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百家争鳴!ビッグデータの価値を探る第4回

捨てていたデータを宝の山にする試行錯誤が未来を拓く

“常識を覆す迅速な仮説検証へ”JR東WBが考えるビッグデータ

2012年05月10日 09時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp 写真●曽根田元

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JR東日本ウォータービジネス(以下、JR東WB)にとってビッグデータは、仮説検証を迅速に行なうためのソリューションだ。同社が「自販機イノベーション」でビジネスを拡大させてきた背景には、データ解析にまつわるさまざまな試行錯誤があったという。

自販機でもPOSデータをとりたい

大型のタッチパネルを備えた次世代自販機

 JR東WBは、JR東日本管区内の「エキナカ」において自販機事業を展開している企業だ。近年は「acure(アキュア)」ブランドのSuica対応自販機や次世代自販機を幅広く展開するほか、自社ブランド商品やメーカーとのコラボレーション商品も手がける。今春は、顧客動向とアンケートを基に開発した「落ちないキャップ」採用のミネラルウォーター「フロムアクア」を投入(参考記事:「落ちないキャップ」はビッグデータから生まれた?)。縮小傾向といわれる自販機ビジネスの中で、堅実な売り上げ拡大を実現している。

 これを可能にした「自販機イノベーション」と呼ばれる各種の施策を進めるために、同社は自販機で収集したPOSデータやSuicaのIDデータを積極的に活用している。これはビッグデータなのか?という疑問の前に、まずは同社の取り組みについて見てもらいたい。

 JR東WBが設立当初から顧客ニーズの把握に注力してきた背景には、複数のメーカーの商品を集めた「ブランドミックス」という戦略がある。JR東日本ウォータービジネス 取締役 営業本部長 笹川俊成氏は、「ブランドミックス機は売れ筋商品をカテゴリごとにまんべんなく配置させる必要があるので、そもそも顧客のニーズを知らなければ、ビジネスが成り立ちません。われわれのようなミックスオペレーターとしては、品揃えがすべてなんです」と話す。自社製品のみ扱うメーカー製自販機、商流の問題から一部商品のみしか扱えない街中の自販機に比べ、限られたスペースで購入率を上げるための営業・マーケティング施策は、同社の生命線というわけだ。

JR東日本ウォータービジネス 取締役 営業本部長 笹川俊成氏

 だが、当時の自販機で取得できたデータは、前回の商品投入からの売り上げを示す「期間データ」のみ。「売れ行きのよい自販機であれば1日ごとに集計できますが、都心から離れた駅の自販機では1週間に1回ということもあります。データも商品ごとの販売数だけなので、いつ売れたかわかりませんでした」(笹川氏)とのことで、1ヶ月ごとの売り上げデータを元にしたランキングを基に、売れる商品の品切れをなくすことを焦点に絞っていた。

 とはいえ、他の小売の世界では週次・日次で売り上げをとれるPOSデータの利用がすでに浸透しており、「社内でも、やはり自販機でもPOSのようなデータが採りたいねという話になりました」(笹川氏)。そこで、メーカーと共同で「VT-10」というSuicaのリーダー/ライターを開発。Suica対応の自販機や次世代自販機にも組み込み、時間帯別、箇所別、単体商品の売り上げなどのPOSデータをSuicaのIDデータと関連づけて取得できるようにした。これにより、「カテゴリごとの売れ筋といった大きなバランスや単品の商品力などを調べようと思っていました」(笹川氏)という。

自販機でのSuica決済機を投入

POSデータは溜まったけれども……

 こうした経緯で採り始めたPOSデータやSuicaのIDデータだが、実際はフル活用どころではなかったという。この理由はインフラが整っておらず、1回の分析で3~4時間かかっていたからだ。「試行的に大きなトレンドをつかむのに利用したくらい。せっかく溜めたデータも、1年くらいほぼ寝た状態でした」と、笹川氏は苦笑する。データ解析のソリューションで、必ず問題となるこの課題に、同社もつまづいてしまったわけだ。当然、せっかく取得したデータを活用しないのは会社として問題という声が挙がり、システム面ではインフラ刷新や分析ツールの導入を検討することにしたという。

 加えて、2010年の秋頃に同社が立ち上げたのが、部長以上のメンバーで構成された「情報分析プロジェクト」だ。これは外部の会社にデータ自体の解析を委託し、それを元に持っているデータの価値を把握するという試みである。「集めたデータでどんな分析ができそうか、有効性を検証することにしたんです」(笹川氏)。

 この試みを半年間進めた結果、データの有効性が浮き彫りになった。具体的には、「売れる時間は朝に集中」「エキナカはリピート率が高い」「顧客の9割は男性」など、今までの仮説や常識が実データを見ることでことごとく覆されたという。「たとえば、自販機は朝に売り上げが集中しており、われわれも『朝の茶事』のようなターゲット商品を出していました。でも、POSデータを調べると、夕方にも売れる山が来ていたんです」(笹川氏)。男女構成比に関しても、Suica IDの属性データを関連付けて調べると、実は7:3で女性比率が高かった。「しかも商品ジャンルごとに構成比がけっこう違います。缶コーヒーは9:1で男性が多いのに、紅茶は6:4になるんです」といった数多くの気づきが得られたという。

朝だけではなく、夕方にも売れる山が来るというトレンドが浮き彫りになった

 笹川氏は、「こうしたデータが有効と感じたのは、トレンド予想の精度が高くなると言うより、仮説が立てやすくなるからです。細かく分析し、いろんな切り口が見られるので、将来の予想がしやすいんです」ということで、過去に縛られない施策を打てるのが大きいと話す。この結果として、2011年夏からのインフラ刷新と分析ツールの導入に踏み切ったという。

(次ページ、営業部門がデータ解析の主導権をとる)


 

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