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百家争鳴!ビッグデータの価値を探る ― 第10回

「データに語らせる」を成功させるためのアプローチとは?

富士通のキュレーターが挑む「ビッグデータからものづくり」

2012年08月27日 09時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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8月24日、富士通はビッグデータのソリューションを実現するための「データキュレーション」サービスに関する勉強会を開催した。勉強会では、キュレーターの肩書きを持つ高梨益樹氏が、ビッグデータにより、エンドユーザーの商品企画・開発そのものに関わっていけるとアピールした。

商品や業務から取得されたデータをフル活用

 富士通はプロダクト、SI、サービス、データの4つを事業領域としてビジネスを推進しており、このうち高梨氏が所属するインテリジェントサービス本部は、データという新領域をカバーする。現状は、BI/BA(Business Intelligence/Business Analytic)のみならず、ビッグデータの領域にまでカバー範囲を拡大している。昨年の1月にはデータ活用をサポートする組織として、研究者、コンサルタント、プロダクト開発者、SEを集め、キュレーター組織を設立。顧客の「眠らせているデータ」を分析・評価し、業務の効率化やビジネスを実現する新しい価値をデータから創出すべく、コンサルティングを提供するという。高梨氏は、「SIをエンジニアが、サービスをクラウドが支えるのと同じように、データの領域をキュレーターが支えていきたい」と概説した。

富士通 インテリジェントサービス本部 インテリジェントコンピューティング室 シニアマネージャー 高梨益樹氏

 高梨氏は、まず富士通の捉えるビッグデータについて説明した。一般的にビッグデータといえば、従来よりデータの集積度を向上させることで、業務の効率化のみならず、社会インフラの高度化などを実現するものと解釈されているが、高梨氏は、「目的なく社会を捉えても、人の役には立たない。公共サービスとして利用すると、ビジネス性が感じられない」と語る。その点、富士通はビッグデータの価値を社会ではなく、より個人にフィードバックすることを目指しているという。また、アンケートや観察といった社会学的アプローチからの推測ではなく、センサーやPOS、Web、音声・画像などの収集されたデータから、ユーザーにとっての価値を導き出せると説明する。

 では、実際にどのようなデータを蓄積・活用すべきか。ビッグデータの事例では、必ずSNSや天候、地図などの外部データが例に挙がるが、高梨氏によると、これはあくまでヒントに過ぎないという。むしろ商品そのものから取得したコールセンターのログや修理データ、業務の中で生み出されるデータなどの事業者しか入手できないデータにこそ価値があるとのこと。そして、これらのデータを融合し、新商品・新サービスにつなげていくことこそ、キュレーターの役割だ。

 高梨氏は、「今までICTを用いて農業であれば販売や物流支援、製造業であればラインや生産管理などの効率化や支援を行なってきたが、たとえばよいニンジン作りや製品開発にまでは寄与できなかった。しかし、今後はビッグデータの活用により、ICTによって新商品やサービスの開発まで踏み込める」と、今までのICTの限界を打ち破り、より顧客のビジネスの上流まで深入りできるキュレーターの将来性を説明した。一方、顧客側においても、「今まではデータが少なかったり、経験に頼っていた部分を、データでサポートできるかも知れない」(高梨氏)というメリットがある。

データ活用により、ICTがユーザーの本業に踏み込める

8週間で「データに語らせる」

 同社のキュレーター組織では、モデリング、アナリスティック、システムデザインなどのスキルをカバーし、「データコンサルティング」というサービスで、データの利活用の実現性を検討することができる。このうち重要なのが、目的のためにどのような情報が必要かを検証するモデリングだという。高梨氏は、「たとえば、今までのコモディティ化されたエアコンではなく、よく眠れるエアコンを作ろうと思ったとき、どのような指標を元にして、どのような制御系を作ればよいかがまずわからない。つまりスペックが作れないことになる。これに対し、どのようなデータを収集すればよいかを検討する作業」と説明する。

キュレーターの役割と「モデリング」「アナリスティック」「システムデザイン」などの専門スキル

 標準のデータコンサルティングでは、2週間でデータビューイングによる目標設定、6週間でモデリングとアナリスティックを行なう。

 データビューイングでは顧客のデータから特徴項目や集団を抽出し、先入観を持たずにデータを分析。今までのように業種や業務のプロが策定した仮説を検証していくアプローチと異なり、データを多角的に捉えることでさまざまなゴールを導出する全方位型のアプローチを標榜しているという。高梨氏は、「BIはソリューション化されていることが多く、誰かが策定した仮説やモデリングに基づいて自社のデータを当てはめると、最適解が出るというアプローチ。一方で、眠れるエアコンを作るというお題では、誰も仮説を作ってくれない。だから、よりデータに語らせていく必要がある」と語る。そして、これらの結果を元に分析方針書を作成し、顧客に披露したのち、ディスカッションを実施。これを元に最適な解析モデルを作成し、評価・フィードバックを繰り返すことで、チューニングを行なっていく。

先入観を持たずに全方位的にアプローチすることでデータに語らせる

製品の稼働状態を利用者の使い方を「写像」

 説明会の後半では、顧客とキュレーターがどのように連携し、エアコンのようなものづくりを進めていくかのデモが行なわれた。まず製品や利用者を理解するために収集できる現状のデータを見極め、足りないデータや理解の可能性を把握する。その後、種別や解像度などのデータデザインが決まったら、製品の稼働状態と利用者の使い方を「写像」し、それを元に製品開発に必要な指標をまとめていく。たとえば、エアコンであれば、室内温度、外気温度、設定温度、消費電力のほか、よく眠れるという製品を作るのであれば寝返りやいびき、睡眠時間などのセンサーデータを元に新製品に必要な指標を作成していくことになる。

新しいエアコンを開発するための指標を作成

 指標がまとまれば、具体的な機能の開発や制御系の設計まで進めるわけだ。こうなると、まさに顧客のビジネスの上流まで深入りする形だが、「キュレーターに業務知識は必ずしも必要だとは考えていない。違うモデルでも同じフレームワークで対応できる」(高梨氏)と、汎用的なスキルで顧客のニーズを満たせるとした。また、会員管理の高度化やスマートハウスなどものづくり以外のコンサルティング領域に関しても披露された。

 今後は、データ活用モデルの検証や実現までのサポートまでを行なう「プロフェッショナル」サービスまで提供する予定。また、富士通自身も業務データ由来のビッグデータからものづくりを進めているプロジェクトがあるとのことで、遠からずその成果物も見ることができそうだ。

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