リージョンの開設とともに、国内においてエンタープライズの顧客が急増していると説明。長崎氏は、4ヶ月でサイトをAWSに移行した花王、70のグループ会社のファイル共有基盤をAWS上に構築した電通、基幹システムとなるSAPをAWSに移管したケンコーコムなどの事例を挙げ、いよいよ国内で本格的なクラウド時代が到来したことを示した。

順調に増えるAWSの国内エンタープライズ事例

 また、パートナー3社とAWSが共同で金融機関がAWSを利用するためのセキュリティリファレンスを公開したことを紹介。「200を超えるFISC(金融情報システムセンター)のチェック項目を、パートナー様が1つ1つ検証してくれた」(長崎氏)という。さらにパートナーのエコシステム構築も進み、昨年の30社から、今年は77社に拡大。デベロッパー支部やスタートアップ企業のコミュニティも順調に増えたことをアピールした。

東京リージョンにアベイラビリティゾーン追加

 続いて登場した米Amazon Web Services LLC 副社長のアダム・セリプスキー氏は、「初期投資が不要」「低額な変動価格」「実際の使用分のみの支払い」「セルフサービスなサービス」「スケールアップ、ダウンが容易」「市場投入と市場投入の改善」といったクラウドコンピューティングの基本的な特質について改めて説明した。

米Amazon Web Services LLC 副社長 アダム・セリプスキー氏

 こうした特質を満たすべく、2006年にスタートしたAWSだが、昨年は東京、直近ではブラジルにリージョンを追加し、現在では世界で8つのリージョンを抱えるに至っている。同日付けで東京リージョンには新たなアベイラビリティゾーンが追加されたことも発表され、計3つのアベイラビリティゾーンによりキャパシティや冗長性は一層強化された。

 その規模は「年商27.6億ドルだった2000年当時のAmazon.comと同じキャパシティを毎日追加している」(セリプスキー氏)という未曾有のスケールに成長している。ストレージサービスのAmazon S3で扱うオブジェクト数も2006年当時2600万だったが、2012年7月の時点で一兆を越し、秒あたり75万というピークリクエストをさばいているという。また、こうした「規模の経済」を背景に、6年で20回におよぶ値下げも実施。セリプスキー氏は、「競合との対抗ではなく、効率化した分をユーザーに還元している」とアピールした。

2000年当時のAmazon.comと同じキャパシティを毎日追加

Amazon S3のオブジェクト数は1兆越え

 AWSではサービスや新機能も加速度的に増えており、昨年は82だったが、今年は現時点で68に至っているという。セリプスキー氏は、長期アーカイブ用のストレージサービス「Amazon Glacier」や、保証型のIOPSである「Amazon EBS Provisioned IOPS」、SSDを用いた高速・低遅延な「High I/O Instances For EC2」など最新のサービスもあわせて紹介した。

「コスト削減」を超えたクラウドの価値創造

 2時間に渡ったセリプスキー氏の基調講演で興味深かったのは、後半で言及した「クラウドコンピューティングの7つの変革」である。冒頭の「クラウドコンピューティングの基本的な特質」をその普及度にあわせて進化させ、導入する企業にとっての価値を端的に示したものだ。

クラウドコンピューティングの基本的な特質

 たとえば、4の「すべてのデベロッパーの手にスーパーコンピューティング」をというテーマでは、AWSを束ねることでスーパーコンピューティングとして利用できるという例が示された。実際、1064のEC2のインスタンスを束ねたクラスターは、240テラフロップスの処理能力を持ち、スーパーコンピューター500位のうち42位に認定されているという。これを1時間1000ドル以下で利用でき、経済的な面でも大きいと指摘した。

EC2のインスタンスを束ねてスーパーコンピュータとして使う

 また、5の「たくさんの実験と早い失敗体験」はクラウドを利用することで、恐れることなく、新しいアイデアが試せることをアピールしている。初期コストがかからず、従量課金のAWSであれば、トライ&エラーを気軽に重ねることが可能。「500ドルから失敗でき、イノベーションに活かすことができる」(セリプスキー氏)と、新しい製品やサービス開発にクラウドを活かせると説明した。

気軽に失敗できるのもクラウドのメリット

 7つの変革では、その他ビッグデータでのAWS活用や迅速なモバイルへの対応、今まで懸念とされてきたセキュリティ面の充実ぶりなどが訴求され、クラウドを導入する理由が改めて再定義された。従来クラウドのメリットといえば、コスト削減がメインで、リーマンショック以降の情報システム部にはこの訴求が一番効いたはずだが、今回のセリプスキー氏の講演ではAWS自体が今までと違った価値提案をしてきたと受け止められる。

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