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【所長コラム】「0(ゼロ)グラム」へようこそ 第69回

(続)スティーブ・ジョブズはどこにでもいる

2011年09月16日 11時00分更新

文● 遠藤諭/アスキー総合研究所

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“勝つ”ことへの
きわめて強い執着心

 今回のジョブズ退任のニュースの中で、私が、思わず「おっ」と声に出してしまったのは、ロイターが8月25日に配信した「米アップル新CEO、クック氏の横顔」という記事である。

Tim Cook

アップル ティム・クックCEO。

 ジョブズは、アップルの舵を握る人間としてなぜティム・クック氏を選んだのか? 部下には非常に高いハードルを越えるよう求め、気に入らなければ情け容赦なくクビにするといわれるジョブズが、である。

 記事によると、ジョブズとクックには、ひとつ重要な“共有”事項があるそうだ。それは、

「勝つために全力」を尽くす

ことだという。彼らを突き動かしているのは、「名声やエゴ、カネではない。目的は勝つこと」だと、ロッドマン&レンショーのアナリスト、アショク・クマール氏は書いている。

 「ジョブズ」になるためのキーワードは、“勝つ”ことへの非常に強い執念かもしれない。これは、一般的な経営者が、競争相手よりも収益を上げ、株価を高めて、株主に貢献する、というような生やさしい話ではない。

 「ビル・ゲイツ」が“勝つ”ことに執念を燃やす人物であることは、誰でも理解しているだろう。マイクロソフトの歴史は、ライバル駆逐の歴史だったと言ってもいい。新しい市場ができてくると、必ずその領域に入って執念深く戦い続け、最後にはその領域を取ってしまう。

 「ワードパーフェクト」からはワープロ、「ロータス」(Lotus 1-2-3)からは表計算、「ノベル」からはネットワーク、プログラミング環境でも「ラティス」や「ボーランド」からシェアを奪った。そして、いまもさまざまな相手と戦い続けているのはご存じのとおりだ。

 とかくマイクロソフトと比較されるグーグルは、商売っ気のないトップ画面や創業者2人の物腰から、純粋にサイエンスとテクノロジーを追求している会社だと思われがちだった。しかし、このグーグルの創業者たちも、実際には“勝つ”(シェアを取る)ことに関して、異常とも思える闘志を燃やす人たちだ。

 グーグルを最初期から追っているジャーナリスト、ジョン・ヒールマン氏によれば、いちばん最初の創業間もない頃に、すでに「底なしの野心」を彼らに感じたという(『The True Story of the Internet』Discovery Channel)。『プラネット・グーグル』(ランダル・ストロス著、吉田晋治訳、日本放送出版協会刊)でも、“勝つ”(シェアを拡大する)ためならプライドを投げ捨てて、何がなんでも手に入れようとすると書かれている。

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 いまや化け物みたいな売上げ規模になったアップルも、世界をまるごとインデックス化してしまったグーグルも、その先輩格にあたるマイクロソフトも、“勝つ”ことに対する非常に強い執着を持ってやってきたのだ。

 何をいまさらと言われるかもしれない。だが、“勝つ”ことへの執念と情熱、そのために費やす膨大なエネルギーこそが、技術を育て、未来を作り出してきた大きな原動力のひとつなのだ。そして“勝つ”という目標が強烈であればあるほど、どっしりと長期的なレンジでモノを見ることができ、最適な技術が出てきたときに、最良のデザインで製品化することができる。

 ジョブズ引退で日本が学ぶべきは、いくらか忘れかけている、この“勝つ”ことについての強い執着かもしれない。最近のアップルやグーグルを取り巻く知財がらみのニュースを眺めていると、そのことを強く思わざるをえないのだ。


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