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【所長コラム】「0(ゼロ)グラム」へようこそ ― 第74回

Wikipediaでわかる日本コンテンツの“クールジャパン度”

2011年11月17日 16時47分更新

文● 遠藤諭/アスキー総合研究所

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Wikipedia


 Wikipediaは、ご存じのように利用者によって作られるネット上の百科事典である。これの便利なところは、1つの単語や事柄に対して各言語のページが作られていて、その意味や捉えられかたについて、各国・各地域での違いがわかることだ。画面の袖にある「他の言語」をクリックするだけなので、少なくともその言語のページを閲覧することはできる。

 たとえば、「バズワード」という言葉をIT業界の人たちはよく使うが、日本語の「バズワード」と英語の「buzzword」ではまるで意味が違っていることがわかる。Wikipedia日本語版では、「ゲーム脳」、「Web 2.0」、「クラウドコンピューティング」、「ロングテール」など、具体的に説明できる例が挙げられているが、英語版では、「Going Forward」、「Leverage」、「Next Generation」、「Paradigm shift」、「Incentivize」など、抽象的な単語ばかりだ。

 共通して挙げられているのは「ロングテール」(Long Tail)くらいのものだが、これは、もともとクリス・アンダーソンが指摘した(命名者はNetflix社長のReed Hastings氏だと言われる)ちゃんと説明可能な単語だったはずである。それが、いつの間にか抽象的なイメージで使われるようになり、めでたくbuzzword殿堂入りをはたしたのだろう(日本では「マネタイズ」あたりが、そろそろこの領域かもしれない)。

 このWikipediaの他言語版だが、日本語や日本の事柄についての解説があるということは、その言語を使っている人たちに対して、説明に足る価値が生じているのだといえる。単純にある単語がその地域に広がっているか否かに関しては、検索数やリンク数、ウェブマーケティング的なツールのほうが調べられるだろう。だが、Wikipediaに項目があるということは、語句が咀嚼されて、その言語の一部として同化していることを表している。そういう特別な意味が、Wikipedia各言語版にはあると思う。


他言語展開コンテンツNo.1は
『ドラゴンボール』と『ONE PIECE』

 さて、こんな話を書いているのは、日本のコンテンツの海外への広がりについて調べていたからだ。いろいろなアプローチを試している中で、簡単なプログラムを書いてWikipedia日本語版の全項目について、他言語でのページ作成状況を集計してみたのだ。下の図は、わかりやすい例として『ドラゴンボール』などの日本のビッグタイトルや『初音ミク』、『萌え』などのコンテンツ関連語、いまどきの一般的のコンテンツの例としてTBS系のアニメ番組について拾い出したものである(オタク系が充実していますからね)。


日本コンテンツの他言語版Wikipedia展開状況
Wikipedia日本語版(2011年10月27日現在)で各コンテンツや関連語の他言語ページの作成状況を表にしてみた。オレンジ色のセルが、当該言語のページがあることを示している。

 横軸は、ここで選び出したすべての項目に関して、その言語版の多い順となっている。英語、中国語が圧倒的に強いことが一目瞭然で、次いでスペイン語、フランス語、ドイツ語、イタリア語などのヨーロッパのオタク先進国の言語が並ぶ。オタクエリートだと思われる北欧勢では、フィンランドが1つ飛び出していることもわかる。

 中国語・韓国語など、東アジアが1つのグループになるのは明らかだ(アジア第一グループとでも呼ぶべき言語である)。韓国語版に掲載された語句も多く、わずか10年ほど前までは韓国で日本のコンテンツが制限されていたとは思えない。一方で、アジアでも地域によって日本コンテンツの傾向が異なるのはご存知のとおりだ。

 このデータを見ていると、たとえば、アラビア語のページが作られたかどうかが、そのコンテンツが世界へ広がる1つの通過点になるように見える。すでに世界中に広がったともいえる『ドラゴンボール』は、スロベニア語やハイチ語、サルデーニャ語にまでページが作られている。順当に広がりはじめている『初音ミク』だが、ロシア語のページがまだのようだ。次のコンサートは、ロシアのコスプレの聖地ヴォロネジでやるのがよいのではないか?

 Wikipediaで他言語ページが作られているということが、その言語を使う地域での市場性をダイレクトに表現しているのではない。そのコンテンツが好きな人物がたった1人だったとしても、Wikipediaに自らの言語のページを作れてしまうからだ。英語のページだけは作られているというケースも少なくないので、その地域の英語力も影響するかもしれない。しかし、この他言語ページの有無こそが、日本コンテンツの何たるかを知る手がかりになるのではないかと思う。

 JAPAN EXPOに出かけたときに、「日本のコンテンツがなぜフランスで受けるのか?」について、何人もの人たちに聞いた。いろいろな答えがあったのだが、印象的だったのは、フランスでの日本マンガブームの生みの親といえるドミニク・ヴェレ氏へのインタビューだった。彼は、スーパーマーケットでの消費財の購入率や1人あたりのマクドナルドの消費量が世界でもトップクラスとなった現在のフランスでは、日本の私小説的なマンガによって、若者たちは魂の部分を取り戻せるからではないかと言ったのだ。

 それを示すように、萌え系など、日本でしかありえないような私的な設定の作品が、大物映画監督の作品よりも多く他言語のページが作られていたりするのである。このデータ全体を見ると、ハリウッドやディズニーを中心にした米国コンテンツが圧倒的に世界を支配していることを再認識させられる。だが、それとは違うもう1つの大きな流れを描き得るのが、日本コンテンツだと思う。米国のステーキやハンバーガーの世界に対して、寿司や豆腐の世界が存在し得るということだ。

 この部分、つまり日本のコンテンツのどこが世界の人々の心に刺さっているかを知ることは、とても大切なのではないか? 何かを売りたい人は、自分の売りたいモノを考える前に、買う人を見るべきなのだ。

 次回は、日本のアニメやマンガや映画など、Wikipediaにある日本コンテンツすべての他言語対応状況を見てみることにする。ちなみに、「クールジャパン」という項目は、英語とドイツ語の2つしか他言語ページが作られていない。

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